いまだ「手書き」と「電卓」を使う資格試験に将来はあるのか

2020年11月10日 06:00

鉛筆で「手書き」。計算は「電卓」。インターネットやパソコン・スマホの出現など、世の進化に全く影響されず、数十年変化しない。それがビジネス系の国家資格試験です。

ljubaphoto/iStock

コロナ禍で、会場受験が困難に。結果として、ネット受験はもちろん、「手書き」や「電卓」をやめ、抜本的な改革を行ってくれるのでは? そう期待していました。ところが、各資格実施団体が行った対策は、いわば「力技」。使う教室を大幅に増やす。1テーブルの人数を減らし距離を取る、などでした。8月に実施された、中小企業診断士試験では、「通常よりも快適」という声が出るほど広々していたようです。

一方、公的資格や民間資格(以下 民間資格※)は、国家資格に先んじて、古い試験体質を変えつつあります。日商簿記検定が、ネット試験方式を採用したのです。

「日商簿記検定試験(2級・3級)」へのネット試験方式の追加について(日本商工会議所)

残念ながら「自宅受験」ではなく、「試験会場で」ネットにつながった端末で受験する、というもの。とはいえ、鉛筆で「手書き」する試験からは大きな進歩です。

この変化は、今後の国家資格試験の変化をもたらすのでしょうか。

新しい簿記検定方式と、資格試験全般について考察したいと思います。

資格試験の現状

【 手書きの問題 】

国家資格(ビジネス系士業)の試験の多くは「手書き」です(社労士はマークシート)。これは字の下手な人にとって、大きな問題です。慌てて書いた0と6。後で見ると、自分でも、どちらなのか分からない。そういう人は意外と多いのです。また、「字が汚いと落ちる」などという、都市伝説じみた話も。筆者も字が雑だったため、漢字の教本などで、「訓練」する羽目に。まさに50の手習いでした。

また、解答文字数の問題もあります。中小企業診断士試験の場合、問題の多くは解答文字数 100文字。5文字以上余らせると不利になる、と「言われて」います。そのため、文字数に収まる解答を書く「訓練」も必要となります。書いてから、消しゴムで消して書き直す。それでは時間が足りないのです。

【 電卓の問題 】

国家資格で計算を伴う試験の多くは「電卓」を使います。

これは、受験する人すべてにとって、大きな問題です。

昨今、電卓を使うシーンはほとんどありません。せいぜい、数個の数字を検算する程度でしょう。一方、簿記試験などで、損益計算書、貸借対照表まで作成する場合、電卓を叩く回数は100を超えることも。当然、ミスが発生する可能性が高い。このわずかなミスが致命傷になります。

そこで、ミスを防ぐため、「訓練」が必要になります。一部の資格学校では、「利き手と『逆の手』で、電卓を操作すること」を推奨していました。右利きの場合、左手で電卓をたたいて計算し、結果を右手で解答用紙に記入する。その方が早いからです。筆者も左手で「訓練」しました。その影響か、いまだパソコンのテンキーが苦手です。

問題は、手書きや電卓の「訓練」が、実務に全く役立たないことです。実務に役立たないことに、資格受験者は、莫大な時間を費やしているのです。

新しい日商簿記検定

今回、日商簿記検定が導入したのは、ネット試験方式(CBT方式 = Computer Based Testing)です。CBTとはネットワーク化された会場でコンピュータで試験を受ける仕組です。受験者は、モニターに表示された問題を、キーボード・マウスを使って解答(入力)します。試験終了後、すぐに合否が判定されます。

主催者側にとって、会場確保が楽になる、試験回数を増やせるため受験者を分散できる、などのメリットがあります。コロナ禍のリスク低減も期待できるでしょう。

日本商工会議所ウェブサイトから、「体験プログラム」がダウンロードできます。実際に使ってみると、思ったより簡単で、使い勝手も悪くありません。

体験プログラムの解答入力画面

勘定科目はプルダウンメニューから選ぶ形式に。そのため、科目名の漢字を覚える必要はなくなりました。残念ながら「電卓」による計算は継続。計算結果はキーボードで入力します。パソコンを見ながら電卓をたたく、というのは何とも奇妙な感覚です。

国家資格試験に期待すること

国家資格試験に期待することは2つ。1つ目は日商簿記検定と同様、ネット試験導入による、手書きから「入力」へのシフトです。

日商簿記検定の場合、解答の文字数が少ないため、さほどメリットはありません。しかし、弁護士や税理士・中小企業診断士試験に採用されれば、大きなメリットがあります。具体的には、上述の、「訓練」が不要になるなど受験者側のメリット。加えて、文字が見やすくなるため採点が行いやすい、など採点者側のメリットもあるのです。

2つ目は、 電卓から表計算へのシフトです。

ネット試験導入と合わせ、機能制限した表計算の利用導入はできないものでしょうか。いまどき、多くの受験者に電卓の「訓練」をさせたり、電卓ミスで不合格になるのは「酷」ではないかと思います。

不毛な「訓練」を排し、内容の理解度を高めた方が、優れたビジネス人材を輩出できるはずです。

「何を」出題すべきか

日商簿記検定は、平成27年4月の改定で、「実務から乖離している」内容(特殊仕訳帳)を、試験対象から除外しました。一方、税理士試験(簿記論)では、いまだ同内容を試験対象に含めています。この点においても、民間資格の方が、国家資格に先んじている、と言えるでしょう。

コロナで、新しい生活様式が求められている今。安全対策だけではなく、余計な「訓練」や、実務と程遠い内容を勉強させず、実力を向上させる試験へ変容することを期待します。

[ 参考 ]
※ 資格区分について
公的資格とは、文部科学省や経済産業省などが認定する資格のこと。国が認定していない点では、民間資格であるが、各省庁が認定することにより、他の民間資格と差別化を行っている。

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