今こそ道州制の導入を - 松本徹三

2009年03月07日 06:21

残念ながら今回の経済不況の根は深く、どんな施策を講じてみても簡単には脱出は不可能ではないかと思われます。日本では、更に悪いことに、指導者不在、政治不信がこれに重なり、心理的にも閉塞感が継続しそうです。こういう時には、とにかく何か新機軸を打ち出し、多くの国民に「変革への期待」を与えることが必要です。


私は、長い間議論されては来たものの、このところ一向に進展が見られていない「地方分権の促進(道州制の導入)」が、この目的のための格好のテーマになると思っています。

先ず、現在の不況の克服には、「内需拡大」しか手がありません。輸出市場の回復は日本だけの力ではどうしようもないからです。内需拡大の決め手の一つとして期待できることに、「中高年層の潜在需要の開拓」と「地方の活性化」がありますが、前者にとっての必須条件である「社会保険制度への信頼回復」も、後者にとっての必須条件である「地方分権の促進」も、共に政治の力によって実現が可能です。(逆に言えば、「強い政治力」によってしか実現できないものです。)経済界が手詰まりでどうにも動けず、折角「政治」に出番が回ってきたのに、政治家が今このテーマに真剣に取り組まないとすれば、一体他の何をしようというのでしょうか?

前者についての議論は別の機会に譲るとして、ここでは後者について考えてみたいと思います。

道州制が導入され、大きな権限を持った新しい州知事の選挙が行われれば、国民はこれに注視します。選ばれた新しい知事は、他の知事と競い合って、それぞれの州の目覚しい発展を目論むでしょうから、さまざまなアイデアが開花し、さまざまな経済効果を生み出すでしょう。施策次第によっては、東京で職を失った人達の故郷へのUターンも促進されるかもしれません。

私は、昨年11月7日付のブログ「アメリカ大統領選に思う」で、「首相公選」によって、米国の大統領選挙に見られたような熱気を日本にも創り出すべきだという趣旨のことを申し上げましたが、勿論、その早期実現が難しいことも分かっています。しかし、州知事の場合は初めから直接選挙ですし、ここで実績を上げ、国民レベルでの人気を得た人が、将来の首相候補となることも大いにありうるわけですから、道州制の知事選挙は、将来の「首相公選」への実験的な第一歩と位置づけることも出来るでしょう。

日本は「東京への一極集中」が極端な国です。もともとが「合州国」である米国は勿論、英国とフランス以外の欧州の各国は、ドイツを典型例として、もっと各都市が競い合っています。日本が「東京一極集中」になったのは、中央の官僚が力を持ちすぎたことにその一因があると思われ、この点は日本同様に官僚の力が強いフランスの「パリ一極集中」に同類項を見ることが出来ますが、現在のEUが「パリ一極集中」になることは金輪際ありえません。そのことを考えるにつけても、日本の道州制を考える時には、思い切って「EUに範を求める」位の変革を考えるべきかもしれません。

「今こそ過激な改革をやらねば、『十年河清を待つ』ことになりかねず、日本の国際的競争力強化の可能性はますます遠のく」という強い危機感から、私は、ここで一つの「超過激な提案」をしてみたいと思います。それは、道州制の導入だけにとどまらず、更にもう一歩踏み込んで、「省庁の分散」を行うことです。

「首都移転」論者は、この際、ワシントンやキャンベラやオタワやブラジリアのように、全ての首都機能を新首都に移してしまえばよいではないかと言うかもしれませんが、これで喜ぶのは土木建設業者ぐらいで、仕掛けが大きいだけ副作用も大きくなる割には、「首都移転」のもたらす長期的効果には疑問が残ります。各企業は、場所は変わっても、相変わらず「官庁や政治家の事務所に詣でる」のをやめることはなく、結局は「場所を移動する」ことに要する時間や経費の無駄使いが増えるだけのことになるのではないでしょうか。

それよりもやるべきは、「各省庁が、電子的な遠隔面談、遠隔会議以外の全ての面談や会議をやめる」ことです。つまり、各省庁は正面の玄関口を廃止し、訪問者は誰も建物の中に入れないことにすれば、官庁の所在地が何処であれ、「官庁詣で」は一切なくなります。

民間企業が官僚と折衝するのは勿論、政治家が官僚の「ご進講」を受けたり、官僚が政治家に「根回し」をしたりするのも、全て電子的な手段によるしかない(従って、当然記録が残される)ということになれば、全ての政策の起案と実行のプロセスが、完全な透明性を保証されることになります。多くの政治家が「不便である」といって難色を示すでしょうが、背中をさすったり、肩を抱いたりする以外は、映像と音声で全ての仕事はこなせるはずなのですから、「『永久に人に知られることのない』ことが保証された『密室』でなければ話が出来ない」ということがない限りは、そもそも「これで不便になる」ということはないはずです。

その結果として、各公官庁が、例えば「東京周辺100キロ圏内の諸中小都市」に分散され、地方都市の活性化をもたらすことなども可能になるでしょうが、こんなことは比較的小さな付随効果に過ぎないでしょう。長年続いてきた「政治家と官僚との関係」を抜本的に変えることこそ、日本の行政と立法のあり方に大きな変革のインパクトを与え、新しい活力を日本全体に与えることになるでしょう。

ここまで考える政治家が何故今出てこないのでしょうか? こういう政治家が出てきてこそ、初めて国民はこぞって喝采を送り、国民の心が一つにまとまって、未曾有の経済危機を克服するベースが作られるのだと、私は思います。

松本徹三

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