共和党は正真正銘「トランプ」の党に

鎌田 慈央

歴史に残る2020年大統領選

da-kuk/iStock

今回の米大統領選挙はいろんな意味で、アメリカ史に残る選挙だった。世界中を大混乱に陥れ、人々の生活様式を根本から変えたパンデミック下で選挙は行われ、史上最多の期日前投票、一世紀ぶりの高い水準の投票率が記録された。

また、バイデン氏はそれまでの大統領候補として最多の得票数を獲得した2008年のオバマ氏の票数を抜き、史上最多の約7500万票数を獲得した大統領候補になる。そして、バイデン氏がアメリカの大統領に就任すれば、史上最高齢の78歳の新大統領の誕生となる。

それらに加えてもうひとつ、現時点では歴史に記憶されるかは未だ分からないが、新たな歴史の一ページを開く出来事が本選挙ではあったと思う。今回の選挙を通して共和党は正真正銘の「トランプ」の党になったのである。

大善戦したトランプ大統領

筆者の選挙前の予測としてはバイデンが得票数で圧勝し、投票日当日に接戦州でも勝利を宣言するだけの票を獲得すると考えていた。全米を混乱に陥れたトランプ政権のコロナ対応が今回の選挙の最大の争点だと思っていた故の予測であった。そして、世論調査の数字からも、その傾向は読み取れた。

しかし、予想は大きく外れた。バイデン氏は結果としては史上最高の得票数を収めたものの、トランプ氏は共和党の大統領候補として史上最高の約7100万票の得票数を獲得し、オバマ氏の2008年の数字を超えている。そして、トランプ氏は2016年の得票数より800万票もの上積みを4年間の任期を通して獲得した。

また、接戦州におけるトランプ氏の劣勢を指摘していた世論調査の予測を大きく覆し、選挙前には接戦州と言われたテキサス州、フロリダ州、オハイオ州でトランプ氏は圧勝した。それに加え、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州などの少なくない数の接戦州でもバイデン氏に肉薄した。

この結果を受けて筆者は選挙日が1週間遅れていたなら、コロナが大流行していなければ、トランプ氏が今回の選挙で圧勝していたのではないかと思わずには居られなかった。

「米国ファースト」を標榜するトランプ大統領(ホワイトハウス公式サイトから)

労働者層、非白人層への支持拡大に貢献

そして、このトランプ氏の大善戦に貢献したのは、前回の大統領選でトランプ氏を大統領の座の押し上げた白人労働者層の人々だけではなく、共和党がこれまで支持基盤を広げていなかった非白人層のおかげでもある。

トランプ氏は1960年以降の共和党の候補として最もヒスパニックや黒人などの非白人を自称する人々の票を獲得する候補になった。トランプ氏は非白人層のうちの26%の票しか獲得していないため、依然として共和党がマイノリティたちから絶大な支持を得ているとは言わないが、トランプ氏が出現するまで共和党が最高で18%の非白人からの支持しか獲得していなかったことを考えると、視点を変えれば非白人層の支持の大幅な躍進が見られたとも言えなくもない。

コロナが流行する直前にトランプ政権下で黒人、ヒスパニックの失業率が過去最低水準に達し、好調な経済をトランプ政権の功績だと認識したマイノリティが増えたことが、共和党のマイノリティからの支持拡大につながったひとつの要因だと筆者は考える。

毎日のようにメディアから差別主義者だとレッテルを張られていた人物がマイノリティからの票を増やすことはなんという皮肉であろう。

見放された共和党の主流派たち

そして、結果を受けて、共和党がもはやトランプ以前の共和党とは根本的に異なるものになったと認識するべきである。

トランプ氏が出現するまでの共和党はブッシュ氏やロムニー氏などに代表される党であった。そして、規範を重んじ、民主党らと国益に関わる事案に関しては協力できる器量がある党でもあった。

しかし、教条的な保守主義をバックボーンに持つ共和党の保守派に支えられたトランプ政権は、それまで党内で力があったブッシュ、ロムニー系の共和党員を政権から除外した。

政権から放逐された共和党員は何億もの資金を投入し、リンカーンプロジェクトなどに代表されるような反トランプ広告キャンペーンを通じて、共和党員にトランプへの支持を翻意することを促した。

しかし、結果は徒労に終わった。ロシア疑惑、弾劾裁判、コロナ対策のせいでトランプ氏が窮地に陥ってもなお共和党支持者はトランプ氏に忠実で居続けた。そして、前述したようにトランプ氏は今回の大統領選で大善戦した。

もはや、共和党に以前の主流派の居場所は無いのである。

敗北してもなお影響力は健在

トランプ氏は来年の一月にホワイトハウスから去り、バイデン政権が発足するであろう。

しかし、バイデン氏が対峙する共和党は彼が約半世紀の間渡り合ってきた共和党とはまるっきり違うものである。

トランプ氏の登場を受けて熱狂的な共和党員は増え、共和党の支持は民主党の支持基盤でもある非白人層に浸食しつつある。また、彼の影響が根強く残った共和党は選挙に負けたはらいせにバイデン氏の掲げる政策を悉く潰しに行くことが予測される。

それに加え、ホワイトハウスから退いてもなお、予備選で彼の思想信条を受け継ぐ候補を支持して、勝たせることで共和党をさらにトランプ化させる力もトランプ氏にはある。そして、実際にその力があることを2020年のアラバマ州の予備選で証明している。

バイデン氏が対峙するのはもはや共和党ではなく「トランプ」の党である。

そして、トランプ氏が政治の表舞台から消えても、共和党は依然として「トランプ」の党であり続けるし、彼が共和党に残した爪痕はそう簡単には消えそうにない。

鎌田 慈央(かまた じお)国際教養大学 3年
徳島県出身。秋田県にある公立大学で、日米関係、安全保障を専門に学ぶ大学生。2020年5月までアメリカ、ヴァージニア州の大学に交換留学していたが、新型コロナウィルスの感染拡大により帰国。