スペースジェット失敗の理由

2020年10月25日 11:30

三菱航空機が開発中の「MRJ90」(CHIYODA I /Wikipedia:編集部)

三菱重、国産ジェット旅客機の開発を凍結へ=関係筋(ロイター)

三菱重工業7011.Tが国産ジェット旅客機「スペースジェット」(旧MRJ)の開発を凍結する方向で調整していることが22日、分かった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で顧客の航空会社の経営が悪化しており、航空機に対する需要は当面回復しないと判断した。事情に詳しい複数の関係筋が明らかにした。

コロナという想定できない災難も大きかったわけでしょうが、そもそも旅客機開発をなめていました。

ぼくは既に2008年の「諸君!」の記事で警告していました。

10年前のMRJに関する記事

筆者にはMRJのプロジェクトは途中で挫折し、経産省が投資する資金は死に金になると予想している。その理由として第一に、当の三菱重工にプロジェクトを何が何でも成功させるといった気魄が感じられない。第二に、このような巨大プロジェクトには三菱のみならず他の国内メーカーの協力が必要だが、そのようなコンセンサスが業界にない。第三に政府に防衛航空産業育成のグランドデザインが欠如しており、明確なビジョンがないことが挙げられる。

防衛省、国交省、財務省など関係省庁の間に充分なコンセンサスが出来ていない。そんな現状のまま、思いつきで小出しの補助金を出しても、軍事において下策とされる「兵力の逐次投入」を行うに等しい。

6月に開催されたパリ航空ショーにおいて、三菱重工がスポンサーとなってMRJプロモーションのためのレセプションが日本大使公邸を借りて行われた。ところが筆者の得た情報によると参加者約300名の内日本の業界関係者が約250名、フランス人が30名、その他20名ほどがスウェーデン人など他の外国人であったという(なお、在仏日本大使館に確認したところによると参加者は約280名、内外国人が90名とのことである)。いずれにしても国際的な航空ショーでのレセプションとして日本人の比率が多すぎる。

パリ航空ショーは英国のファンボロウ航空ショーと並び、世界中の航空業界関係者が集まる航空業界最大のイベントである。レセプションを開くのであれば、国内の業界関係者よりも潜在的顧客である各国のエアライン、プロジェクトに投資をしてくれそうな投資会社や銀行、リース会社(旅客機はリースで運用されることが多い)、メディア、特に航空専門誌などの関係者を優先的に招待すべきだろう。

海外への情報発信の千載一遇のチャンスで、日本人同士で飲み食いしているようではやる気を疑われても仕方あるまい。在仏日本大使館によると外国人の参加者を絞ったのは、「大使公邸のキャパシティの問題」であるとのことだったが、ならば初めからホテルの宴会場を借りればいいだけの話である。大使公邸を借り切るメリットはない。
別な事例を挙げよう。

端的に言えばMRJ事業は三菱重工一社(三菱グループが支えるにしても)が背負うには、その企業規模からみても荷がかちすぎる。しかも多くの事業部門を抱えるデパートのような三菱重工には専業メーカーのように果敢に判断を下して、迅速に投資を行うといった経営判断が出来ない。

同社が造船、工作機械、原発、宇宙ロケット、エアコンなどの他の部門の研究開発費や設備投資を削り、それらの部門の競争力を犠牲にしてまでMRJのプロジェクトに賭けるとは考えにくい。我が国の造船業界をみても積極的な投資を行ってきたのは専業メーカーであり、三菱重工や川崎重工のような総合重機メーカーではない。

三菱重工と経産省がまだスペースジェットを諦めないならば、手はあるでしょう。エアバスだって利益でるまで30年はかかったわけですから、ここで諦めるのはもったいない、という気もします。

例えばコロナが収まるまで、つなぎとして防衛省で買い支えるというもありでしょう。軍用機ならば民間機のように型式・耐空証明を取る必要もありません。

E-2Cの後継としてE-2Dが導入されていますが、元が艦載機なので居住性が悪い。Dは簡易ギャレーと簡易トイレが付きましたが長時間のフライトは苦行です。

E-2Dのシステムをスペースジェットに移植して一ダースぐらい調達すればよろしい。進出速度が高くなり、生存性も高くなる。またより高空を飛べるので探知範囲も広くなる。ノースロップ・グラマンが嫌だと駄々こねるならば、サーブのグローバルアイのシステムを採用すればいいんです。

更に海自のOP-3C、UP-3D、EP-3などの後継機のプラットフォーム、ついでに空自のRC-2の調達を停止してスペースジェットに切り替える。P-1やC-2は調達&維持費用がバカみたいに高いわけ、スペースジェットの方が安いでしょう。コンポーネントの多くは汎用品ですからね。さらには河野太郎氏が主張していた政府専用機も3機ぐらい揃える。

そうであれば20~30機は調達できるでしょう。
このくらい買うならば10年ぐらいは喰いつないで行けるでしょう。その間に運用しながら型式・耐空証明を取ればいい。

スペースジェットには多額の税金が投入されています。今後の日本の航空産業を考えるならば世界で売れる完成機を作れるメーカーは必要です。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

なお、三菱重工業はロイターの報道を受けて「様々な可能性を検討していることは事実ですが、開発の凍結を決定した事実はありません」とのコメントを発表している。

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清谷 信一
軍事ジャーナリスト、作家

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