新型コロナ:検査陽性者は本当に「感染者」なのか

大澤 省次

7月23日の東京の新規感染者は366人、1日としては過去最多を更新しました。

しかし、死亡者はほとんど増えていませんし、重症者が大きく増える様子もありません。同じようなことは空港検疫でも起きています。感染者は毎月倍増しているのですが、95%以上の人は無症状なのです。

本当に「第2波」が到来したのでしょうか。*1

どうやら、この現象には大きく2つの理由があるようです。

1. 検査機器の性能が大幅に向上し、微量のウイルスでも検出できるようになった
2. 検査の人数が大きく増えた

まず、1についてです。現在の主力はPCR検査で、結果が陽性になると「感染者」とされます。そして、最新型の検査機器なら、ごく微量のウイルス(残骸含む)でも「陽性」と判定されてしまうのです。

2は説明不要でしょう。5月11日から「体温37.5度以上が4日続く」という条件が撤廃されたので、検査件数はうなぎのぼりです。

PCR検査は何をしているのか

ところで、「PCR検査」は何をどうしているのでしょう。理解している人は意外と少ないようです。PCR検査(正確には「リアルタイムPCR法」)について、ごく簡単に解説しておきましょう。

高校の生物を勉強した人なら、細胞分裂で遺伝子が複製される(2倍になる)ことは知っていると思います。PCR検査では、この細胞分裂を人工的に起こして、検体にあるコロナウイルスの遺伝子(RNA)の数を増大させます。

プロセスを1回実行すると、ウイルスの数は2倍になります。国立感染症研究所のマニュアルによると、結果判定までに同じことを最大40回繰り返すので、たった1個のウイルスが1兆995億1,162万7,776個にまで天文学的に増大することになります。

この、1回のプロセスで数が「倍増」というのが最大のポイントです。

もう1つのポイントは、増えたウイルスが光るように細工しておくことです。こうすれば、光センサーで何回目のプロセスで十分明るくなったか(Ct値、あるいはCq値)を検出できれば、元のウイルスの量がわかることになります。

もちろん、実際には理論どおりにはなりません。最初のウイルスが多ければ問題ないのですが、さすがに1個だけのウイルスの検出は困難です。従来の機器だと5個は難しいのですが、新型なら5個でも簡単に検出できます。

つまり、検体のウイルスが5個なら、旧機種では「陰性」と判定されます。一方、最新機種を使えば「陽性」になるのです。

参考までに、国立感染症研究所によると、最新の機器ならウイルスが2個以上あれば検出できるそうです。

最近の検査では「陰性」が「陽性」になる?

では、最近になって、自治体や検査機関が大量の新機種を導入しているとしたらどうでしょう。

これは単なる推測ではありません。新型コロナ対策の予算には、当然ながらPCR検査機器購入の補助金も含まれています。試しに行政機関の入札情報を調べてみたところ、5月以降に数多くのPCR機器の入札があることがわかります。

あれだけ新型コロナの予算が付いたのだから当然でしょう。納品に1か月かかるとすると、6月ごろから「陽性」が増えたとしても、特に不思議ではありません。*2

別な方法でもチェックしてみましょう。

もし性能が向上した新機種が増えたなら、軽症や無症状の「感染者=PCR検査陽性者」だけが増えて、死亡者や重症者はさほど増えないはずです。最初に述べたとおり、この事実に疑いの余地はありません。当然のことながら、検査の陽性率も上昇することになります。*3

では、新機種ならどのぐらい陽性が増えるのでしょうか。日本でCt値のデータが公開されているほぼ唯一の論文を確認してみました。

現在までCt値と症状との関連に科学的コンセンサスはありませんが、Ct値が30前後なら軽症だという論文は存在します。

前者の論文のグラフで使ったデータは4月初めなので、Ct値の小さいデータ(重症者や死亡者)の割合が高いことがわかります。つまり、4月初めには軽症者が「感染者」としてカウントされていなかった可能性が高いのです。

空港検疫の陽性者では、95%以上が無症状なことでわかるように、症状が軽い人ほど人数が増えます。これらのことから、永江一石さんがいうように、「現在の感染者数を4月頃の基準に換算すると1/10」に激減するとしても不思議ではありません。

参考情報ですが、専門家会議の資料によると、Ct値が33~35以下(ウイルスが数百個以下)だと他人には感染させないそうです。

インフルエンザと同じだとすると、ウイルスが数百個程度以下の無症状者なら「感染」さえしていないことになります。*4

極論ですが、それなら軽症者は「ただの風邪」で、無症状なら感染さえしていない(他人にもうつさない)のかもしれません。繰り返しになりますが、空港検疫の陽性者の95%以上は無症状ですから、そういう人を隔離する必要性はあるのでしょうか。

もし、上の私の仮説が正しいとすると、陽性者全員を「感染者」として扱うことは、壮大なムダである可能性があります。読めばわかるように、いままで述べたことは実際のデータで検証可能ですが、残念なことに相当の労力と時間がかかるのではないのでしょうか。

*1 世界的にも、感染者が増えて死亡者が減っている傾向は共通しています。

*2 検査に使っている機種を調べれば、これが本当かどうか確認できるはずです。

*3 検査結果のCt値が大きくなっている(ウイルスが少なくなっている)ことが確認できれば完璧なのですが…。

*4 緊急寄稿(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)によると、「鼻腔への感染では,127~320TCID50(インフルエンザの場合、PCRで検体を採取する鼻腔には、最低でも100個程度以上のウイルスがない感染は起こらない)」とあります。