現役教師と在外邦人が激論! 日本の学校教育の弱さと強さ

中田 智之

二転三転する感染症対策に、意見の分かれる専門家、リスクばかりを喧伝するマスメディア。このような事態の遠因に、学校教育を挙げる声も聞こえてきます。

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また緊急事態宣言下で行われた遠隔授業や、スタディサプリなど学習支援ソフト導入の取り組み、前倒しで進んでいるGIGAスクール構想など、教育のありかた自体も大きく問われました

様々な意見が飛び交う中、現役小学校教師・オーストラリア在住の高校生・ベトナムで高等教育を受けた社会人・不登校経験高校生・歯科大なる職業訓練校卒の私という、居住国も年代も異なる5人の日本人で意見交換する機会に恵まれました。

まったく違う教育制度を体験してきた者たちだからこそ客観視した話もできます。見えてきたのは、現役教師ですら認識していなかった日本教育の特徴でした。

日本教育史における能力主義への反省

日本教育は学習指導要綱にて均質的に定められ、「一本道のレール」と例えられています。ゴールには良い就職という同じ目標が設定され、レールから外れてしまうと戻るのは難しいというわけです。

教育自由化の進んだオーストラリアでは教育内容や予算に関する学校ごとの自主裁量権が大きく、生徒のニーズに応じた自由競争となっているようです。多彩な教育プログラムの中から、自分にあうものを選択。学校教育プログラムが社会的ニーズに合致するよう自発的に努めているそうです

ベトナムは科目ごとの統一試験を行っていく中で、優秀な学生を教師が見出し、重点的な教育がされていくようです。教師はその「目利き」に関して評価されるので、優秀な学生を見出すことに高いモチベーションがあるようです。

これら比較する中で現役教師の観点から日本教育はドロップアウトする子を作らないことに重点が置かれてきた実感したそうです。

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職業人材ニーズにあった教育というのは、かつて高度成長期の詰め込み教育で既に実践勉強・学校についていけない者が、1970年代の非行少年・校内暴力といった社会問題の一因となのではないか。現行制度はその反省の上にあるのかもしれない」

という考えを聞くことができました。

成績優秀者は塾にまかせて、落第ぎりぎりの問題児にキメ細かな対応をするという現状は、想像しやすいかと思います

この部分は海外で教育をうけた2人も日本教育の優れた点であると認め、既出統計で日本は読み書き算数のままならない低スキル労働者が世界で最も少ないことが知られています。

(参考)Overview: Skills to seize the benefits of global value chains ― OECD Skills Outlook 2017

ドロップアウトと再チャレンジ

一方でオーストラリアやベトナムはドロップアウトを社会的に容認していると捉えることもできます。それが社会不安につながる可能性があるのではないか、という点を私から聞きました。

まずオーストラリアではドロップアウトしても死にはしないと楽観的で、「人生最初の16年が失敗だったなと思っても、取り戻すことができる」と考えており、本人が望めば充実したリカレント教育に対する休業補償や融資制度を受けられるということでした。

ベトナムではドロップアウトするほうが多くて不満を感じる余地もないということでしたが、驚くべきことに、日本の外国人技能実習制度に参加することが実質的な再チャレンジ制度になっているようです。日本で苦労し、理不尽な扱いを受けても3年間我慢すれば、貯金もできるし日系企業に就職する道も開けるそうです。

これらから、日本ではドロップアウト予防が充実しているだけに、却って再チャレンジの拡充が遅れているのではないかと感じました。もちろん文科省などで改善が試みられていますが、ゴールである就職先は限定的で、大学新卒生と同条件とは言い難いです。

(参考)「再チャレンジ支援」に関する文部科学省の取組について ― 文部科学省

教育のゴールと社会的ニーズの乖離

学校内でドロップアウトを出さないよう努めても、社会に出たらシビアな能力評価の世界が広がっています。学校で教わる内容が、いまひとつ社会生活で役に立っているようにも感じません。

もちろん文科省も改善に努めており、直近では小中学校でのデータ分析・統計教育など論理的思考能力に関する項目が新設されたようです。

(参考)新学習指導要領について ―文部科学省(2018)

しかし学習指導要綱の根幹を大幅に見直さないまま、暫時的な部分的修正といった形で、社会的ニーズの加速的変化に追いつけるのでしょうか。

それでも教育政策の影響力に衝撃を感じたのは、現役教師が「学力とは何か」と問いかけた時、現役高校生が「問題解決能力」と答えた場面でした。これは現役教師によると、まさに直前の教育指導要綱で重視されていたことだということです。

このように教育は価値観や考え方の醸成に大きな力をもちますが、その効果が顕れるのは10~20年後で、世代ごとに一斉に変化していくということになります。

リスク分散という意味でも多様なカリキュラムが並列し、それぞれが柔軟に変化できる自由化体制の方が合理的ではないか、というのが個人的な感想です。

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まとめ:日本は世界に先んじて一つの課題を解決している

誤解されたくないのは、教育自由化では選択肢の一つとして日本の現行の教育をそのまま残すこともできるということです。国際的にも評価の高いドロップアウト防止教育は日本独自の強みであり、他国が向き合うべき課題を日本は先に解決しています。

既に教育自由化は大阪市塾代助成事業や、幼児教育・保育の無償化として部分的な試みがされています。

学校教員への過剰な負担を鑑みても、先取り教育は学習塾・部活動はスポーツクラブ・倫理教育は地域の風習の担い手としての寺社など、既存の地域コミュニティを再評価する方法もあるのではないでしょうか。

それぞれの立場からの振り返りも行われていますので、ぜひご参照ください。

(参考)学力とは何か ~学力は数値化できるのか~ ― mazipon

(参考)日本のこれからの教育 ― おとな研究所

(参考)【教育はこれからどう変わる】在住国も年齢層も違う5人が大激論! ― Aki