吹き飛んだレガシー、始まるトランプ政権の「否定」

2021年01月12日 06:01

narvikk/iStock

政治は一寸先が闇

政治の世界は一寸先が闇であるという表現は使い古されたものではあるが、大統領選後の一連の流れを観察してきた身として、その言葉がいかに政治の本質的な部分を捉えてるのかを思い知った。

大統領選の結果が出始めた直後、トランプ大統領の影響力は最高値に達していた。以前の筆者の論考で触れたように、トランプ氏は共和党の大統領候補史上最多の得票数を獲得し、新たな層の掘り起こしに成功し、自分が巻き起こした政治的なムーブメントが一時的なものではないことを証明した。そして、2024年に大統領選に立候補し、共和党の予備選での勝利のみならず、大統領で勝利できるだけの余力を残したまま大統領の座を退くことになるかと思われた。

しかし、そのような憶測も、今では考えれないようになるほど、事態は一変した。トランプ氏は自分の手で自らの政治的キャリアに終止符を打とうとしているようである。

民主党に上院を献上

1月5日に投開票日だったジョージア州での決選投票は、2022年の中間選挙までの間のアメリカ政治を占う上で、重要な意味を持った選挙であった。仮に共和党が1議席でも勝っていれば、上院での多数を維持し、バイデン政権の掲げる政策、閣僚の任命をことごとく拒否できる力を手にすることができていた。一方、民主党の場合は2議席を獲得すれば、上院での議席は50対50に持ち込めることができ、その場合は次期副大統領のハリス氏が一票を投じる権利が与えられることから、実質的には上院で民主党が多数を担うことになっていた。

仮に共和党が勝てば、少なくともトランプ政権の施行した政策の維持、左派の勢いが強まる民主党が勝てば、トランプ政権の完全なる否定と共に、アメリカの制度、価値観におけるリベラル化を促進させる措置が実行に移されることが予測されていた。それゆえ、共和党、民主党問わず、自らの理想とするアメリカを実現する上でジョージア州での勝利は至上命題であった。

また、再投票が行われる契機となった、11月のジョージア州での選挙は大接戦であり、そのこともあって民主党、共和党のいずれも再投票で勝利を収めるだけの可能性は十分あった。それでも、約20年もの間、ジョージア選出の民主党の上院議員が誕生したことが無かったことから、共和党にやや分があると思われていた。

だが、大多数の政治評論家の予測に反し、民主党が2議席を獲得する結果になり、民主党が上院を奪還し、バイデン政権の政策実現にとって思わぬ追い風が吹くことになった。

そして、その勝利に民主党が感謝しなければならない人物が居る。トランプ大統領である。

大統領選が終わってから彼は今回の選挙で大規模な不正があり、彼の勝利が奪われたという政治的キャンペーンを続けていた。筆者はこのキャンペーンが民主党に勝利を献上した最も大きな要因になったと考える。

トランプ大統領の不正投票が存在していたという主張に共和党支持者が同調したせいで、彼らは選挙システムに対する不信感を高め、投票にいくこと自体を放棄した。そして、その傾向は共和党の候補であったパデユー氏が獲得した得票数の推移を見ると明らかである。彼は11月の選挙では約246万票を獲得したものの、再投票では約220万票まで得票数は減少し、その減り具合は対抗馬のものより、約2倍大きいものであった。

どっちに転んでもおかしくなった選挙がトランプ大統領のせいで、選挙に命運を左右するだけの投票棄権者が発生し、彼は自身の政策を覆す力を民主党に与えることをアシストするという皮肉な結果が生まれた。

決定打となった議会占拠事件

そして、彼のレガシーが吹っ飛ぶ決定的な出来事が、ジョージア州での劇的な選挙の次の日に起こった。彼の演説によって誘発された米議会占拠事件である。

それまで、共和党の政治家らは選挙に勝つために、渋々、共和党支持者から絶大な人気を誇るトランプ氏の批判を避けていた。

しかし、大統領が暴力で民主的なプロセスを覆すという事態を誘発したことを皮切りに、トランプ大統領に対して鉄のような忠誠心を見せていた共和党の面々が反旗を翻した

暴動が収まった直後に再開された議会では、共和党院内総務のマコネル氏は大統領が陰謀論者であると暗に批判し、トランプ氏の支持者にアピールするために選挙活動中に不正投票があったと主張していたロフラー氏は自らの主張を撤回すると発言した。また、ウクライナ疑惑に伴ったトランプ氏の弾劾騒動でロムニー氏を除いて共和党の政治家は一斉に彼のことを庇い、彼の行ったことを正当化しようとしたが、今回の事態を受けて彼の弾劾を考慮する余地があると公然と述べる共和党所属の政治家が出てきている。

鉄のようい固かったトランプ氏への忠誠心もただの虚像のものであったのだろうか。

歴史の審判はいかに?

トランプ大統領が在任中に実現した、パリ協定、イラン核合意の離脱、大規模な規制廃止や減税政策は現時点では風前の灯である。

民主党が行政権と立法権を握る今、彼の残した爪痕がこれからことごとく消されていくであろう。そして、トランプ氏と距離を置こうとしている共和党は、そのプロセスを以前と比べて強硬には抵抗の意志を示さないであろう。

そうなれば、何が残るか?

2016年の大統領選で物議を醸し、議会占拠事件というアメリカ史に残る汚点を残した政治家としての負のレガシーしか残らないのであろうか。

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