アメリカの問題と日本の問題 - 池田信夫

池田 信夫

北村さんのおっしゃるように、実際のアメリカ大統領はもちろん「弱い大統領」ではありません。大統領は与党の党首ではないが、党首以上の力をもっているので、de factoの権力は非常に強い。私は、それが憲法上のde jureの権力ではないという周知の事実を指摘したまでです。


阿川尚之氏の名著『憲法で読むアメリカ史』を読むと、アメリカが建国以来、バラバラの州をいかに連邦につなぎとめるかに苦労してきたことがわかります。日本も江戸時代までは分権的な国でしたが、明治時代にプロイセンの憲法・行政法を輸入して、大陸型の中央集権的な国家になりました。さらに戦時体制によって中央集権国家は決定的になり、銀行から新聞に至るまで東京中心の国家システムができてしまいました。

こういう官僚国家は、明治以来の「追いつき型近代化」には適していていましたが、日本が経済大国になって追いつくべき目標を失うと、失敗しても軌道修正がむずかしい。そういう失敗の典型が90年代の「失われた10年」でした。いや、それは過去形ではなく、90年代に失ったものを取り戻すことができないまま、われわれは新たな10年を失おうとしています。

つまりアメリカの問題が、バラバラの国民を連邦政府がいかに統合するかという問題であるのに対して、日本の課題は官僚機構に過剰に集中した権力をいかに分散するかということです。これはたぶん、後者のほうがむずかしい。いったん権力を握った官僚が、それをみずから手放すことは考えられないからです。これを打開するには、まず政権交代が必要でしょうが、小沢一郎氏が官僚支配を変えられるかどうかは疑問です。1993年の細川政権のときは、むしろ官僚依存は強まりました。

正直いって、私は今の政治に何も期待していません。このまま、あと10年もゼロ成長が続けば、経済がボロボロになって、誰もが何とかしなければと思うでしょう。そういう世論のエネルギーがないと、変化は起こらないと思います。そのとき官僚機構を解体するために必要なのは、オバマのような「言葉の力」です。残念ながら、日本の政治はまだそこまで成熟していないと思います。