今の日本に「友愛」はいらない - 池田信夫

2009年05月16日 17:16

民主党の代表に、鳩山由紀夫氏が選出されました。私は先日も書いたように岡田氏のほうがましだと思いますが、鳩山氏でも大差ないでしょう。2人とも、大きな政府をめざすリベラル=社民路線という点では変わらないからです。選挙演説では、2人とも「官僚主導からの脱却」を訴えていましたが、実際のマニフェストは旧態依然たる再分配政策。岡田氏は少しそれを見直す姿勢もみせていましたが、鳩山氏の「友愛」はバラマキに親和的です。


いま日本が直面している課題は、明治以来150年近く続く「官治国家」から決別することです。これは「経費を見直して無駄を省く」といった政策で実現できることではありません。鳩山氏のいう「公務員の2割削減」が、何のコストもなしにできるはずがない。それは当然、公共サービスの削減をともなうのであり、それに反対する人々を押えることができなければ、「行政のスリム化」はかけ声倒れに終わるでしょう。つまり官僚主導の政治を是正するには、国民の国家からの自立が必要なのです。

日本の近代化の支柱となったのは、明治維新のイデオロギーだった吉田松陰などの儒教思想と、山県有朋などがプロイセンから輸入した官僚制度です。そして両者を総合した北一輝などの国家社会主義は、戦後も岸信介などの保守本流に受け継がれてきました。そういう途上国型モデルが終わったという点では、鳩山氏の認識も同じでしょう。しかし人々の意識の中には、国家への依存心が抜きがたく残っています。それは最近の不況で、すぐ規制強化や金融支援などの温情主義が出てくるのをみても明らかです。アメリカでは、大きな政府を志向するオバマ政権でさえ、GMやクライスラーの支援に強い批判が出るのに、日本では日立やパイオニアの救済を誰も問題にしない。

この違いの背景には、日米両国の歴史があります。アメリカ建国の父の基本思想は、徹底した国家への懐疑でした。イギリスからの独立革命を戦った各州(国)にとっては、連邦政府も警戒すべき国家権力であり、個人を国家の介入から守ることが保守主義の基本思想です。これに対して日本人は国家権力と闘った経験がなく、他国の植民地にもなったことがないため、国家は父親であり、官僚は尊敬すべき知識人でした。ある意味では幸福な家父長国家だったわけです。

しかしそういう国家モデルは、もう維持できない。国民は明治以来の家父長主義を脱却して、父親から自立しなければならないのです。それは大きな社会コストをともなう抵抗の強い改革であり、みんながが仲よくする「友愛」によって実現することはできない。政治的リーダーには、国家への懐疑という意味での保守主義が必要であり、官僚機構に寄生してきた社民政党にそういう決意があるとは思えない。民主党の実際にかかげている農業所得補償や子供手当は、最悪の家父長主義です。

その意味では、自民党が割れて本来の保守主義の党ができないと本質的な改革はできない、という小沢一郎氏の政治信念は正しかったのです。しかし社民政党に保守主義を接ぎ木する小沢氏の試みは、挫折しました。彼が16年かかって失敗した改革を、いかにも腰の引けた鳩山氏が実現できるとは思えません。日本の政治の混迷は、もう一世代ぐらい続くのではないでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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