コロナで物価は上がるか下がるか、一部で議論となって見事に意見が割れています。もう少し厳密にいうと需要増に伴って価格が上昇する通常のインフレ、供給側のコストが上昇し販売価格が意思に反して上がるスタグフレーション、そして価格が下がるデフレであります。
議論をしているのは主に経済学者やその道の専門家であります。そしてその議論の先に見えるのは確たる行方は現時点で誰もわからない、であります。
ただ、私は学者議論の根本となるデータの扱い方に関して今回のような需要も供給も止まるという事象を戦争のとき以外ほとんど経験していないため、マクロ経済のような枠組みの中で捉えようとするところに無理がある気がするのです。
例えば携帯利用料は需要も供給もほとんど影響がなく、我々は普通に通信料を払っています。電気代については在宅が増えることでむしろ月に1-2000円ほど負担が増えているという調査もあります。食材の購入はぐっと増えているものの外食や交際、レジャー関連の支出は何分の一かに落ちていると思います。ガソリンは安くなっても行くところがないので恩恵を受けられないということもありました。
つまり、大きな枠組みでみると増えるものと減るものがそれなりに相殺されて統計上、「なんだ、こんなものなのか」という数字しか出てこないのです。この傾向を表しやすいのが消費者物価指数で4月の日本の物価は生鮮を除く総合指数で0.2%のマイナスとなっています。直近の流れでみると1月のプラス0.8%をピークに徐々に下がっていた中、3月のプラス0.4%から一気にマイナス域まで物価が下がっています。
ところが、生鮮を含む総合でみるとプラス0.1%です。この1年でみると生鮮が物価を引き上げた月は1年で3度しかなくそのうち2度はごくわずかの影響でした。よってコロナは一般物価を引き下げたけれど食料で引き上げたため、極端な統計値にならなかったことが読み取れます。
ポール クルーグマン博士は
「いま起こっているのは、供給と需要両方の中断です。…となれば、標準的なマクロ経済モデルをただ型通りに用いることはできない」「このCOVIDスランプは、2007~09年型というより、1979~82年型に似ているというのが私見です。修正に何年もかかる不均衡によって引き起こされたものではないからです」(クーリエジャポン)
と述べています。私が今の経済を「電源を落とした状態」と申し上げたのといみじくも近い発想のようです。しかし、ノーベル賞をもらったクルーグマン博士ほどの人でも、記事の基調を読み取る限り断定的ではないのです。つまり、ひとくくりにどうなるという答えはないということです。
もう一つ、コロナのステージにおける問題をみてみましょう。北米の飲食店の場合を考えます。コロナ厳戒の際、工夫をしてテイクアウトを増やしたレストランは一時的に売り上げをある程度維持し、少ない従業員の体制で人件費を削減し、縮小均衡のビジネスモデルを作りました。
ところがコロナの緩和策がでると唯一の代替手段だった持ち帰りではなく無理すれば外食できるという消費者側の選択肢が増えることからテイクアウトが必ずしも優位な立場にならないかもしれません。なぜならレストランのテイクアウトはテイクアウト専業業者に比べて理不尽に高いからです。
一般的なレストランの価格は材料費、人件費、固定費、利益で3:3:3:1程度を思い浮かべたらよいと思います。つまり、1000円のテイクアウトには300円の人件費と300円の固定費があるとすれば人件費のうちサーバーのコストや立派な店構えの償却費などをテイクアウト価格に上乗せしているのは高すぎるのです。
とすればコロナの過渡期である今は店舗にとって中途半端にスタッフを入れ、店舗営業をしているわけで飲食店にとってはむしろ苦しさが増し、経営がさらに悪化する時期なのです。
では今後、大量の自主廃業と倒産が起きた場合、どうなるかといえば供給側が絞り込まれ、競合が減るので消費者向け価格には上向きのバイアスがかかりやすくなるという見方もできます。半年後か1年後に通常に戻った時、供給側が淘汰されており、日本でよくみられる理不尽な価格競争が排除されれば価格は上昇に向かうとみることもできます。
これは、例えば航空業界でLCCがなくなるとか、観光業で宿泊施設が減るといったことが同様のケースとして考えられます。
コロナで物価はどこに向かうという答えは個別の品目とそのコロナからの回復時期によって大きく変わるとみた方がよさそうであり、ひとくくりにデフレ、インフレ、スタグフレーションといった言葉では表せないし、人の消費生活はその生活水準を維持するため、常にもっとも合理的で経済的な代替手段を考えるものです。物価に関してどっちに行くという極端な意見にはならないというのが私の見解であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月3日の記事より転載させていただきました。