
日本の貿易は、中国からの輸入による赤字を対米輸出の黒字で補ってきました。今回の経済危機で対米黒字が減ったために対中赤字が表面化しただけで、こういう傾向はずっと続いています。赤字が増える理由は簡単です。中国のほうが製造業の生産コスト(特に賃金)がはるかに安いからです。二国間で同じ生産要素の価格が違う場合、貿易を通じて両国の要素価格は接近し、理論的には均等化します。これを要素価格の均等化と呼びます。
日中の賃金格差は、部門にもよりますが、単位労働コストで考えて10〜20倍ぐらいあるといわれています。つまり中国の賃金が10倍になると同時に日本の賃金が1/2になって、やっと競争条件は対等になるわけです。しかし名目賃金を下げることは困難なので、実際に起こることは、次のいずれかです:
- 中国からの輸入の増加
- 生産拠点の海外移転
- 正社員の非正規社員による代替
このグローバルな賃下げ圧力は大きく、今後も長期にわたって続きます。このままでは競争の激しい(生産性の高い)製造業はどんどん海外に移転し、国内には生産性の低いサービス業だけが残ります。海外移転そのものは悪いことではなく、多国籍企業の収益は上がるでしょうが、国内産業との生産性格差が拡大する。つまり日本の「2部門経済」の格差がもっとひどくなり、平均生産性はさらに低下するでしょう。
こうしたデフレ(正確には相対価格の変化)圧力に対応する手段は、基本的には賃下げしかない。労働組合がそれに抵抗すれば、上の1〜3の動きが加速するだけです。もう一つは高付加価値の産業に重心を移すことですが、その可能性については私は悲観的です。ITとかバイオなどに雇用吸収力はないし、日本企業の得意分野でもない。
だから要するに、何らかの形で賃金を切り下げるしかない。アメリカが80年代以降やった「サービス経済化」というのも、結局はそういうことでした。ウォルマートの賃金はGMの半分以下で、労組もない。雇用を維持するには、ハイテク産業よりも福祉や医療などの中国と競合しない部門に労働力を移し、賃金を徐々に下げていくしかない。こういう厄介な問題を正面きって議論しないで、場当たり的な雇用規制の強化を続けていると、空洞化が進んで雇用がかえって失われます。





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中小下請けを含めて、輸出関連メーカーのほとんどは、輸出製品の主力工場を既にアジア各地へ移転し終わっており、国内に残る生産工場は国内消費が主力であると思われます。
ゆえに雇用や内需という観点での「輸出立国モデル」は、たしかに終わったと言えるかもしれません。多くの中小下請けメーカーは、今回の大不況が引き金となって、弱体化していた本社側の財務に止めを刺されています。これまで温存していた工場を閉鎖するところが増えるので、特に地方都市での雇用が大幅に減少する可能性があります。
ところで上記グラフの貿易収支は、輸出入の統計をもとにしているのでしょうか?輸出企業側の視点でみた場合、日本側本社が直接的に得る輸出利益(日本を経由した輸出利益)で儲けるモデルから、海外工場から最終仕向け地へ直接輸出する事で得た輸出収益をライセンス料や特許料などの名目で日本側本社へ「吸い上げる」モデルへ転換されていますので、輸出企業の収益動向を、日本を基点とした貿易収支で追いかけるのは難しいのではないかと考えております。