コロナの生活支援が届かない本当の理由

2020年05月13日 06:00

Photo by voice_watanabe

外出自粛が長引く中で、政府の生活支援策が届かないことに不満や不安を持っている方も多いと思います。

そういう中で、「○○が悪い」というようなコメントもSNS上で多く見られるようになってきた気がしますし、役所への直接の苦情も相当激しいものになっているようです。

果たして、今どこかに悪者がいるのでしょうか。
役人がサボっていたり、政治家が私腹を肥やそうとしていたり困っている人を無視して支援団体の利益ばかり気にしているというなら、そういう悪者を叩けばよいと思います。

でも、僕が知る限り、国の役人も自治体の役人も必死で働いています。
政治家の人たちも国民の生活のために必死に考えています。
その上で、うまくいっていないことがたくさんあります。

だから、誰かを悪者にしても、少し気持ちはすっきりするかもしれませんが、生活はよくなりません。

本当に必要な支援策が必要な人に届くために、何が問題なのか、どうやったら届くのかを考えたいと思います。

1.いま必要な生活支援の政策

1ー① 支援策の条件緩和などの改善

制度をスタートしてからも必要な改善は常に必要です。
例えば、今は以下のようなことが議論されています。

■ 雇用調整助成金の見直し
例えば、企業が従業員に支払った休業手当の最大100%を助成することに拡大しましたが、実は上限額があって従業員1人当たり1日8,830円なので、従業員の賃金の日額がこれを超えると企業の負担が発生するという課題があります。報道によると政府はこの上限額を引き上げる方針です。

■ 持続化給付金の要件見直し
前年同月比事業収入「50%以上減少」した企業などが対象なので、30-40%減少して苦しい企業には支給されないといった課題があります。

また、「50%以上減少」は事業収入だけを見ることになっていて寄付金収入などは対象外です。NPOなど営利企業以外の団体も制度上は対象になっていますが、元々収入のほとんどが事業収入ではなくて寄付金であるような団体で、寄附を予定していた企業の経営が厳しくなって寄附がもらえなくなってNPOの事業運営が厳しくなるようなケースは使えません。

1ー②  外出自粛長期化などに対する新たな支援策

これまでの支援策だけでは足らないという声も多いです。
今、検討されている新たな支援策は、例えば以下のようなものが話題になっています。

■ 失業していないくても、労働者本人が雇用保険の失業手当のような給付を受ける仕組み
■ 企業への追加資金
■ 学生の支援
■ 困っている人の相談支援・ソーシャルワークのオンライン化と民間支援団体への資金(特に法人寄附が減っています)

1-③ 実務を動かすための予算

実務が滞っているものの例を挙げるとキリがありませんが、ほとんどの仕事が滞っています。

昔と違って行政改革が進んで、公務員の世界もほとんど余剰人員がなくて通常業務を処理するのでギリギリなのです。少なくとも今の仕事のやり方を前提とすると。

コロナ対応で増えた業務は、色んな部署からの応援などによる体制強化をして、長時間の残業と休日出勤で回していますが全然追いつきません。

■感染者情報の集計(東京都の数字の修正は現場のパンクによる)
■医療機関へのマスク配布(システム作って対応中だがうまくいくかどうか)
■マスク配布(全世帯に2枚の布マスクはまだ4%しか配ってない。優先度下がっているので自然消滅かもしれませんが)
■10万円の特別定額給付金の支給窓口(マイナンバーを持っていない人も多い)
■雇用調整助成金(窓口への相談殺到、電話もつながらず)
■その他の助成金(元々、現場の人員が少ないので既に処理不能)

1ー④ 対象者ごとのキュレーションの予算(支援情報を必要な人に届くように伝える)

支援策がたくさんありすぎて、結局どれを使ったらよいのか分かりません。

そして、行政のHPを見ても、おそらく普通の人は理解できないでしょう。
なぜなら、行政の支援策の詳細が書いてある書類は、そのほとんどが都道府県、市町村、民間団体など支援を仕事として行うプロ向けに書かれたものだからです。この書類を通知や事務連絡と言いますが、だいたいそれがまとまっているページをつくるのです。

