知財計画2020、決定。

政府・知財計画2020がまとまりました。

昨年まで10年務めた座長を降りたので、今回は調整を考えることなく、意見を述べる側。

守りじゃなくて攻め。好き放題に苦言を呈してきたのですが、計画はいい出来栄えで、うれしくもちょいとくやしいw

とりまとめに当たり、ぼくは5点について賛意を示しました。

冒頭「ニュー・ノーマルと知財戦略」という総論があります。

基本認識、新型コロナ拡大による影響と社会の変化、ニュー・ノーマルに向けた知財戦略の在り方、新型コロナ対策と本推進計画との関係、4項目。

三又事務局長(当時)の手による檄文かつ名文。

リスクを取ってよく書かれました。

総論が示した、文化産業に対する国の支援、そして知財の保護から「利用」のバランスという認識は、当たり前のようでいて実はこれまできちんと語られてこなかったものです。賛同します。基本的な考え方として進めていただきたい。

2点目は「教育情報化」です。今回、下記のような項目が盛り込まれました。

・「GIGAスクール構想」の実現パッケージによる「クラウド活用」「高速大容量通信環境」「1人1台学習者用端末」の学校ICT基盤整備を中核として、「未来の学び」の環境整備を省庁横断的に支援する。
・オンライン教育を促進するため、授業の過程においてインターネット等により学生等に著作物を送信することについて、改正著作権法の今年度における緊急的かつ特例的な運用を円滑に進める。来年度からの本格実施に向けて補償金負担の軽減のための必要な支援について検討する。
・実践的なAIスキルを持つ人材を育成する。データサイエンス等のスキルを習得させる研修プログラムを開発・実施し、機関間の連携及び他機関への普及・展開を図る全国ネットワークの構築に取り組む。
教育情報化は知財計画10年来の課題でした。ひとまず区切りとなる成果を得ました。

政府関係者の努力を高く評価したい。
一方で、教育のIT化は今回、世界同時に進んでいて、日本の新たな後れも懸念されます。問題は学校から家庭の教育環境へと動いていますし、AIやデータを使った次世代の取組も世界的には始まっていますが、日本は後れています。新たな戦略を立てる必要が出てきました。
3点目はDXとAI・データ等の利活用。下記の項目が掲げられました。

・DXによる大転換

・新型コロナとDX

・企業におけるDXの事例分析

・リアルデータ利活用推進のルール整備

・分野横断的な諸課題

・分野間連携

・各分野の課題

・人材の育成

・特許制度の在り方
これは日本にとって最重要の課題で、それを重視する記述を歓迎したいと思います。

IT政策の枠組みでこれまで語られることが多かったのですが、知財戦略とIT戦略は一体であるべき。この両者を融合してもらいたい。

4点目、クールジャパン。「官民プラットフォーム」です。

クールジャパン戦略は、議論は出尽くしているが、柱のアクションが足りない。

「中核組織」を形成する、その一点を実現してくれと繰り返し申し上げてきました。

この一点さえ突破できれば民間も共鳴すると思います。逆に言えば、それすらできなければ看板が泣きます。

5点目、コンテンツクリエーション。

紙幅を割いてもらいました。

海賊版対策を含め、漫画、アニメ、映像、映画、テレビ、音楽、eスポーツ。

各ジャンルに細かい目配りをすると同時に、海外展開、人材育成、通信・放送融合という横割り施策も厚く書いてあり、政府の本気度が伝わります。

それに関し1点、追加報告をしました。

会議前日、私が代表を務めるCiP協議会がコンテンツ戦略ステートメントを表明しました。

様々なコンテンツの関係者や有識者の声を集めたもので、新ビジネスモデルの創造、ジャンル横断の取組、人材育成などの項目を掲げています。

官民連携で知財戦略を進めたく存じます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。