入札不正の現在位置:護送船団型から抜け駆け型へ

2020年06月03日 14:00

こんなニュースを昨日目にした。最近では見飽きたニュースである(NHKニュース「市の発注工事で官製談合か 市幹部や市議ら6人逮捕 東京 府中」)。

東京 府中市が発注した公園や道路の工事をめぐって、市の幹部が工事の最低制限価格を市議会議員を通じて業者に漏らしたとして、警視庁は府中市の幹部や市議会議員、それに業者ら合わせて6人を官製談合防止法違反や入札妨害の疑いで逮捕しました。

地方公共団体発注の公共工事の入札においては、多くの場合、上限である予定価格の他に下限である最低制限価格が付けられる。これは、予定価格を上回った入札を失格にするのと同様に、この水準未満の価格での入札を失格にする効果があるラインを設定するものである。

国の公共契約を規律する会計法、予算決算及び会計令にはそのような規定はなく、地方自治法及びその施行令において認められている地方公共団体の公共契約に独特の制度である(あまりにも安い札入れに対して、契約履行が確実にできるのかについて調査を行うという制度は国、地方公共団体共に存在する)。

最低制限価格の存在はすなわち落札率の高止まりを意味するので、少しでも支出を抑えたい首長の多くは最低制限価格の存在をよく思っていないが、工事や契約の実務に携わっている現場の職員の多くは、品質維持のために必要だと思っている。

この最低制限価格の漏洩事件が近年あまりにも目立つ。最近の入札不正事件の半分以上、いや3分の2以上を占めるのではないだろうか。

最低制限価格の漏洩はある特定の業者に対してのみなされるのが一般である。それは何故か。それは最低制限価格をピンポイントで知った業者は、この価格で入札すれば相当高い確率で受注者になれるからだ。

数千万円、数億円に上る公共工事の下限価格をぴったり当てるのは困難である。1円でも下回れば失格になる。積算能力の高い業者であればそれなりに近い額は導き出せるが、ピンポイントとなるとそうはいかない。予定価格から一定の計算式を通じて最低制限価格を出すのが一般的なので、予定価格が分かればよいが、それが非公表だとやはり難しい。

この最低制限価格の漏洩は、本来であれば競争によって決まるはずの価格が、特定の業者にのみ特定の情報が不正に与えられたことで歪められてしまうので、それは「入札の公正を害する」と評価され、刑法典上の公契約関係競売入札妨害罪や官製談合防止法違反罪に問われることとなるのである。

かつては公共契約に係る不正といえば、競争入札における入札談合と随意契約における癒着が定番だった。入札談合は、指名競争という、閉じられた(いつも同じようなメンバーという意味で)空間で業者間の協調関係によって生み出されるもので、かつては「談合天国」などと揶揄されるくらいに日本社会に蔓延していたものである(根絶された訳ではなく、今でもしばしば見かける)。会計法や地方自治法上、指名競争は例外的な位置付けなのにも拘らず、かつてはほぼ原則化されていた。随意契約も今では考えられないくらいに大甘に利用されてきた。

時代は変遷し、一般競争入札の徹底が図られ(とはいっても骨抜きにしている発注機関は少なからず存在するが)、随意契約は批判の目に晒され利用機会が極端に制限されるようになった。透明性を徹底できない随意契約には「不正の疑義」が生じる、といっても過言ではない状況となった。企画競争等、競争的な随意契約(この表現方法が適切かは疑問であるが)も多く登場するようになった。

公共契約をめぐる不正の性格も変遷した。護送船団的な入札談合ではなく、特定の業者が発注機関職員と通じて、あるいは議員を介在して、他の業者が知り得ない情報を入手し不正に受注を獲得するというタイプの不正が目立つようになったのである。冒頭に紹介した事件がまさにその典型だ。

その他にも、総合評価方式型の競争入札において発注機関職員から提案書記載の指南を受けて競争を有利に進めたとして独占禁止法違反(不公正な取引方法)に問われた事件もある。

