「象徴としてのアメリカ大統領」に想う - 北村隆司

2009年01月29日 17:07

1月22日の池田先生のブログ「象徴としてのアメリカ大統領」を興味深く読んだ。具体的事実を挙げ、短い文章で巧みに大統領職を整理したコメントであった。挙げられた事実に異存はない。しかし、「弱い大統領」「意思決定が複雑で非効率的」と言う記述は「住んで感じた」アメリカの印象からは程遠い。

アメリカ国民は「相反する利害と人権を尊重するビル・オブ・ライツ(権利章典)」の伝統を誇りとしている。行政一辺倒の日本と異なり、米国は三権分立、しかも司法、行政、立法がお互い完全独立したイーコール・パートナーと認知した国柄だ。これは、建国の志士が「理念と効率」を比較し、「相互監視の理念」を優先採択して作り上げた米国憲法の智恵の産物である。


例を宣戦布告にとろう。相反する利害の尊重と言う理想は良しとして、戦争勃発の様な緊急時には、宣戦布告無しに戦闘に従事する「拙速権」を大統領に与えた。この緊急避難条項を多用したアメリカは、参戦した戦闘行為の多くが「宣戦布告」のない戦争であった。最近の例では、「国連」の戦争行為に参戦した形の朝鮮戦争や、世界大戦を上回る戦死者を出したベトナム戦争が挙げられる。

この反省を込めて成立したのが、1973年の「The War Powers Resolution」 である。この法律は「大統領は軍隊を戦闘行為に従事させた48時間以内に、その事実を議会に通告し、60日以内に議会から軍事力の使用又は宣戦布告宣言の許可を得ない限り、其の後の戦闘行為への従事を禁止する」と大統領による拙速と議会による監督権限の均衡を保った法律である。

池田先生の指摘通り、大統領の権限の多くは「提案権」に属し最終決定には立法府や司法府の承認を必要としている。これは大統領の権限が弱いのでは無く、強大な権限を持つ大統領の独断を防ぐために監督権限を第三者に付与していると考えるべきであろう。

ビジネスの世界では効率化の行き過ぎが目立つアメリカであるが、治世に於いては驚くほどのバランス重視の政治体制が組み込まれている。行政権が圧倒的に強い日本に慣れた日本人から見ると、予算が議会の専有事項に属し、閣僚の任命も上院の承認を必要とするアメリカは、弱い大統領と非効率な行政の国に映り、それに加えて、大統領府に1,800人、行政各省に7,000人、上下両院に3,500名前後、その他上下両院の議員が公費や私費(政治資金)で雇用するスタッフが1万人を超えると聞けば、アメリカを国費の無駄使い天国と考える日本人は多いに違いない。

一方、特別会計という一般会計を遥かに上回る闇会計を持ち、身分保障、年功序列、渡り制度で公務員に「ゆりかごから墓場まで」の社会保証を与え、「職務上の判断ミス」の責任を法律で免除されている日本の現状を米国人が知れば、国家構造の腐敗が進んだ非民主国家として日本を見下すであろう。両国の国民的理解への道は遠い。

ビルオブライツ(権利章典)が生きるアメリカの治世制度の下で暮らすと、憲法に温かく包まれた実感を覚える。それに比べ、大日本帝国憲法時代の下級法が多く残された「法治国家」日本は、法律が取り締まりの道具である印象が強く、「憲法」に縛られている感じがしてならない。権力側に証明責任を課す米国と国民にその責任を持たせる日本の違いだ。

閣議の正式議題一つとっても、事務次官会議などの官僚による事前調整を経る事が決められ、それ以外の閣議発言は不規則発言と見做される。しかも、閣議決定は閣僚全員の花押を必要とする日本の首相に、国家の難問解決を期待すること自体が無理である。決して効率的な制度ではない。どちらが国民の為に効率的な治世制度か、考えて見る必要がある。

私は、三権分立が複雑で非効率とも、アメリカ大統領が弱いとも思わない。オバマの力は法的な権力ではなく、彼の言葉の力なのだ。この意味で、彼こそ「国民統合の象徴」と言っていいという指摘は、成熟した民主主議国家に永年住み、「言論」の力の凄さを知る私には、胸のすく指摘である。

党派対立とテロの恐怖を煽り、米国憲法の精神を超えた権力と法律の援用で8年間治世に当ったブッシュ政権は、米国史上最低の支持率に低迷しながら去って行った。極めて非アメリカ的な政権の末路である。その様な政治的環境下、オバマ大統領は「民主主義の原点である弁論」を通じての説得と納得を前面に出して、その第一歩を踏み出したのである。

この点を目敏く見つけ、「アメリカ大統領の象徴」として「言葉の力」を指摘した池田先生の鷹眼には感服した。私は、「言論を力」を「象徴」と考える日本人にはこれまで殆どお目にかかったことがなく、この辺のところが日本人の理解が最も至っていないところだと感じてきた。池田先生の指摘を、日本でも多くの人達が真剣に論議して欲しいと願っている。

雪のニューヨークにて   北村隆司

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