コロナショックで新たな就職氷河期を生まないために② --- 藤井 哲也

2020年05月12日 06:00

>>>コロナショックで新たな就職氷河期を生まないために①はこちら

2. 新たな就職氷河期世代が生まれるのか?

今般のコロナショックは、新たな就職氷河期世代を生む可能性があります。有効求人倍率と相関度が高い景気動向が、今後1年間にわたって低空飛行になることが見込まれています。

いらすとや

帝国データバンクによる最新の景気動向調査によると、少なくとも今後1年間は景気DIが低い状況が続くと予測されています。1年で不況期を乗り越えられれば、リーマンショック時同様に若者にとってキャリア形成の挽回の余地は残されますが、果たして、景気浮揚ができるのでしょうか。不安が残ります。

万が一、新型コロナウィルスを抑えられなければ、延期した東京オリンピック・パラリンピックも中止に追い込まれるでしょうし、来たる総選挙にも多大な影響が出ると考えられます。政局の混乱は経済対策にも少なからず影響を与えるのではないでしょうか。

今後の景気動向指数(DI)の見込み

帝国データバンク「TDB景気動向調査(全国)」を用いて筆者作成

一方で楽観視できる材料もあります。日経ディスコが今年3月下旬に実施した調査『新型コロナウイルス感染拡大による採用活動への影響調査』によると、2021年度新卒採用活動にコロナ大手企業の採用意向に目立って大きな変化は見られません。オンライン選考を積極的に取り入れて、なんとか採用活動を継続しようとする動向が見て取れます。例えば、滋賀県主催で5月下旬に開催するオンライン合同企業説明会は、参加企業を募集した当日中に30枠が全て埋まりました。

しかし、5月大型連休が明け、ここにきて新卒採用活動を一時中断する大手企業も出始めています。収束に時間がかかるようであれば、2021年度採用だけではなく2022年度以降の採用活動にも影響を与える可能性があります。

また今回、短期間で景気が激変した経験が、企業の処遇改善活動に与える影響はどれくらいのものになるかは未知数です。収束後も景気回復や経済好況が一定期間持続することが予め見込めなければ、連鎖的に採用意欲は減退し、中長期的に新規雇用は絞られ、新たに就職氷河期世代が形成されてしまう可能性が出てきます。

キャプションANAグループも採用活動の一時中断を決めた。追随する大手企業が出てもおかしくない(ANA公式サイトより)

3. 新たな就職氷河期世代を生まないために

新型コロナウィルス感染症による新たな就職氷河期世代を生まないために、政府や自治体に求められる施策を以下にまとめたいと思います。

① 雇用を守り労働者の生活を守る

雇用調整助成金の拡充や、みなし失業制度、持続化給付金制度の創設、貸付制度拡充などが立て続けに新たな施策が採られています。

リーマンショック後の対策でも一定の効果があった求職者支援訓練制度は生活保護に陥るのを防止するセーフティネットになり得ると考えます。2020年度から3ヶ年かけて進められる就職氷河期世代支援の枠組みの中で、訓練期間短縮やオンライン上での実施を可能とするなど要件緩和されています。新たに職を失った方々にも積極的に活用されるように広報するとともに、ソサエティ5.0の時代を迎えるにふさわしい訓練内容に見直していくことが求められます。

② 収束後こそ必要となる大規模な財政出動

中長期に及ぶ影響が生じると企業が判断した場合、採用意欲の減退を招きます。収束後こそ大規模な財政出動を図って景気の下支えに全力で取り組むことが必要となります。

すでに国はコロナ収束後を見据えて、1兆7000億円近くにのぼる「次の段階としての官⺠を挙げた経済活動の回復」施策として、「(仮)Go to キャンペーン事業」を4月末に与野党協力の下で補正予算を可決しています。この中で、観光、飲食、イベント、商店街の振興対策を講じています。これら施策が奏功すれば経済も回り始めるはずです。

自粛によって減少するGDPについて1ヶ月間で約6兆円(GDPの約1%)と試算する民間機関もあります。筆者は現在、就労支援と企業の人材確保支援の現場で働いており、事業者からは悲痛な声を聞き、学生や求職者の焦燥感も高まっていることを肌身で感じています。

緊急事態宣言が解けても、根本的に問題解消につながるワクチン開発などができるまでは、基本的にはソーシャルディスタンシングを行い、大勢が集まることもできない中では、事業継続を諦める事業者は今後も出続け、合わせて失業者も出てくることが予想できます。

働きたくても働き口がないということを回避するためにも、給付事業や補助事業は一過性のものに終わらず、必要であれば躊躇せず、断続的な支援策を講じていくべきだと考えます。

③ 新卒や若年者採用に対する雇用促進

万一、早期収束せず、数年間にわたり有効求人倍率が低迷するようなことになれば、新卒を中心に若年者に対する就労支援施策が求められることになります。20代のキャリア基盤を築く時期にある若年層に対して集中的に支援を行うことで、第二の就職氷河期世代が生まれることを防いでいかねばなりません。

2020度から始まっている就職氷河期世代向けの支援施策の中で、採用すれば10万円、採用後6ヶ月間定着すれば50万円を民間委託事業者に支払う成果報酬型就労支援事業が含まれています。この事業を新卒や若年層にも適用し雇用促進を図っていくことも必要になるでしょう。

また非正規雇用の一機能として考えられている「事前選抜機能」を踏まえると、採用前提型のインターンシップを認めていくなど、取りうる限りの労働施策が求められるようになります。

④ 職務類似経験に対する評価を制度化

子育てやNPO、自治会などの社会的活動は、これまで周囲の人から「人格的な評価」をされることがあったとしても、ビジネススキルとして評価されることはあまりありませんでした。しかし近年、調査研究によって、ビジネススキルは職務を通じてのみでなく、社会的な活動の中でも獲得することがわかってきました。

筆者の知人に新卒で思った仕事に就けず、建設現場で数年間、非正規の仕事に従事した後、WEBエンジニアに転身した方がいます。建設の仕事で培った1ミリ単位での緻密な作業をした経験が、WEBサイトを構築する際の、コーディング作業やプログラミングに生きていると聞きました。福祉事業所で非正規として働いてきた方が警備会社に正社員で転職し、介護の知見を生かして、セキュリティサービスの企画や営業に役立っているという話も聞きます。

現在、そうした考え方が職業相談や職業紹介の現場で活用されることは余りありません。「ジョブカード制度」は職務経験をカウンセラーが評価しますが、職務外の諸活動を評価する仕組みは構築されていません。もし、職務外経験の評価を制度化することができるならば、新たな就職氷河期世代を生まないだけではなく、すでにいる就職氷河期世代の支援施策としても効果的だと考えられます。

コロナショックによる景気後退を早期に脱せず、収束後に有効な景気刺激策が講じられないようなことになれば、再び就職氷河期世代が形成されてしまいます。まずは早期収束させ、その後は適切な経済対策と雇用対策を進めなければなりません。

来年度予算策定に向けた骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)も策定が進められていますが、新たな就職氷河期世代を生み出さないための政策パッケージを期待したいと考えています。

藤井 哲也(ふじい・てつや)
1978年生まれ。株式会社パブリックX代表取締役。京都大学公共政策大学院修了。就労支援会社の経営、地方議員、政策ロビイング活動などを経て2020年4月から現職。雇用問題、人事労務に関する著書・寄稿多数。

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