3. 経産省への期待/起死回生?の秘策
退潮にある日本を立て直すため、わが国を活性化させていくため、霞が関は、特に成長戦略の実質的司令塔である経済産業省は、どんな手を打つべきであろうか。
これはもう、一言で言えば、「肉を切らせて骨を断つ」みたいな覚悟が必要であろう。つまり、多少、マクロな政策は犠牲にしても、世界を相手に、打って出て行くような「選手」を多数つくらないことには始まらないということだ。監督・コーチ・応援団を幾ら強化しても、仕方がない。そこは犠牲にして、選手を育成しなければならない。
こう書くと「そんなこと言ったって、今回の大学研究支援の10兆円ファンドもそうだが、ベンチャー育成策その他、プレイヤーを強化する政策だってこれまで、散々やってきているだろう。一体どうやって、世界に羽ばたく「プレイヤー」を作れるというのか」という反論が飛んできそうだ。全くその通りだと思う。
ただ、まだ経産省がやっていない策がある。それは、自らの職員を信じて、手挙げ方式で、世界に伍すことのできる企業となることを目指して、デジタル、環境エネルギー、教育その他、好きな分野での起業を促させることだ。マクロな政策づくりより、ミクロな起業。つまり、優秀とされる経産省の職員が、「安全地帯」で政策を作るのではなく、自らリスクをとって起業することを慫慂するわけである。
こう書くと、敗戦直前の「特攻隊」を想起する方もいるかもしれない。やれ米国のGAFAMだ、中国のBATHだと、世界の巨大情報企業を前に、一人一人を起業に送り出すのは、あたかも巨艦に特攻させるような絶望的作戦に聞こえるかもしれない。しかし、もちろん、強制的に役所を辞めさせるわけではなく(そもそも法的に無理)、あくまでメンバーを選びつつ起業を「勧めて」みるだけに過ぎず、断る権利もある。
しかも、起業して失敗しても、本当に死ぬわけではない。まだ「巨艦」がいない分野で戦うのも一手だ。最近は、一度役所を辞めた者が戻るケースも散見でき、仮に起業を途中で断念して戻る場合には、むしろ、ずっと役所にい続けるよりいい勉強になって更に役所で活躍できるかもしれない。
役所全体としての政策ではなく、例えば、〇〇年入省者などが、同期同士の語らいの中で、「俺たちは(私の入省時と異なり、最近は女性も多いので「私たちは」の方が正確だが)、日本を活性化させるため、例えば同期50名中(私の同期は37名だが、今は少し増えている)、半分の25人が一挙に別々に起業しよう。一部は、「一緒に」ということでも良い。
安全なところから、「もっとチャレンジしましょう」と指導したり、補助制度を作ったりするだけではもう、日本の反転攻勢は難しい。自分たちでリスクを取りに行こう。10年経ったら、半分くらいはつぶれているかもしれないが、その場合は、起業に成功して伸びている仲間が、必要に応じて、雇用などで救いの手を差し出そう。あくまで、世界に伍せることが目的で、小さく成功することにとどまらず、外貨を稼いで日本を食わせるつもりで頑張ろう!」などと、仲間内で語らって決断しても良いかもしれない。
こうした思い切った策(経産官僚の集団起業策)は、日本社会に多大なるインパクトをもたらすと思うが、どうだろうか。私は衒いではなく、率直に、自分などは、多くの優秀な経産官僚の中では、よくいる一人に過ぎないと感じている。特に、ビジネス・稼ぐというゲームの中では、さほど優秀なプレイヤーだとは思わない。そんな私でも、何とか起業して10年やってきているが、経産省には、ビジネスで勝つという意味では、もっと優秀な人たちが数多いる。皆、勇気もバイタリティもある。何十人という単位で起業したら、それなりに成功する者も出てくる直観がある。省の施策として、或いは同期の決意・総意として、こうした方針を打ち出したら、意外に多くの優秀な若手経産官僚が日本を立て直すための起死回生の勝負に出るような気がする。
経産省を飛び出した起業家には、東大エッジキャピタルの事実上の創設者であり、現在トップを務める郷治友孝氏もいる。私も一つ上の先輩である郷治氏を良く存じ上げているが、きっと各起業に関して、こうした大義があれば、ボランタリーに親身に相談に乗ってくれることであろう。私も霞が関を飛び出して10年が経ち、多くのVCなどとの交流もある。紹介・お繋ぎは容易だ。青山社中としても、自らが色々な形で関与する案件について資金を集めるクラウドファンドの会社を2021年に起業するという案も検討しているところだ(地域活性・街づくりなどに関心の強い元役人の方などに社長になってもらえないかと模索している。関心のある方は是非ご連絡頂ければ幸いです)。この仕組みも活用できそうな気がする。
これまで霞が関最強と言われてきた財務省からは、私の良く知る知人だけでも3名がいずれもマッキンゼー経由で起業し、現在、大成功を収めている。先月、別件で2度ほど会い、今月は一緒に飲もうとしてお誘いした(残念ながら先約があって振られてしまったが)同期の岡田君は、アストロスケールという宇宙ゴミを除去することをミッションとする会社を立ち上げ、日本のみならず世界でも高い評価を受けている。ビジネス的にも社会的意義的にも、各賞を、それこそ「受賞しまくって」いる。
12月22日に一緒に飲もうとしたら、何と「その日が上場日」ということで、これまた断られてしまった柴山さんは、少し後輩の財務省出身者であるが、ウェルスナビというAIを活用した資産運用会社を立ち上げて、預かり資産が既に3000億円に達するなど大成功をおさめている。二人の会社は、以下の9月時点のベンチャーの時価総額ランキングで、それぞれ、10位と20位につけているが、社会的意義や、グローバル性などを加えると更に評価が高いであろう。
やはり同期の金田君は、財務省勤務の後、当時としては最年少でマッキンゼーのパートナーまで上り詰めたが、約10年前に、「中国で日本を展開する」とばかりに単身、中国に渡り、ローソンやベネッセ、無印良品の中国展開をサポートし、ビッグデータ分析などで小売を支援する優良企業となっている。日本人数名(一人は青山社中リーダー塾出身者)で、中国人約150名と共に歩み、日本の優れた商品・サービスの普及に努め、現地で大活躍している。
財務省と経産省は、霞が関では、特に時の政権のコントロールタワーとしての主導権争いなどでよく、切磋琢磨していると言われる。そうした政策面での「内輪」な争いではなく、どちらの省の出身者から、世界に羽ばたく、社会的意義も高い企業を数多く生み出したか、みたいな争いが起これば、それはとても面白いことになると感じている。
この私の「秘策」は、ややぶっ飛び過ぎていることを認めるに吝かではないが、2021年、面白いドラマが生まれるようなアッと驚く秘策を、経産省には期待したい。