JALの女性社員が巫女に?従業員シェアに覚える違和感

関谷 信之

2020年は、雇用情勢が大きく変化した年でした。

特に目を引いたのが、コロナで人員余剰が生じた企業から、人手不足の企業へ人員を異動させる「従業員シェア」です。2021年は、さらに活発化することが予想されます。

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JALは、今月1日から11日まで、女性従業員を、「巫女」として異動(出向)させることとしました。

JAL女性社員、新年は巫女に出向…高い接客技術で「しっかりご奉仕」(読売新聞オンライン 2020/12/23)

JALだけではありません。JTBは、農業現場へ(※1)、米ホテル大手ヒルトングループは、フェデックスなど流通業へ(※2)人を異動させています。

この事例を見るかぎり、非常に「荒っぽい」制度設計のもと、異動が行われているように思えます。

短期的には、雇用維持策として機能するかもしれません。しかし、長期化・固定化すると、大きな問題となる可能性があります。

今回は、従業員シェアについて考察したいと思います。

広がる従業員シェア

2020年の上場外食企業の「従業員シェア」対象は1,200人に上りました(※3)。仲介するプラットフォームサービス(※4)も出現し、実施しやすい環境が整備されつつあります。

「人を送り出す企業」は雇用維持と人件費抑制ができる。「受け入れる企業」は労働力を補うことができる。そのことから、従業員シェアは、「win-winの関係である」、「従業員も収入を得られるので三方良し」などと好意的に受け止められているようです。

しかし、この従業員シェア。従業員にとって良い施策なのでしょうか。

「従業員シェア」への違和感

「〇〇シェア」という名称から、何が思い浮かぶでしょうか? 自動車をシェアするカーシェアリングや、部屋をシェアするシェアルーム。その他、家具・洋服など、思い浮かぶのは、「モノ」ではないでしょうか。そのため、従業員シェアという「名称」は「人」を「モノ」としてとらえている。筆者にはそのように感じられます。

従業員シェアは、報道などから

「雇用維持のため、労働者を、人員過剰企業から人員不足企業へ、『一時的』に出向(または休業+副業)させること」

と、定義できます。

余ったから、よそに出したい。でも、忙しくなったら戻ってきてほしい。これは、繁閑の差に応じた「労働力」の移動です。従業員の「目標」や「適正」は考慮していません。

なぜ従業員をモノとして扱ってはいけないか

「仕事が無いよりマシ」

という意見があります。全くその通りです。従業員シェアは、短期的にはやむを得ない施策かもしれません。

しかし、働くのは「人」です。人とモノの最も大きな違い。それは、人は「やる気=モチベーション」が高くないと生産性が低下する、ということです。モチベーションを高めるためには、「満足度」を高める必要があります。仕事が「ある、ない」の二元論ではなく、どのくらい本人の「目標」「適正」に合っているか、という「度合い」の問題です。

人をフル活用するには、それぞれの「目標」や「適正」に合った業務を与え、「モチベーション」を高めてもらわなければならないのです。

冒頭、ヒルトンやJTBを例として挙げました。はたして、ヒルトンのホテルマンのスキルは、流通業で活用できるのか? JTBの従業員は、農作業に耐えられるのか? 大いに疑問です。「目標」「適正」が一致せず、モチベーションが低下することが、容易に想像できます。

モチベーションが低下すると、企業の生産性が低下してしまう。結果、従業員・送り出す企業・受け入れる企業の、3者とも不幸になる。「win-win」どころか、「lose-lose-lose」となってしまう可能性があります。

経営者は、モチベーション低下の影響を甘く見るべきではありません。

期間と収束の定義を決めておくこと

先にJALの例を挙げました。JALは、グランドスタッフが持つ「高い接客技術」が、「巫女のご奉仕」に活用できる、としています。ジョブローテーションや従業員教育の一貫として、捉えることもできるでしょう。期間は1月1日~11日まで。非常に短期間です。終了後、従来の勤め先に戻ることが確定しているため、安心して働くことができる。モチベーションの低下は最小限に抑えられるでしょう。

一方、JTBの行う農作業への従業員シェアは、数ヶ月、と長期にわたる可能性があります。終了後、自分の居場所はあるのか? 不安に思い、モチベーションが低下する従業員も多いのではないでしょうか。

従業員シェアは、「一時的」措置であり、コロナ「収束」後は元の企業に戻る、とされています。「雇用維持」が目的であれば、「一時的」とはどの程度の期間か。「収束」とはどのような状態を指すのか、定義しておくべきでしょう。

新たなリストラ手法にさせないために

政府は、雇用調整助成金を3月以降縮小し、「出向」助成へ舵を切る模様です(※5)。

従業員シェアは、制度的には「出向(在籍型出向)」です。しかし、出向は、その後の「転籍」が、いわば「お約束化」しており、人減らしの手法として使われることが少なくありません。

自社で雇用できるにもかかわらず、その努力を放棄していないか。「シェア」という言葉の軽さ・新しさに惑わされていないか。経営者の方々は、熟考いただきたいと思います。

[ 参考 ]
※1
観光業界の人を農業現場で受け入れへ JA全農とJTBが提携(NHKニュース)

※2
従業員 業種越えシェア ヒルトン→アマゾン/外食→アリババ 連携し雇用下支え(日本経済新聞)

※3
従業員シェアで雇用維持 ノジマやイオンが受け入れ(日本経済新聞)

※4
『従業員シェア Retaff (リタッフ) 』提供開始 ~「コロナ切り」から従業員を守るための新しい雇用形態 ~(PR TIMES)

※5
「雇用調整助成金」の特例措置は3月以降、段階的に縮減へ。2021年6月までに「リーマンショック時並み」にする方針(ネットショップ担当者フォーラム)

従業員出向に1日1.2万円 厚労省が助成、人材活用促す(日本経済新聞)

在籍型出向の活用による雇用維持への支援