PCR検査信仰は「平和ボケ」~空港での検疫検査の充実こそが死活的国益

2020年05月16日 11:30

Dang Tran Hoang/flickr

テレビのワイドショーのPCR信仰に国民が洗脳されていると見た方々が、54兆円かけてもPCR検査を全国民に施せば安心が得られる、という「国民運動」を起こそうとしている。この動きの危険性については何度か指摘した。

渋谷健司氏が賛同する54兆円全国民PCR検査に反対する

渋谷氏と全国民PCR検査推進の小林慶一郎氏が諮問委入りの騒然

こうした考え方による「平和ボケ」と言ってもいい現実感覚の喪失が、たとえば「政府は新型コロナウイルス感染症の収束をにらみ、抗体検査やPCR検査によって非感染が確認されたビジネス渡航者に「陰性証明書」を発行し、中国などへの渡航を容認する方向で検討に入った」、といった雰囲気を生んでいるのだろう。

政府、ビジネス渡航解禁を検討 新型コロナ非感染証明が条件(時事通信)

いくら出国する際に陰性である可能性が高いとしても(ただし何日も前の検査ではそれも怪しい)、帰国してきた際の陰性が証明できなければ、日本のリスクは高まる一方ではないか!

すでに『現代ビジネス』でも書いたが、非常に重要なので、何度も書きたい。

緊急事態宣言が「画期的成果」を出した今、これからの政策の話をしよう(現代ビジネス拙稿)

空港での検疫体制の充実こそが、今後の新型コロナの蔓延の抑え込みと社会生活活動の回復にとって、死活的に重要な国益である。

54億円全国民検査は重要ではない。出国する前に検査をしてあげることも重要ではない。帰国する者・入国する者が陽性でないかどうかを識別する体制を持続可能なものに高めることこそが、死活的な国益である。

現在の日本の劇的な新規感染者数の減少は、国民の多大な努力によって成し遂げられたものだ。しかし3月中旬の海外入国者の停止が、減少を可能とする大きな土台であったことも、間違いない。逆に言えば、3月下旬に見られた急激な新規感染者数の増加は、相当程度に海外からの帰国者によって作り出されたものであることが、すでにわかっているはずだ。

こういうと「2週間の自宅隔離をお願いするかもしれません」と言った反応をするのかもしれない。だがそんな誰が守るのか定かではないその場限りのお願いが対策になるのであれば、今までだって渡航制限などかける必要がなかった。

実は現在は、限定的な形で入国してくる者の数が少ないため、対象者全員にPCR検査を行っている。だが、そのため対象者は4月の帰国者が多かった時期は数日を空港の段ボールベッドで過ごし、当時は話題になった(参考画像は朝日新聞ツイッターより)。

いずれにせよ、このやり方では、入国者が増えた際に、全く持続可能ではないことが明らかである。

やむをえなければ、待機宿泊施設の大幅拡充も仕方がないのかもしれないが、そうだとすればそこに資源投入することも「空港におけるPCR検査体制の充実」の不可欠の一部となる。

あるいは従来のCTスキャンをはじめとする複数の簡易検査方式を全員強制とし、二段階・三段階方式で陽性者を入国時に識別する検疫体制の確立が代替案になるのであれば、それを研究するべきだろう。その場合でも施設面への影響は少なくないと思われるので、信頼できる相手国とは搭乗時における検査の証明をもって入国許可とする相互協定を結んだり、航空機内での検査と待機を可能にしたりする措置などが必要になるのではないか。

いずれにせよ、空港での検査体制の確立がなければ、緊急事態宣言下の国民の努力も水の泡である。水際対策を効果的に行うために、財政・施設・人員を戦略的に配分し、集中的に精緻なやり方で検査体制を充実させていくことこそが死活的な国益である。

成田空港の駐機場(Melv_L – MACASR/flickr)

私は国際政治学者としてかなり頻繁に海外出張をする生活をしていた。世界中の航空会社が苦境に喘いでいる現状は、私にとっても辛い。

しかし全世界で460万人以上の感染者がいる現実から目をそらし、「日本国内の新規感染者数が減った」「このビジネスマンは一週間前の検査で陰性を出した」といった理由で機械的に平時の人の移動を復活させるのは、「平和ボケ」以外のなにものでもない。冒険的な方法で人の移動を回復させることは、航空会社にとっても決定的な致命傷をつくりかねないリスクを抱えることを意味する。

航空券に「検査税」を上乗せしてでも、空港における義務的な厳重検疫体制の充実を図り、それをもって航空路を使った人の移動の回復の条件とするべきだ。

PCR信仰者たちの机上の空論に惑わされ、かえって危険な「平和ボケ」に陥ることを警戒してほしい。ポスト緊急事態宣言の時代においてこそ、いよいよ本格的に、徹底して戦略的に資源投入して合理的な政策をとることが求められてくる、ということを肝に銘じてほしい。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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