オバマ大統領一般教書演説を聴いて - 北村隆司

2009年03月09日 14:19

先週の一般教書演説は、雄弁家のオバマ大統領の演説の中でも最高に属する出来栄えであったと思います。演説の出来に就いては、共和党の幹部の中にさえ賞賛の言葉が聞こえました。

ショー的な要素が強い一般教書演説ですが、オバマ大統領の議会入場は政治家と言うよりロックスターを迎えるような雰囲気で、議員に取り囲まれ握手を繰り返し、演壇に到着するまでの時間がブッシュ大統領の2倍以上掛かった印象でした。


癌の摘出手術を受けたばかりのギンズバーグ最高裁判事との抱擁は、感動を与える真摯さを感じました。心配されたクリントン国務長官との関係も挨拶の交換は自然で、良きテイーム・ワークが出来そうな印象だったのに対して、バイデン副大統領は終始ぎこちなく、寧ろ副大統領の隣りに座ったペロシ下院議長のはしゃぎ振りが気になった位です。

演説の具体的内容は既に詳しく報道されていますので、ここでは触れず、全体のトーンに就いて記してみたいと思います。

9・11以降のブッシュ一般教書の中心であった安全保障、対決主義、一国主義、減税問題が姿を消して、国際協調、再生エネルギー、保険保険、技術立国などがメーン・テーマとして登場した事が印象に残りました。

特定の国との外交関係には触れず、数字の少ない事にも気が付きました。金融、経済再建を別とすると、教育、エネルギー、保健医療がオバマ政権の3大政策で、党派性を避けたいと言う願望が強く出た事もブッシュ政権の対極にあるものでした。

環境問題の深刻さを認め、再生エネルギーへの投資を経済、技術の再興の中心に置いた事は、京都議定書を否定し続けたブッシュ政権からの大転換です。中東からの原油依存率を下げたいアメリカでも、政治的に微妙な原子力と石炭のガス化を含むクリーン・コールに触れなかった事もオバマ大統領の慎重さの表れかも知れません。

教育もブッシュ政権のNCLB政策は姿を消し、教育インフラの整備を強調したものでした。最も論議を呼び難航を予想されるのが医療保険政策です。第一次クリントン内閣も実現できなかったこの大政治問題を、どのように処理するか?オバマ政権の腕前を試す最大の試練かも知れません。

ブッシュ演説の常連であったイラク、アフガン、イラン、ロシア、中国、北朝鮮などの国名が演説から姿を消した事も私の関心を引きました。

「学校の設備が悪すぎて碌な勉強も出来ない。私達は中途で勉強を放棄するような弱虫ではない。学校施設を改善してくれ!」と大統領に陳情の手紙を書いたサウス・カロライナの少女を、正面傍聴席に位置したミシェル夫人の隣の席に座らせ、「我が政府は貴女を裏切る事はしない」と約束する事で、中心政策の一つである教育インフラへの大投資を訴える演出も忘れていません。

ハドソン川に着水したUSAIRの英雄的パイロットを特別傍聴席に招き、英雄ぶりを称賛して紹介した裏には、前日の議会の公聴会で「民間航空の待遇の劣化と管制官不足が続けば、航空安全が脅かされる」と証言した(させた?)民主党に相乗りした労組応援(?)の謀略では、と疑ってしまいました。

内容は具体性を欠く嫌いはありましたが、気品の高さと聴衆を熱狂させる点ではブッシュ大統領とは勝負になりませんでした。この点で、オバマ氏に匹敵できる最近の大統領は、リーガン大統領位かと思います。

環境、エネルギー問題は共和党からも賛成意見がちらほら出始めており、意外に早く米国としての方向が出るだけでなく、最近不統一が見える欧州に替り世界をリードする可能性を感じます。

オバマ一般教書に対する反論を担当した共和党のライジング・スターであるジンダル・ルイジアナ州知事の演説は、演説のスタイル、内容ともに平凡そのものだと言う評判です。15分間の短い時間と言う不利な要素はありましたが、私の受けた印象も薄いものでした。

ジンダル知事はインド系として初めての州知事で、ブラウン大学を優等で卒業しローズスカラーに選抜されオックス・フォードに学んだ俊才です。若さにも拘らず共和党保守派のホープとして2012年の大統領選の有力候補でした。然し、この演説の不評振りが酷く其の後の記者会見にも出てこれない事態を生みました。明日は暗闇の政治の社会はどの国でも同じです。

一般教書演説は一種のお祭りですが、問題は予算の審議です。4兆ドルを上回る大型予算に加え、経済救済予算も更に増えるといわれており、今後の共和、民主の闘いが注目される所です。

ニューヨークにて、北村隆司

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