競争入札の公告前に公告される内容を不正に入手することも同じ問題である。その業者のみ、実質的に公告期間が延長されているようなものであり、競争入札において不当に有利な立場にするからである。その他、競争入札の参加資格や総合評価方式における点数の付け方についての恣意的な操作がよく問題になる。

この特定の業者のみが不当に有利になる(「抜け駆け」的といってもよいかもしれない)タイプの入札不正の重要な特徴は、発注機関職員の協力が必要であるということだ。つまり、本来的に官製談合的な要素を有するということだ(ここで「官製談合」というのは「官民間の癒着」というやや広い意味を持つことに注意されたい)。

だから、刑法典上の公契約関係競売入札妨害罪と官製談合防止法違反罪がセットで出てくるのである。そして「口利き」をした議員が出てくると贈収賄事件へと発展する。冒頭のケースは、そのまま公契約関係競売入札妨害罪が問われているが、当局は「その次」を睨んでいるのかもしれない。

最低制限価格の漏洩という違反の存在は、競争入札の結果、各業者の応札が下限価格に張り付いていることを物語っている。かつての入札談合の時代においては、予定価格はほぼ受注価格だったが、今では競争的になっていることを(それだけみるならば)意味している。「みんなで安定受注を目指す」時代から、「自分だけが生き残ろうとする」時代になったということだろう。

入札不正には色々なバリエーションがある。最低制限価格の漏洩は価格が下限に張り付いているので不正は不正だとしてもまだ「競争的」な方だが、競争入札参加資格や評価点数の恣意的操作などは、競争それ自体を排除するものでありより深刻である。公告期間を極端に短くしておきながら、特定の業者には相当前から公告内容を漏洩しているようなケース、それも提案書の提出を要求するような総合評価方式や企画競争のケースは、競争の体裁を繕いつつ意中の業者との契約を不当に目指す、悪質性の高い不正類型だ。

もちろん、ルールに則って必要性に基づいて対応したものならば難じることはできないが、その辺りの「見極め」が、公共契約の不正をウオッチする側に求められるスキルである。

公共契約を眺めるポイントは「表面」に惑わされてはならないということだ。競争入札だから安心とか、落札率が低いから安心とか、応札者(応募者)が複数いるから安心、という訳にはいかないのである。競争入札も骨抜きにできるし、予定価格を高く設定すれば安くなった体裁を作れるし、発注機関が特定の業者に肩入れしているケースでは競い合いの体裁は意味をなさない。

随意契約、それも特命随意契約の場合は、業者選択と契約価格の適正さが問われるのが不可避である。特命随意契約の場合、競争の体裁が作れないので、正当化の逃げ場が少なく、透明性の徹底が要求されるので、発注機関による合理的な説明が生命線となる。

「当初の見込みより安くなった」という政府の説明には警戒した方がよい。公共工事のような材料費や労務費、工数の積み上げによってターゲットとなる価格が決まる分野はまだしも、これまでに経験のないような発注だったり、業者からの見積もりやヒアリングに依存するタイプの発注だったりする場合には、そもそも当初の見込み自体があやふやだし、不確かなものが多いだろう。緊急性を理由にした随意契約の場合には、特にそうである。

とってきた予算が適正である保証はどこにもない。予算額と予定価格が大きく乖離している場合は、獲得した予算の妥当性の再検討が必要になる。

「安くなったから契約しました」は、特命随意契約を正当化しようとする発注機関が利用するかつての「常套句」だった。実際は、元々の提示価格が高い場合だったりするのである。そこから3割引、5割引します、という理由で価格の合理性を説明していた発注機関の話をよく聞く。スペックダウンして安くする体裁を作るやり方もあるだろう。そのようなやり方は「過去のもの」だと思っていたが、実はそうでもないのかもしれない。

もう一度繰り返すが、公共契約を眺めるポイントは「表面」に惑わされてはならないということである。

(紹介)  *併せて読んでいただけると幸いです。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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