総務省 放送を巡る諸課題に関する検討会「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」が報告書を取りまとめました。
AMラジオの在り方、ローカル局の経営基盤強化策に関し検討を進めたものです。分科会長は多賀谷一照千葉大学名誉教授、ぼくが会長代理を務めました。
テレビ放送の広告費は低下傾向にあるのに対し、2019年のインターネットの広告費はテレビ放送の広告費を初めて上回りました。
地方の人口減少やインターネットの普及に伴うメディアの多様化等が引き続く中、「テレビ広告収入の伸びを期待することは今後厳しい状況になる」と分析しています。
同時に「民間AMラジオ放送事業者の経営は厳しく、企業努力で対応できる範囲を超えている」とし、AMラジオ放送の停波も含め経営基盤強化を図ることができるよう、「民放連の要望を踏まえ」現行制度を見直すべき、としました。
2028年の再免許時までに、AM放送からFM放送への「転換」や両放送の「併用」を可能とするよう制度を整備する。2023年の再免許時を目途にAM放送を一部地域で実証実験として長期間にわたり「停波」できるよう制度的措置を行う。というものです。
もう一つの柱がローカル局の経営基盤強化です。民間企業の経営問題ですが、地域におけるジャーナリズムの確保、地域の安全・安心の確保、地域活性化への貢献という社会的役割・公益性を維持すべきとする考え方に立ちます。免許事業たるゆえんです。
環境整備のため取り組むべき事項として、4項目を掲げます。
① ベストプラクティスの共有
② 人材育成
③ インターネット等の活用の推進
④ 海外展開の一層の推進
① ベストプラクティスの共有:民放連は事例を収集し、会員社間で情報を共有している。こうした取組を継続する。
②人材育成:IP化などの技術、コンテンツ海外展開、ネット配信など新事業領域に対応した人材の確保・育成が必要。
これらは業界をあげての対応が求められます。
より重要なのは、③インターネット等の活用の推進。
「共通の配信基盤を構築するなど、効率的・安定的な配信基盤の確立ができるよう、引き続き国としても環境整備を図る必要がある。」としている。
配信に当たっての権利処理の円滑化も課題。日本の制度がガラパゴスで、かねてから課題であったにも関わらず、取組が弱すぎたとぼくは考えるが、NHKの同時配信スタートもあり、総務省から文化庁に対して対応を求め、これを受けて文化審議会で議論が行われています。進展に期待します。
視聴データの利活用も新たな重要テーマ。
「多岐にわたる実サービスを想定し、多くの視聴者を対象とした実証による検証が必要」「個人情報保護法の改正も踏まえ、実証等を通じたルール整備を進め、視聴データを活用した新たなサービスの創出・展開を促進していく必要がある。」としています。
NHKとの連携も。
radikoやTVerでの番組の配信、民放が出資する配信プラットフォームJOCDNへの出資など、ネット分野での協力を紹介します。
NHKは「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行うこと」を目的としており、放送法を踏まえ、「ネット配信に係る協力も一層取り組んでいくこと」を求めます。
さらに、NHKはAIを活用した自動手話や自動字幕生成などの技術開発を行っており、このような先導的な知見・技術を広く放送サービス全体に活用することは、ローカル局の経営基盤の強化にも貢献すると指摘しています。
NHKの先導的役割に関する正しい認識と考えます。
最後の提言が④海外展開の一層の推進。
クールジャパン政策でも放送番組の海外展開は重要事項とされています。ローカル局による「国際コンテンツ見本市を通じた海外展開支援、人材育成等が重要」とし、TIFFCOMの抜本的強化を挙げています。ぼくが拠点整備を進める東京・竹芝CiPも協力したいと考えています。
この報告書は、「各社がどのような経営を選択するかは自らが判断すべきこと」とし、AM制度も「民放連の要望を踏まえ」た上で行政の役割を整理する抑制的な筆致で、ぼく好みです。
作成に当たりぼくは会長代理ではありますが、さほどの貢献をしていません。多賀谷会長と事務局の手腕です。
というのも、ちかごろ政府の会議に出席していて、また悪癖が出てきたと感じることが多いんです。
コンサル型と銀行型の会議です。
コンサル型:こうすべしと上から目線で民間企業の方向性を指図する。
銀行型:政府予算でおカネをつけてやることを主眼にする。
これが現れるたび、ぼくは反対しています。
コンサル型の企業戦略、その見極めは政府や学識者より、経営者と株主のほうが鋭いです。責任も負います。会議は責任を負いません。
銀行型の政府予算は、大きくても一口数億円。おカネは民間のほうがあります。世界的に調達します。
そうじゃなくて、政府にしかできないことを考えたい。
規制改革会議で放送の制度について問われ、県域免許、マスメディア集中排除、外資規制などについて言及することもあるのですが、あくまで当事者たる放送局がどう考えるかが前提。要望もないのに制度を動かすのは不適当、というのがぼくのスタンスです。
他方この報告は、時期の都合でコロナの影響を反映できませんでした。冒頭にその旨を明記しました。
巣ごもりでテレビは需要が高まる反面、広告主の提供力が落ちた。制作もストップした。ネット配信が海外企業の手によって活性化した。
コロナ後これにどう向き合うか、重要な課題です。検討を続けましょう。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。