一般の人向けに翻訳した資料を作成すればよいのですが、霞が関はそういう仕事をこれまでほとんどしてきていないので、得意な人がいません。

支援策を作っても必要な情報が届かないと、困っている人は困ったままです。

また、情報をキャッチしても理解しにくいと、対象にならない人が相談に来ることにもなりかねません。生活者の方もガッカリしますし、不要な窓口や相談電話の混雑も招きます。

これを解決するためには、役所の広報がまずいから広報を民間のプロに任せればよいという単純な話ではありません。

全部の支援策が一覧でキレイに見えるようになっていても解決しないからです。

行政の支援策は山ほどありますが必要な情報が人によって違うのです。
全部必要なわけではないし、特に関係あるものは詳しい必要があります。

子育て中のお母さんと中小企業経営者では必要な情報は違いますよね?

また、前提となる知識や目的が異なるので、分かりやすい表現の方法やとっつきやすいデザインも違いますよね?

ターゲットをしぼった上で、その人たちに必要な情報を対象者の人の前提知識を踏まえて分かりやすくまとめ直す必要があるのです。

この仕事は、対象者の生活や対象企業の実態をよく知っている民間企業や団体でないと難しいと思います。

例えば「子育て中のお母さん」「具合の悪い人(コロナ疑い)」「ひとり親家庭」「学生」「外国人」「高齢者」「中小企業」「介護事業者」「飲食店」「NPO」など、ターゲットは多種多様です。

ボランティアや善意でやろうとしてくれている民間団体もありますが、これは企業でいうと広告宣伝費みたいなものですし、お金を払ってちゃんと持続的にやってもらった方がよいでしょう。

国の事業としてやれば請け負った民間団体は各部署への直接の問合せもかなりしやすくなります。行政の支援策は山ほどありますが、担当部署がたくさんあって、正確な情報をつかむための問合せも、時間と労力がかかります。

また、対象者が外国人だった場合には、さらに色々な言語への翻訳の費用も追加で必要になります。行政情報の多言語化は国や自治体も取り組んでいますが、そもそも日本語の行政情報が普通の日本人には理解できないので、分かりやすく表現し直してから、さらに翻訳をする必要があります。

つまり、「対象者ごとのキュレーション機能を民間団体に委託」しないと、必要な人に情報は届かないのです。

2.生活支援の中身はおそらく最適化していく

1-①と1ー②の支援策そのものの内容については、色々な人の声を与野党問わず国会議員などが受け止めて、どんどん改善をしていくというサイクルができてきていると思っています。すごく困った人にだけに30万円配る支援策が、一律10万円の給付金に変わったのは、その大きな一例ですが、他にもどんどん改善が繰り返されています。

これは、本当に素晴らしいことです。

本当に国民に届く理想の政策づくりを20年追い求めてきた僕にとっても本当に嬉しいです。

おそらく、個々の支援策については上記のサイクルを回していけば、最初から100点のものができるかどうかは別として、PCのアプリが販売後にパッチをあてていくように、時間とともに最適化していくだろうと僕は思います。

3.クリティカルだけど誰も気にしていない大事なこと

あまり焦点が当たらないので、二次補正予算の議論でも話題になりにくいですが、実はクリティカルなのは1-③「現場の実務の体制」と1-④「情報の伝達」なのです。

報道だけでなく、私のところに直接届く国や自治体の現場の実態を聞くと、
■ 感染症対策そのもの
■ これまでに開始した生活支援策
いずれも実務が全然回っていません。

現場の実務担当者(国と地方両方の役人)に、今起こっていることは、
■ 生活者からの「いつになったら受け取れるんだ」という罵声
■ 政治からの「早く配れ」という強い叱責とプレッシャー
です。

