「効率化」をうたう会計システムが売れない理由

2020年08月15日 06:00

先日、ある会計システムの説明会に参加しました。ターゲットは中堅の中小企業だそうです。説明会では「鉛筆の購入」の流れを事例にしていました。

「この説明会では売れない」。会終了後、そう思いました。

なぜ売れないのか。事例で用いられた「鉛筆購入」の処理を追いながら、説明してみたいと思います。

作:たくあんとくもり/写真AC

効率化を訴求する営業担当者

説明会の事例企業は、総務部・企画部・製造部・営業部の4部門で構成されていました。購入したのは、1本100円の鉛筆を10本。1,000円の購入取引です。(*1)

取引は、以下の順で処理されました。

1.文房具販売会社から届いた請求書データの読み取り

2.経理部門長へ、請求書データ送信・決裁

3.銀行へ振込(予約)実施

4.費用計上

購入したものが「鉛筆」であることから、「事務用品費」として、4つの部門へ費用配分されました。各部門への配分比率は、事前に登録しておく仕組みです。今回は1/4づつとしています。

結果、会社の預金口座から1,000円が減少し、4部門それぞれに「事務用品費」が250円づつ計上されました。すべて自動処理です。

とても効率的です。

「どうです? すごいでしょう?」
営業担当者の、心の声が聞こえてきそうです。

しかし、筆者には会計担当者の声も聞こえてくるのです。
「このままでは使えない」と。

この会計システムの、どこに問題があるのでしょうか。

決裁の問題

まず、決裁に問題があります。

確かに、決済は経理部門長が行っています。しかし、これは「1,000円を支払っていい」つまり、会社の預金口座から1,000円減っても資金繰りには問題ない、という承認です。

一方、費用が配分された、4部門の部門長は「事務用品費を使っていい」という決裁を、行っていません。しかも、各部門が鉛筆を使う使わないにかかわらず、「勝手」に、固定的な「比率」で、費用が割り振られてしまっているのです。

通常、各部門長は費用が発生すると、自部門の予算と照らし合わせ、予算オーバーしないよう管理する「予実管理」を行います。ところが、上述のように、「勝手に」費用計上されると、予実管理ができなくなってしまいます。

比率を使うことの問題

また、比率で配分されていることも問題です。

確かに、事務所家賃など共通費を、一定の比率で配分することはあります。これを「配賦」といいます。ただし、配賦は、共通費を、各部門長が納得した「合理的な比率」で配分することが前提です。事務所家賃の場合、人数比やフロア面積比などが用いられます。

しかし、今回の購入物は「鉛筆」。どの部門が何本使ったか、容易に把握できる。つまり、共通費ではなく、個別費です。個別費は極力、各部門に直課します。そうしなければ、部門別の損益管理ができなくなってしまうのです(*2)

つまり、この説明会の問題は、「効率面」の効果ばかりを訴求し、「管理面」の強化方法について説明していないことです。

「効率化」を訴求してはいけない理由

コスト削減などの効率化を導入理由とする場合、「何人、人を減らせるか? 」「何時間、作業時間を削減できるか? 」といったことが問われます。結果、会計部門の人員がカットされたり、正規社員がパート化されるなど、経理部門として、望ましくない事態に陥ることがあります。そのため、経理部門長は会計システムの刷新には、慎重かつ消極的になりがちなのです。

また、経営者にも「導入費用以上のコスト削減ができるのか?」といった不安があります。

こうした、経理部門長と経営者の不安が払拭されないため、導入は見送り、となることが多いのです。

経営管理の向上を訴求すべき

この会計システムの顧客ターゲットは、中堅の中小企業ということでした。一定レベルの経営管理、つまり部門や顧客・商圏など、様々な切り口で損益管理を行っている(または行おうとしている)、と考えた方が自然でしょう。

こういった企業、特に従業員の少ない中小企業の経営者は、経理部門に不満を持っていることが多いものです。日々の業務に追われ、分析や経営管理まで及んでいないためです。

求められているのは、経理部門のコスト削減といった「守り」のシステムではありません。様々な切り口で分析でき、経営管理レベルを向上させる会計システム。利益を創出できる「攻め」の会計システムなのです。

販売に必要な能力と体制

「攻め」の会計システムの販売において重要なのは、要件定義とサポート体制です。

顧客が、どのような管理体制を望んでいるのか、要件定義する。会計システムの、どの機能を使って要件を実現するか、提案する。それらができる能力が必要です。

また、経営管理は、運用が結果に大きく影響します。仕訳担当者がどのように「伝票を発行するか」によって、管理レベルが決定されてしまうのです。上記の事例ですと、鉛筆を使った段階で、きちんと「XX 部の事務用品費」と部門を付与し、正しい勘定科目を入力することが前提となります。

こうした、現場レベルの運用方法の提案や指導ができる、サポート体制の充実が必要なのです。

自社製品の運用方法を提案する

クラウドベースで銀行の預金データとリンクし、自動仕訳を生成する、など会計システムの進歩は素晴らしいものがあります。そのせいか、効率化によるコスト削減(経理人員の削減)など、「守り」を提案する企業が大半です。自社製品の運用で「管理面」強化ができるにもかかわらず、提案しないのは非常にもったいないことです。

システム会社には、
・自社の機能をフル活用した運用を提案できる、営業マンの育成
・提案を導入し、定着させるための、サポート体制の構築
を行い、「攻め」の会計システムを提案・販売してほしい、と思います。

[備考]
*1 単純化するため、組織・金額など一部変更

*2 部門別損益管理を行っている企業では、購買部門が庫出簿を用いて管理することが多い。購入の段階では「貯蔵品」とし、各部門が、倉庫から取り出した段階で、費用化する。上記の鉛筆の例の場合、営業部は3本使ったから300円、総務は2本庫出したから200円、などとといった費用計上処理を行う。

今回は説明簡便化のため「重要性の原則」を度外視している。

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