「よみがえる社会主義」は日本に何をもたらすか? - 松本徹三

2009年04月30日 06:01

池田先生の「よみがえる社会主義」を興味深く読みました。これに続く「不安のループ」「輸出立国の突然死」とあわせて読むと、現在の日本が如何に危険な状況におかれているかがよく分かります。池田先生も指摘しておられるように、今回の経済危機で、多くの人達が「社会主義の誘惑」にとらわれ始めており、大衆の漠然たる期待に迎合するのが主たる行動原理である政治家の多くが、後先かまわず「社会主義的な政策」へと傾斜しつつあります。しかし、今更「鎖国」をするわけにはいかない日本は、このことによって、結果的に相当致命的な傷を受けることになるでしょう。


今から50年前、私が学生だった頃には、「社会主義」は当然の選択であるかのように見えました。私は、当時盛んだった学園闘争のようなものにはあまり興味 がなく、参画もしませんでしたが、それでも、当時の自民党政権は長続きせず、また長続きすべきではないと、当然のことの如く考えていました。

もともと、当時の私のような一般人の「社会主義」に対する信奉は、「計画経済の方が自由主義経済よりも当然効率が良いはず」という考えと、「人間は能力に 応じて働き、働きに応じて与えられるべきで、富が自動的に増殖していくようなシステムは許されるべきではない」という素朴な信条によって支えられてきたよ うに思います。そして、前者は、歴史的事実によって跡形もなく否定されてしまいましたが、後者は、なお多くの人達の心の中に残っているのです。だからこ そ、最近のように、「自由主義経済の綻び」が嫌でも目に付くようになると、人々の心の中には、かつて持っていたような「社会主義への郷愁」が甦ってくるの も、理解できることです。

現在の「悪しき社会の風潮」は、しばしば「金が全て」という言葉で表現されます。そして、この風潮を嘆く人々の多くは、前述の「人間は能力に応じて働き、 働きに応じて与えられるべき」といったような、素朴な「価値観」や「信条」の実現を願っているように思われます。ところが、問題は、「生活の質を落とさず にこれを実現する」方法が、なかなか見当たりそうにないということにあります。

更に問題を難しくしているのは、「もはや産業も経済も国境によって外国から隔離されることは出来ない」という事実です。早い話が、「人間は能力によって働 き、働きによって与えられる」という理想を世界規模で実現しようと思えば、「全ての日本人は、日本人と同程度の能力を持ち、日本人以上に働いているのに、 平均すれば日本人の十分の一以下の収入しかえられていない、中国の農村地帯やインドの人達と同レベルの生活を送ることを覚悟せねばならない」ということに なってしまいます。つまり、もはや日本人は、素朴な正義感を拠り所にした綺麗事ばかりを言っているわけにはいかないのです。

韓国や台湾、シンガポールといった国は、ほぼ一党独裁の全体主義的な政権下で経済の飛躍的な発展を成し遂げ、全国民の生活のレベルを日本に近い線まで引き 上げてきました。現在の中国は、まさにそれと同じ路線を突き進んでいますが、圧倒的な人口故に、全国民の生活レベルが一部の大都市圏並みになるには、なお 相当の年月を要するものと思われます。そして、日本を含む先進諸国は、今後日を重ねるごとに、そのことがもたらす影響をもろに受けることになっていくもの と思われます。

かつて欧米諸国は、日本の産業経済の急速な台頭に危機感を募らせました。休みも取らず、毎日満員電車にすし詰めになって通勤し、くそ真面目な顔をして仕事 をしている日本人と、同じ条件で競争せねばならぬことなどは、彼等にとっては悪夢だったに違いありません。しかし、日本人やそれに続く韓国人、台湾人だけ なら、全部合わせても二億人に満たず、しかも、「製造業以外の分野(特に、付加価値の高い『金融』や『情報産業』の分野)なら、引き続き優位を保てる」と いう自信が残っていました。

しかし、今、経済発展の最中にある中国に追い上げられている日本は、果たしてそのような余裕は持てるのでしょうか? 第一には、日本の最大の強みであった 製造業の分野で、日本は中国に対して、今後とも果たして大きな技術的優位性を保っていけるのかという問題です。そして、第二には、今後の国際競争力を決め る大きな要素となると思われる「金融」や「情報産業」「バイオテクノロジー」等の分野で、日本は、質量共に世界のトップグループに伍していけるのかという 問題です。

従って、日本の政治家や官僚が今一番深く考えなければならないのは、この二つの問題であるべきであり、「格差是正」の問題や「雇用」の問題を考えるにあたっても、常にこのことを念頭においておく必要があると思うのですが、現状は心許なく思えてなりません。

このことが常に念頭にあるのなら、「格差是正」は「生産性を損なわない形での是正」、即ち、「ワーキングプーアにベネフィットをばら撒くのではなく、アン ワーキングリッチの存在を許さないようなメカニズムを作る政策」によって実現されねばならず、「雇用の創出」も、「生産性を損なわない形での創出」、即 ち、「より生産性の高い分野への雇用の吸収がスムーズに行われるようなメカニズムを作る政策」によって実現されなければなりません。

自民党でも民主党でも結構ですから、このような政策を具体的にマニフェストに織り込んで頂くことを、強く望む次第です。

松本徹三

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