“イソジン吉村”、区議逮捕…維新の宿命「クオリティ」問題

2020年08月07日 06:01

吉村洋文・大阪府知事(日本維新の会副代表)が「うがい薬」の実験結果の発表で物議を醸し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったその人気に影を落としている。そして、この件で実際に報道されたことと、発表した中身を検証しようと調べ始めていた矢先だった。

うがい薬の実験結果を発表する吉村氏(大阪維新の会YouTubeより)

維新所属の東京・港区議会議員が6日、公然わいせつ容疑の現行犯で逮捕されたという報道が夜になって飛び込んできた。“イソジン吉村”の問題をどう書くか思い巡らせていた中で、筆者の脳裏には「困惑」の二文字が瞬く間に浮かんでしまったが、結局、突き詰めていくと、維新のスキャンダルがあったときにアンチの人たちがツイッターではやし立てる「維新クオリティ」の問題に直面するように感じた。

地獄への道を舗装 !? イソジン吉村の善意

もちろん、2つの問題に直接の因果関係はない。

「うがい薬」の件についてだけ言えば、一定の根拠はある。アゴラですでに歯科医の中田智之氏が指摘したように、ネイチャー誌に3月時点で仮説レベルながら論文が掲載されており、吉村知事の発表を、あえて好意的に見れば、ワクチンも開発途上にあって、人が移動するお盆休みも迫ってくる中で、打てる手立てを打ちたい、それもどこの家庭にもあるうがい薬が使えるなら、と思っての“善意”だったのかもしれない。

ただし、“地獄”への道は善意で舗装されていることもある。

その後の買い占め騒動や、医療関係者の反発した結果を見ると、発表の仕方(コミュニケーション手法)に問題があったことは否めない。実験は、宿泊施設で療養していた40人程度のことで、軽症や無症状の患者を対象に1000人規模の実験はこれからだ。

もちろん吉村知事も大阪府もこの段階での発表は勇み足のリスクを取ってのことは織り込み済みのことと思われる。それが早く府民にお知らせしたいという100%純粋な“善意”だったのかどうか。決しておとしめる意図はなく、政治家の広報はある種の“スケベ心”があるものだと割り切るならば、政治的な意図は1%以上あったことは確かだろう。

報道では吉村知事の言動ばかりが切り取られているが、記者会見には松井一郎市長(日本維新の会代表)が同席している(参照:大阪府リリース)。

記者会見に同席した松井氏(大阪維新の会YouTubeより)

この実験は羽曳野市にある大阪府立病院の大阪はびきの医療センターが実施したものだが、大阪府と大阪市の協力による新型コロナウイルス患者の研究の一環だった。多忙な知事と市長が同席までするわけだから、維新がめざす大阪都構想推進の成果をアピールする狙いがあることは一目瞭然といえる。

期待値アゲ狙いが裏目の脆さ

維新は11月1日に、大阪都構想をかけた2度目の住民投票の実施をめざす段階に入ってきている。ビジネスの世界にたとえると、ベンチャー企業が創業から10年をかけ、途中一度の失敗した株式上場にようやく王手をかけようとしている。かつては敵側だった公明党を切り崩し、さらに最大のライバルだった自民党も2つに割れて都構想に同意する勢力が出てきた。

住民投票での勝利は現実味が強まり、あとは大勝できるかという構図は、上場達成が視野に入った新興企業が、どこまで株価を爆騰させ、時価総額を上げた状態で鐘を鳴らすことができるかというものと相似形かもしれない。昨年4月は知事と市長がポジションを入れ替えるダブル選挙という奇策に打って出て、府議選、市議選も含めて大勝できた。

大阪城天守閣からの眺望(写真AC)

一方で、時価総額は期待値でもある。期待値をあげるには世の中の耳目を引くような“おもろい”ネタを提供しないといけない。そして、走りながらトライ&エラーで突き進む新興企業には、内部統制に脆さを抱え込む。放送中のドラマ「半沢直樹」のモデルにもなっているが、かつてライブドアは時間外取引でニッポン放送株を買収して歴史に残る劇場型M&A攻防を繰り広げた。ところが1年とたたずライブドア事件で社長以下5人が逮捕され転落した(念のためだが、筆者は当時の捜査当局の対応には極めて批判的だ)。

吉村知事のうがい薬の記者会見に話を戻せば、リリースに記載された会見時刻は午後2時開始だった。知事や松井市長らのスケジュールの都合もあったのかもしれないが、この時間帯はワイドショーもやっており、旬のイケメン知事が何かを発表するとなると地上波テレビでの生中継も容易に予想される。

しかし、この発表した時点では株式市場はまだ開いており、うがい薬を取り扱う明治HDの株価が急騰し、翌日は急落するなど乱高下した。上場企業広報の経験者は明治HD側の心境について「市場の開いている時間の会見は勘弁してほしいと思うはず」と指摘する。

結果論かもしれないが、株式市場への影響への配慮が足りなかったあたりは、維新側のある種の経験、知見不足をさらしたと言えなくもない。

真価を試される段階に入った

区議会議員の逮捕に至っては、筆者の住む港区選出ということもあり、個人的に面識があるので極めて遺憾だ。捜査の結果を待ちたいが、ひとつだけ明らかなのは彼は過去にもタクシー運転手への暴行容疑で逮捕されており、そうした経緯があったにもかかわらず、次期衆院選の立候補予定者に入れていたことについては以前から危うさを指摘する声があった。

東京の維新は大阪と異なり組織が脆弱なため、人材不足の一言に尽きるかもしれないが、維新が長期的に全国区の政党へと脱皮するには、アウェーの地でどう根付いていくのか、スピードと勢いの裏にある脆さをここでも露呈した形といえる。

ただ、公平にみて、2つの事案とも、2013年参院選の2か月前に、当時の党首だった橋下徹氏が慰安婦発言をやらかして党勢を急落させたときほど深刻なダメージではない。少なくとも吉村知事のうがい薬の話は不祥事ではない。

これから直面する住民投票、次期衆院選、さらにその後の全国展開というシナリオでみたとき、いかにも新興政党的な脆さをどこまで減らしつつ、歴史のある他党との違いを維持し続けられるか、2つの事案は、「維新クオリティ」の真価が試される段階に入ったことを示す象徴的な出来事に見える。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長

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