欧州駐在の“悲しき中国外交官”

2020年09月04日 11:30

海外に派遣される外交官は自国の代表として国益を守り、派遣先の国との友好関係を促進する一方、自国をPRすることがその主要な職務だ。ホスト国とゲスト国の間で政治的難問やテーマがない場合、駐オーストリア日本大使館外交官のように、ホスト国との文化交流が主な仕事だ。新型コロナウイルスの感染がなかった昨年までは、日本大使館内の文化センターで「お茶の会」や生け花、書道、時には囲碁、将棋の紹介などが行われてきた。

▲ハンガリー国会議員シズル・ベーネデット氏は中国大使館から、署名運動にサインしたことに対して抗議する書簡を公開(Szel Bernadettのフェイスブックより)

▲ハンガリー国会議員シズル・ベーネデット氏は中国大使館から、署名運動にサインしたことに対して抗議する書簡を公開(Szel Bernadettのフェイスブックより)

▲王毅外相、マクロン仏大統領と会談(2020年8月28日、中国外務省公式サイトから)

▲王毅外相、マクロン仏大統領と会談(2020年8月28日、中国外務省公式サイトから)

中国共産党政権から欧州に派遣された中国外交官の場合、事情はかなり異なる。新型コロナ問題に始まり、香港国家安全維持法の施行、新疆ウイグル自治区の人権問題、法輪功メンバーへの臓器強制移植問題などを抱え、駐在先の国で厳しく追及されるケースが増えてきた。中国外交官は欧州の「中国包囲網」を肌で感じ出している時だ。北京からは成果を追及される一方、ホスト国の外務省から様々な苦情を受け、弁明と反論のために多くの時間を費やさざるを得ないからだ。

このコラム欄で駐チェコ中国大使の言動を紹介した。台湾行きを阻むためにマフィアのようにホスト国のチェコ上院議長を脅迫し、プラハでも大きな反響を呼んだばかりだ。懸念されることは、チェコのビストルチル上院議長の台湾行きを止められなかった中国大使館の張建敏大使の「その後」だ。同大使はチェコの前上院議長を夕食に招いた時、訪台を中止するように強迫する一方、「台湾行きが止められなかった場合、私の立場も大変だ」といった内容を吐露していたからだ。すなわち、張建敏中国大使が北京外務省から体罰を含め、何らかの処罰を受ける危険性が排除できないのだ。文字通り、同大使は命がけでチェコ上院議長の訪台阻止で汗をかいていたわけだ。同情を禁じ得ない(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。

なお、台湾の蔡英文総統は今月3日、訪台中のビストルチル上院議長と会談し、「チェコは台湾と同じように独裁政権に反抗し、民主主義と自由を求めた歴史がある。これからも力を合わせて地域の平和と発展に貢献したい」(産経新聞電子版)と述べた。

ところで、大変なのはチェコの張建敏大使だけではないのだ。海外中国メディア「大紀元」によると、ブタペスト駐在の中国大使館から先月19日、ハンガリー国会議員のシズル・ベーネデット議員宛てに一通の手紙が送られてきた。その内容は法輪功を支持する共同声明に同議員が署名したことを批判し、「なぜ署名したのか」といった一種の脅迫内容が記されていたというのだ。

手紙を受け取った同議員はビックリ、「独立した国家で、国民により選出された国会議員に対して、他国の大使館から『どう振る舞うようにすべきだとか、どの運動に署名するべきではない』などを要求する書簡を送られることは尋常ではない」(大紀元)と指摘、中国大使館の言動は絶対に容認されないと強調している。

多分、駐ハンガリーの中国大使館外交官は北京から指令を受け、「法輪功支持の共同声明に署名した政治家、議員に書簡を送り、撤回させよ」と命令されたのだろう。シズル・ベーネデット議員が署名した共同声明とは、中国共産党政権による21年間にわたる法輪功への組織的で残酷な迫害を直ちに停止することを要求したもので、世界中で600人以上の政治要人たちが署名している。それに対し、北京の共産党政権は海外駐在外交官に抗議の手紙を送れと命令したのだ。

ということは、中国外交官は600人以上の政治家、議員宛てにハンガリー国会議員がもらったような手紙を送っていることになる。なんという時間と経費の浪費だろうか。哀れなのは中国外交官が中国の国益を擁護するという使命に燃えて真剣に取り組んでいることだ。

外交官と言えば、花形職業に入るだろう。多くの若者が夢見る仕事だが、中国外交官の場合、中国共産党政権を擁護するという目的のために動かされている一つのコマに過ぎない。海外に長く駐在している中国人外交官は共産政権の独裁政治を続ける自国に批判的な人が少なくない。チェコの張建敏大使も駐ハンガリーの中国大使館関係者も自分たちがしていることが欧州社会では絶対に受け入れられないことを知っているはずだ。

当方は2005年11月3日、 シドニー中国総領事館の元領事で同年夏、オーストラリアに政治亡命した中国外交官の陳用林氏(当時、37歳)と会見したことがある。同氏は「610公室」のメンバーだった。江沢民国家主席(当時)が1999年に創設した「610公室」は超法規的権限を有し、法輪功の根絶を最終目標としている。中国反体制派活動家たちは「610公室」を中国版ゲシュタポ(秘密国家警察)と呼んでいる(「江沢民前国家主席と『610公室』」2011年7月13日参考)。

陳用林氏はオーストラリアにいる中国人社会を監視し、法輪功メンバーがいたらマークするのが任務だった。彼は自身の任務に疲れ、その職務に疑問を感じて亡命した。彼は決して例外ではない。海外駐在の中国外交官の中から今後、多くの外交官が自身の職務に懐疑的になり、政治亡命するケースが増えるのではないか。

なお、中国の王毅外相が8月25日から9月1日まで欧州5カ国(イタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツ)を訪問し、欧州の中国包囲網の突破を図ったが、その成果はどうだったろうか。同外相が訪問する先々で現地に住む亡命中国人や人権擁護団体の、北京の人権弾圧を批判する声が響き渡った。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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