首長によっては、現場の指揮命令権や予算編成権を持っているにもかかわらず、住民に支援策が届かないことを現場に責任転嫁する発言も始めています。

まさに、インパール作戦のようです。
あるいは、B29を竹やりで打ち落とすがごとしです。

この状況を放置したまま、さらに二次補正で新たな支援策を上乗せした場合には、

■公務員が体や心を壊す
■民間の支援者がボランティアで疲弊する
■国民には依然として支援策が行き届かない(これが一番問題です)

という誰も幸せにならずに借金だけが膨らむということになります。

4.現場の実務のための予算が必要な理由

なぜ、現場の実務のための予算が必要かというと急いでいるからです。

通常でも、制度を作る時は、

内容を検討し、予算を作り、現場の実務を決めて、体制を作り、対象者にちゃんと知らせる、という一連のサイクルを回して初めて制度をスタートします。これ、通常1~2年くらいのスパンで行う仕事なんです。

そして、制度がスタートしてから、対象者が申請をして、役所が審査して、支給という流れになるのです。申請の量を見込んで体制も整備します。

こういうそれであれば、大幅な外注費の計上などなくても役所の既存の戦力でなんとかいけるでしょう。

しかし、今は通常1~2年かけてやる仕事を数週間でやろうとしているのです。
さらに、全く見込んでいない大量の申請が届いている状況なのです。

5.二次補正予算に必ず必要なこと(まとめ)

このような悲劇を起こさないために、1ー③と1ー④について、二次補正予算に以下のようなものを具体的に盛り込むことが必要です。

(1)国の事務の外注費を十分に計上する

当座人力に頼らざるを得ないだろうから、外部人材を活用するほかないと思います。仕事がなくなった人や休業中の人に働いてもらうことの雇用を創出する効果もあるでしょう。

臨時職員を雇用するという手段もありますが、その場合は役所の旧態依然押したやり方を続けることになるので、業務を外部委託して効率的なやり方を民間事業者・民間団体と役所が一緒に考えるのがベストです。

(2)人力ではなくITシステム化などの経費を十二分に計上する

そもそも、人海戦術で何とかするのを止めるべきです。コロナ以降も使えるものもあるので思い切って計上すべきです。

(3) 県や市の事務の外注費を大幅に確保できるように大きな交付金を計上する

使途は自治体の実情に応じて使えるように使途が限定される補助金ではなく交付金がベストです。既存の交付金や補助金で外注費を認めていないものがあれば緩和することもセットで行う必要があります。

(4) 困っている人のための民間支援団体の活動資金と相談支援者がオンラインで支援をできる体制を確保する(システム導入支援、研修など)

例えば、東京都助産師会が子どもを産んだお母さんの産後ケアの相談をテレビ会議システムを活用して実施するというよい取組をしています。

自殺対策を行っている一般社団法人「いのちを支える自殺対策推進センター」の調査によると、コロナの影響で自殺防止の相談を受ける民間団体は40%が休止、44%が活動制限をしています。

NPOなど、民間支援団体の事業資金が厳しくなっています。特に、企業の経営状況悪化と先行きの不透明さから、法人からの寄附が減っています。困っている人が増えるのに、支援をする社会的資源も減ってはダブルパンチです。

(5)対象者ごとの情報のキュレーションの委託費用を十分に計上する
これは企業で言うと広告宣伝費ですが、必要な理由は5.に書いたとおりです。

通常1~2年かけてやる仕事を数週間で実現。役所の体制を極度に超える大量の申請が届いている。このため、生活支援策そのものに加えて、(1)行政事務の外注費、(2)ITシステム経費、(3)自治体への交付金、(4)民間団体支援と各種相談のオンライン化の経費、(5)広告宣伝費、を二次補正予算に十分計上すべき。それがないと、どんなによい支援策を作っても、いつまで経っても国民に支援が届かない。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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千正 康裕
株式会社千正組代表取締役、元厚生労働省

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