年金制度で若者は損するの?

池田 信夫

このごろベーシックインカムがちょっと話題になっています。先日は「1人7万円のベーシックインカムにすれば社会保障はいらなくなる」という竹中平蔵さんの話が、ネットで炎上しました。おもしろいのは若者のほとんどがベーシックインカムに反対で「今の社会保障を守れ」という意見だったことですが、これは錯覚です。

年金制度は「国営ネズミ講」

ベーシックインカムにもいろいろ問題がありますが、若者にとっては今の社会保障よりはるかにましです。特に年金制度は、若者が損するようにできています。この世代間格差は、多くの経済学者が計算していますが、たとえば島澤諭さんの計算では、社会保障の受益と負担は次の図のようになります。

島澤諭『年金「最終警告」』より

これは生まれてから死ぬまでに受ける社会保障サービス(年金・医療・介護など)の額から社会保険料・税を引いたものです。いま90歳の人は約6000万円の受け取り超過(社会保障が社会保険料より多い)ですが、20歳の人は約5500万円の負担超過(社会保険料のほうが多い)、まだ生まれていない将来世代は約1億円の負担超過になります。

これを見てもピンと来ない人が多いでしょう。たしかに「国民年金は支払い額の1.5倍受け取れる」というのが厚生労働省の説明です。あなたが1年間にはらう国民年金保険料が20万円だとすると、年金は平均30万円受け取れます(社会全体の支給額を被保険者数で割った額)。

しかしその半分(15万円)は税金で、残りが社会保険料です。つまりあなたのはらった国民年金保険料20万円のうち、15万円しか返ってこないのです。それなら年金保険料をはらうのはばからしいと思って、はらわない人も増えています。国民年金保険料の未納率は、40%を超えています。

でもこれは損です。年金保険料をはらわないと年金がもらえません。その半分は次の世代が税金として負担するので、はらったほうが得です。年金はお年寄りのもらう年金の負担を若者に押しつけるネズミ講になっているのです。

ネズミ講は普通の人がやると犯罪ですが、政府がやると賦課方式という立派な名前がついています。これは親ネズミに対して子ネズミが多いとうまく行くのですが、少子化で子ネズミがへってくると、若者の負担が増えて制度がもたない。40%以上が年金保険料をはらわないと、年をとったら生活保護を受けるしかなく、国民年金は崩壊します。

サラリーマンは国民年金以外にも、厚生年金や健康保険など多くの社会保険料をはらっているので、この負担を国民全体で合計すると、上の図のように不公平は非常に大きくなります。よい子のみなさんは、1億円損する制度を守るために税金をはらってくれるでしょうか?

世代間格差はしょうがないのか

これに対して、世代間格差は問題ではないという人もいます。社会保障は「社会全体の助け合い」だから、個人ベースでみると損得が出るのはしょうがない、というのが厚労省の年金マンガの主張です。政府も世代間格差があることは認めていますが、それしか方法がないといっているのです。

年金マンガ(厚労省)

そうでしょうか。これは社会保障の目的をどう考えるかによります。年金を「助け合い」ではなく「長生き保険」と考えると、積立方式で個人の積み立てた年金を老後に自分で引き出す方式が合理的です。これは貯金と同じなので損も得もありませんが、公的年金として運営する意味はありません。

社会保障の目的が最低限度の生活保障だとすると、65歳以上になったら一律に年金をはらう制度はおかしい。大金持ちのお年寄りもいれば貧しい若者もいるので、年齢とは無関係に最低所得を保障するベーシックインカムのほうが合理的ですが、これは莫大な財源が必要です。

社会保障は毎年120兆円のお金が動く巨大なビジネスなので、少しでも変えるのは大変ですが、これから超高齢社会になる日本で、世代間格差が深刻になることはまちがいありません。今からよい子のみなさんが社会保障のしくみについて考えても、早すぎることはないと思います。