日本学術会議は日本工学アカデミーに学べ

山田 肇

日本工学アカデミーという組織を知っているだろうか。設立の趣旨は次の通りである。

広く学界、産業界及び国の機関等において、工学及び科学技術並びにこれらと密接に関連する分野に関し顕著な貢献をなし、広範な識見を有する指導的人材によって構成される本会は、工学及び科学技術全般の進歩及びこれらと社会との関係の維持向上を図り、我が国ひいては世界の発展に資する。

日本工学アカデミーサイトより:編集部

日本工学アカデミー(EAJ)は、1987年に設立された。日本経済新聞19861118日)には、設立を主導した平山博早稲田大学教授のインタビューが掲載されている。平山氏は次のように語っている。

「現在の科学技術行政には官庁の縦割り行政の弊害が出ている。政府から独立した立場で具体的な政策提言をし、各分野の調和ある発展を促したい」とアカデミー設立のねらいを話す。

科学全般を扱う日本学術会議とは性格を異にする。「工学は本来、産業界と密接なかかわりをもっており、産業界との連携が大事」と強調する。学術会議や国の科学技術会議を補完する働きを目指している。

平山氏の言葉は穏やかだが、日本学術会議には産業界との連携が不足していると指摘しているわけだ

平山氏は「政府から独立した立場」とも言った。日本工学アカデミーは会員からの会費で成り立っており、現在の年会費は5万円である。僕も2001年に日本工学アカデミー会員となったが、通常の学会費(年1万円程度)と比べて高いのに驚いた記憶がある。

日本工学アカデミーは、日本を代表して30か国の工学アカデミーの連合体である国際工学アカデミー連合に加盟している。

日本工学アカデミーは多様性に意識が高い。科学人材確保に関する2008年の提言には「特に工学技術系に、女性進出の大きな必要性と余地がある。」と書かれ、今もジェンダー委員会が活動している。歴代会長の中には企業経営者もいる。

日本工学アカデミーは緊急提言を2017年と2019年に出している。わが国工学と科学技術力凋落への危機感から書かれた提言は、共に科学技術政策担当大臣に手交された。

「情報時代を先導する量子コンピュータ研究開発戦略」「2030年の超スマート社会に向けた次世代計算機技術開発戦略」「新たな働き方、生き方、社会の在り方の実現に向けた提言 テレイグジスタンスの社会実装へ」「医療の高度化と医療制度のサステイナビリティの両立に向けて」提言具体的で将来を見据えたものである。

日本学術会議法改正に伴い、会員の任命方法について国会で議論されたのは1983年。日本工学アカデミーの設立を準備する「工学・技術振興懇談会」が発足したのも1983年。二つが一致するのは、日本学術会議が工学を学問の一分野と見なしていなかったためではないか

日本学術会議は日本工学アカデミーに学ぶべきだ。

会員は工学分野に顕著な貢献をし、広範な識見を有する指導的人材、つまり総合的・俯瞰的に考えることができる人材である。それら会員からの会費で組織は維持されている。会員構成の多様性も自主的に確保し、ジェンダー問題にも敏感である。きちんとした提言を作って政府に手交している国際的にも日本を代表する組織として認められている。

日本学術会議政府の一機関であり続ける必要はない。