新型コロナに感染しにくい日本人は「民度」が高いのか

池田 信夫

麻生副総理のコロナについての答弁が話題になっている。

数字は不正確で、フランスは100万人あたり443人、アメリカは327人、イギリスは580人だが、日本は7人。EUと北米のコロナ死亡率が日本と2桁違うことは間違いない。その違いの原因が「民度」だというのは麻生氏独特の皮肉だが、いいポイントを突いている。

日本のゆるやかな自粛は、憲法の制約でロックダウンのように人権を制限できないためだが、結果的には日本の被害は大したことなかったので、経済的なダメージも軽い。緊急事態宣言さえ出さなければ満点だった。

これを安倍首相は「日本モデル」と呼んで自画自賛したが、死亡率が低いのは日本だけではない。読売新聞も指摘するように、アジア・アフリカ・東欧・南米では日本より低い国も多い。こういう国の多くはロックダウンもしていない。

読売新聞より

これが山中伸弥氏のいうファクターXだが、その一つの候補は読売も書く交差免疫(免疫の交差反応)である。これは過去に東アジアに拡散したコロナウイルス(風邪の3割ぐらい)に対する抗体が新型コロナにきいたという説で、ラホイヤ研究所が医学雑誌Cellに発表したものだ。

児玉龍彦氏のグループは、過去に東アジアで流行したコロナに対する免疫記憶が新型コロナに対する免疫になっているという説を発表した。

もう一つはアジア人のHLA(ヒト白血球抗原)がコロナの重症化を防いでいるという遺伝的要因で、これについては7大学の共同研究タスクフォースが発足した。

有力なのはBCG接種による結核に対する免疫が、新型コロナにも有効だという仮説である。これについては疫学的な相関を証明する論文が20本以上あり、そのメカニズムも平野俊夫氏などの免疫学者が研究している。

日本人の「感受性」は西欧・北米より低い

だが世界の中でコロナの死亡率が200人を超える国は、EUと北米の主要10ヶ国に限定される。こうした国は例外なく、BCG接種の義務化をやめている。ここから逆に考えると、新型コロナは風邪に抵抗力をなくした西欧圏の脆弱性とみることもできる。

かつてペストは欧州の人口の1/3を奪ったといわれ、感染症対策は先進国の重要な課題だった。20世紀には公衆衛生が完備して害虫が駆除され、抗生物質で細菌のリスクも小さくなった。最大の脅威だった結核もBCGで解決したので、BCG義務化もやめた。

しかしウイルスは変異する。新型コロナは、従来のコロナウイルスとは違うタイプだったので、その経験がなかった西欧・北米では、西浦博氏のいう「丸腰」で感染したと考えられる。

他方、従来型コロナウイルスの免疫がある東アジアは、ウイルスの増殖する基本再生産数Roも小さかった。西欧のRoが平均2.5程度なのに対して、日本人のRoは1より小さいと推定される。

アフリカは結核やマラリアなどの感染症で毎年数百万人が死亡しており、今回もWHOはコロナの大感染が起こると警告していた。ところがアフリカのコロナ死亡率は平均5人程度で、アジアより低い。これは結核に対する免疫が、新型コロナにもきいているためだろう。

このように新型コロナに対する感受性(人口のうち感染する確率)は国によって大きな違いがある。標準的な疫学理論(SIRモデル)はすべての人が同じように感染すると仮定しているが、新型コロナの経験はその反証である。

西欧・北米以外の感受性は100%よりかなり低いと推定され、この場合はRoは丸腰の2.5より低くなる。もし感受性のない人(免疫のある人)が60%以上いるとRo<1になる。欧州でもその可能性が検討されており、ロンドン大学のフリストンは「イギリスでも人口の80%はコロナの感受性がない」と推定している。

これは秋以降に来る可能性のある第2波を考える上でも重要である。西浦氏はまた感染爆発が起こると狼少年のようなことをいっているが、この予測はまったく信用できない。彼の設定する実効再生産数Rtが1.6と高すぎるからだ。

日本のデータに即してRt<1と考えると、今年2〜3月のように1000〜2000人の感染者が入国しても、感染爆発は起こらない。国内に入った新型コロナウイルスは減衰するからだ。それが4月初めから起こったことである。日本人は民度が高いのではなく、感受性が低いのだ。

これに対して西欧・北米は丸腰なので、今後も新型コロナが流行するおそれが強い。ワクチン開発には時間がかかるので、効果は弱いが副反応の心配がないBCGを接種することが実用的な対策だろう。日本でもそういう研究開発が始まっている。