新聞はプロパガンダ機関紙になってはならない:毎日“スターリン”記事

2020年05月17日 16:01

毎日新聞記事「スターリンを思わせる「政治検察」生む」を検証する

新聞は、論評の自由を有する。しかし、報道と論評は別だ。報道は「正確かつ公正」でなければならない(新聞倫理綱領)。論評のために、事実を捻じ曲げたり、都合のよい部分だけを切り取ってはいけない。

検察庁法改正案に関しては、事実の歪曲と疑われる報道が散見される。例えば、毎日新聞の記事これこそ不要不急 スターリンを思わせる「政治検察」生む検察庁法改正案 だ。

Wikipedia

記事では、憲法学者のインタビューに基づき、

1)まず、今回の改正案の「本質は、検察の巧妙な『政治検察』化」とのコメントが紹介される。

2)根拠として示されるのは、定年近い検察官が国政がらみの捜査にあたっているケースで、改正案(検察官の役職定年などを特例的に延長できる規定)によって何が生じるかだ。「検察首脳ポストに自分もつきたい。でも間もなく定年退職が近いのでかなわない。でも、内閣に定年や役職定年の延長を認めてもらえれば、そのポストにつけるかもしれない、という事態になれば」、内閣の顔色を伺うようになりかねないとする。

3)また、時の政権の疑惑が発覚したケースで、政権が「新設される定年延長の規定を使い、疑惑が時効になるまで意中の人物に検事総長を続けさせる、ということも運用上不可能ではなくなる」とする。

4)結論として「今回の法改正は、『公益の代表者』であるはずの検察を、(スターリン政権下のような)『政権の私兵』『政治検察』にする暴挙」ということだ。

しかし、この記事では触れられていないことがある。これまでも検察庁法上、検事総長など検察首脳の任命権限は内閣にあったことだ。

上記2)に関しては、これまでも、「検察首脳ポストにつきたい」と考える検察官は、内閣に任命してもらう必要があった。そのために内閣の顔色を伺う可能性があるとしたら、これまでもあったことだ。上記ケースで、改正案により付随的に「内閣に定年延長を認めてもらいたい」との考えも生まれるかもしれないが、より大事なのは「内閣に首脳ポストに任命してもらいたい」だろう。

また、上記3)に関しては、これまでも政権は、意中の人物(定年前でさえあれば)を検事総長に任命することができた。

記事では、今回の法改正でこうした問題が新たに生じ、検察のあり方を根底から変えるかのように伝えているが、これは事実を歪めている。

もちろん今回の法改正により、「内閣の顔色を伺う」などの程度や機会が拡大する可能性は十分ある。しかし、それを指摘するならば、

  • 「これまでは、検察の人事案を内閣は尊重する不文律があって、検察の独立性と検察の暴走阻止の両面の均衡が保たれてきたが、今回の法改正で均衡が崩れる」というのか
  • 「これまでは、任命に際し顔色を伺う可能性があったが、改正後は、延長を考えて在任中ずっと顔色を伺う可能性が生じる」というのか

などの根拠を説明すべきだ。

こうした説明を抜きに、これまでも任命権が内閣にあることに触れず、事実を歪めた印象論で「法案の本質は『政治検察』化」と伝えるのは、報道ではなく、プロパガンダと呼ぶべきものだ。

筆者個人は、この法案を今国会で成立させるべきでないとの立場だ(前回エントリー『「#検察庁法改正案に抗議します」にも法案にも、反対する』は、情報検証研究所の成果ではなく、筆者個人の私見)。しかし、新聞が報道と称してプロパガンダ機関紙化していることは強く憂う。

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原 英史
政策工房 代表取締役社長

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