コロナショックで新たな就職氷河期を生まないために① --- 藤井 哲也

2020年05月11日 06:01

5月大型連休中の京都中心部の商店街。いつもは多くの人で賑わう街も静けさが漂う。

コロナ倒産危機、コロナ失業が連日のように報道されています。各地の助成金センターや自治体、商工会議所などの窓口には給付金や補助金に関する相談や申請の長蛇の列、パンク状態。景気動向指数も3月、4月と大幅に低下し、過去類を見ない急速な景気悪化となっています。

筆者が住む京都でも、経済界の重鎮・立石義雄前京都商工会議所会頭(オムロン名誉会長)が新型コロナウィルス感染症により4月21日に亡くなられました。以来、地域の事業者が持つ危機感が高まった印象を受けており、5月大型連休中、普段は活気に溢れる市中心部の商店街も人を見かけることは稀でした。

直近の景気動向指数

今、急速に景気が悪化しており、新たな「就職氷河期世代」が生まれるのではないかという懸念が広がっています。実際、データをみても、旅館・ホテル業や飲食業など14業種で景気DIが過去最悪に陥っています。

帝国データバンク「TDB景気動向調査(全国)」を用いて筆者作成

就職氷河期世代。バブル崩壊後の日本では、失われた10年の中でたまたま不況期に社会に出た世代が、景気回復期を経てなお他世代と比較して、非正規雇用率が高く、平均所得が低いということが起きています。

政府推計によれば支援対象者は約100万人。2003年から現在に至るまで、筆者は就職氷河期世代支援に、就労支援会社の代表として、政治家として、政策ロビイストとして取り組んできました。

本稿では新型コロナウィルス感染症の影響で新たな就職氷河期世代を生まないために、どのような対策を講じていく必要があるのかを論じます。

写真AC:編集部

1. 就職氷河期が生まれることによる日本社会への影響とは?

まず、就職氷河期が生み出す社会が被る影響、損失について触れたいと思います。

一つ目は、多くの政策予算が必要になることです。

就職氷河期世代が生まれることで、多額にのぼる社会保障関係費や雇用労働対策費が長期間にわたって必要となります。2003年に「若者自立挑戦プラン」に基づいて全国各地に若年者就労支援センターが設置し施策展開が開始されたことを皮切りに、2000年代後半には失業給付期間を終えた方などに対するセーフティネット施策として訓練受講給付金付き職業訓練事業(基金訓練、求職者支援訓練)や、雇用調整助成金事業などが始められました。こうした雇用対策事業に一定の財源を必要としてきました。

加えて、2020年度からは3ヵ年にわたる就職氷河期世代に対する集中支援期間として、施策推進に動き始めたばかりです。一億総中流家庭を築いてきた親世代も他界し、低貯金・低年金の就職氷河期世代がこのまま老齢期を迎えることによって、生活保護や医療費などの社会保障関連経費が増大することが見込まれることが関係しています。

仮に就職氷河期世代がこのまま高齢化することで、将来的には十数兆円から数十兆円規模の新たな財源が必要になるとも民間機関が試算しています。2019年現在すでに年間120兆円を超える社会保障給付費を予算措置していますが、厚生労働省の試算では2040年に190兆円程度の予算を必要とすることが見込まれます。この試算額に加え、氷河期世代のための財政措置が必要になるということです。

二つ目は、更なる少子化を助長することです。

就職氷河期世代の特徴は、生活が不安定であると言うことです。これは言うまでもなく非正規労働をしている方が増えているからです。また同一賃金同一労働の議論でも明らかになってきたように、正社員同様の職務をしていたとしても非正規労働者は低い賃金で働いています。

こうしたことの結果として、非正規労働者は不安定でかつ、低賃金、低貯金の生活をせざるを得ない状況となっています。

厚生労働省の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、結婚しない理由や理想とする子どもを持たなかった理由として、常に上位にあるのが、「経済上の理由」や「結婚資金がないから」と言った回答です。結婚して家庭を安定させる見通しがないことや多くのお金を必要とする子育てに対する不安が、婚姻率を下げ、出生率を下げる大きな要因となっています。

就職氷河期世代は、たまたま第二次ベビーブーム世代を含んでいます。そのため、この世代の婚姻率が低くなり、もしくは晩婚化し、出生数が減ったことは、日本社会の今後の持続性に大きな影響を及ぼしたと考えられています。今回のコロナショックによって新たに就職氷河期世代が生み出されるとすれば、再び不安定な生活基盤の中で、結婚や出産に躊躇する若者が増えると考えられます。

そして三つ目は、中長期的にも経済活動を停滞させることです。

本来、就職氷河期世代である30代後半から40代後半は働き盛り。社会や会社の中では中核的なポジションについてバリバリ働いている方も多いと思います。また、それなりにビジネススキルも身につけ、生活基盤も確立し、老後まで期間もあることから消費性向が高く、経済活動の中心的な役割を担うことになっています。

もし就職氷河期でなかったとしたら、もっと多くの人たちが活躍し、もっとお金を稼ぎ、もっとお金を使っていたのではないでしょうか。社会や企業が高いポテンシャルを持つ人材を雇用し育成すれば、今頃、もっと社会の労働生産性は高まっていたかもしれません。世の中を変える新たなテクノロジーを生み出していたかもしれません。

地域に目を向けても、まちづくりの担い手となっていておかしくない就職氷河期世代は、目の前の生活でいっぱいいっぱいです。とても地域活動にまで協力することができません。

いま、新たな就職氷河期が生まれるとしたら、将来の経済活動を再び低迷させる要因になってしまうはずです。

藤井 哲也(ふじい・てつや)
1978年生まれ。株式会社パブリックX代表取締役。京都大学公共政策大学院修了。就労支援会社の経営、地方議員、政策ロビイング活動などを経て2020年4月から現職。雇用問題、人事労務に関する著書・寄稿多数。

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