新型練習機とF3

最近は次期戦闘機、F3の話があれこれでております。米国との共同開発、エンジンは英国と協力との報道がありますが、実は市ヶ谷でも米国とやってもまた騙される、エンジンだけではなくテンペストに乗っかるほうがいいという現実派もいるようです。今の安倍政権がいつ終わるかで、両派の力関係が変わるかと思います。

イギリス空軍公式 Team Tempestツイッターより(編集部)

実際のところ、アメリカは日本主導の自主開発は許さないし、提供される技術も殆どはブラックボックスです。そもそも論でいえばすでに何度もご案内のように我が国に先端戦闘機を開発する能力はありません。テクノナショナリズムの妄想で股間を膨らますのは大概にした方がよろしいかと思います。

普通に考えれば開発費に2兆円はかかるでしょう。そして空自が調達する予定はわずかに90機程度に過ぎません。量産効果は出ずに調達単価は高騰し、一機あたりの開発費は極めて高くなるのは子供にでもわかる道理です。しかも防衛省もメーカーも基礎研究も殆どやっていません。また実戦のデータももっておらず、それを獲得する努力もしていません。結果F35のデッドコピーを高値で調達することになるでしょう

更に申せば、ベンダーの協力も得られるか怪しいです。F-2の生産数が減らされて、FX選定は待ったなしでした。ところが米国がリリースするはずもない、F-22がほしいとダダをこねて無駄に時間を浪費して、それが無理だとわかると、じゃ、開発中のF35でいいやと言い出しました。

FXはライセンス生産だと言っていたのに、ライセンス生産ができないF35を選定。日本企業に殆ど仕事が落ちないFACOで割高な調達をすることに決定し、それが昨年アホらしいからと財務省に指摘されて輸入に切り替えました。
結果戦闘機生産基盤は失われました。同時に米国製の兵器しか搭載できないF35を選んだのでミサイルなどの搭載兵器の開発も事実上難しくなりました。

これまでの国産基盤維持を図るのであればFXは42機ではなく、70機は必要だったでしょう。42機でライセンス生産は実質上不可能でした。であればFXは70機程度、またF-2の生産終了直後に生産を開始する必要があり、F-35は候補から外されるべきでした。F-35がどうしても欲しければ、その後に調達すべきでした。

その間戦闘機関連のベンダーは無責任でビジョンのない防衛省に振り回されました。これによってベンダーたちが防衛省、空幕の本当に戦闘機生産基盤を維持堅持するという主張に疑問を持ちました。結果住友電工、横浜ゴムが戦闘機コンポーネントから撤退、最近ではダイセルも撤退しました。報道されていないだけで多くのメーカーが防衛省に騙されたと撤退しています。

一度失った信用を取り戻すのは容易ではありませんが、市ヶ谷の人たちは簡単だと思っているのでしょう。

次期戦闘機を選定するに当たっては初等練習機、中等練習機も見直さないといけないでしょう。両方とも更新の時期に来ています。初等練習機T-7は事実上官製談合で富士重工(現スバル)に発注されました。

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空幕は嘘をついて高性能で安価な国産機を採用しました。その理屈はライフサイクルコストが安いからといいましたが、実際はこれまた高くなりました。わかっていて空幕は嘘をついたわけです。しかもその間にこれに関連した中島代議士が自殺し、この件を追求していた石井紘基議員も謀殺され、これが関係していると考えられています。その後もUHXで事実上官製談合が行われており、「犯罪組織」航空自衛隊幕僚監部を信用していいものいか大変疑問です。

初等練習機にツカノやA-6のような高級機を使い、F3に複座練習型も作るならば中等練習機はいりません。ですが、初等練習機は安く済ませて、F3に複座型を作らないのであれば中等練習機は必要かもしれません。中等練習機を入れずにシミュレーターで代用するという手もあるでしょうが、難しいかもしれません。

初等、中等練習機、戦闘機をシステムとして調達する計画を建てるべきです。それをしないとまたも税金の無駄使いになる可能性大ですが、こういう構想を練るのが防衛省、自衛隊の最も苦手とするところです。初等教育は民間に委託してもいいでしょう。やることは民間と同じです。

またどのような戦闘機を採用するのか。テンペストに乗らないのであれば、過大な能力を期待しない、軽戦闘機程度を開発するのがせいぜい我が国の実力です。それも外国の支援が必要だと思います。低性能で、少数制生産で調達コストが高い国内コンポーネントよりも海外製の信頼性が高く、安価なコンポーネントの採用も開発&調達コスト低減のためには不可欠です。

前も申し上げたように米空軍の採用した練習機T -7レッドホークを中等練習機として採用し、それを元に軽戦闘機を開発するのが手堅いでしょう。練習機、戦闘機を合わせれば200機近くは生産が可能でしょう。そうであればライセンス生産しても価格を抑えられるでしょう。アラートなどは安い戦闘機で充分です。エンジンは英国と共同開発でもいいでしょう。

有事の際はミサイル搭載数の少ないステルス戦闘機であるF-35と組み合わせて運用すればいい。ミーティアを採用すれば長射程からの攻撃も可能です。またオーストラリアのロイヤルウイングマンのような無人型を合わせて開発する手もあるでしょう。

これは全くの与太話ですが(そう前置きしないと本気にするのがいますから)、T -7の機体を朝鮮戦争時代のツインムスタングよろしく、横に二機分つなげれば兵装搭載量は格段に増えるでしょう。エンジンもT7と同じでいいでしょう。こういう頭の体操は思考の柔軟性を維持するために必要です。

Japan In Depthに以下の記事を寄稿しました。

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編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。