国債の負担--池尾和人

2009年06月08日 22:57

野口悠紀雄先生の「超」整理日記#466(『週刊ダイヤモンド』6/13)を読んで、少し気にかかったので、国債の負担に関して整理しておきたい。

確かに、リカードの等価定理が成り立つような状況を想定すれば、財源を直接税金に求めようが、国債で調達しようが無差別であり(これは一種のMM定理と同じなので)、何に使うか(支出の内訳)だけが問題だということになる。こうした趣旨なら、疑義は全くなく、正論だと考える。

しかし、リカードの等価定理が成り立つかどうかには、内国債か外国債かの区別は無関係である。他方、内国債の場合には負担が生じないとするラーナー流の議論は、世代会計(generation accounting)の観点からは、きわめてミスリーディングである。


いまごく簡単な世代重複モデルを考えることにし、第1世代は第1期と第2期の2期間だけを生き、第2世代は第2期と第3期の2期間だけを生きるとしよう。そして、各世代はその世代が生きる最初の期にのみ収入があるとし、第1世代の第1期における収入をY1、第2世代の第2期における収入をY2であるとしよう。金利はゼロだと考える。また、論点と関係しないその他の貯蓄行動等は無視する。

ここで、第1期に第1世代が受益を受ける政府支出がGだけ行われるが、それを(1)第1期に第1世代に対する課税でまかなった場合と、(2)第1期に国債の発行を行い、その償還のための増税を第3期に行うという場合を比較して考えてみよう。

(1)の場合には、第1世代の生涯可処分所得はY1-Gになる。第2世代の生涯可処分所得にはなんの影響もなく、Y2のままである。

(2)の場合には、国債購入という「貯蓄」を行った後に第1世代が使える所得は、やはりY1-Gであるが、加えて国債という資産が手元に保有されていることになる。そして、(2-A)第2期を迎えたとき、第1世代が保有している国債を遺産として(無償で)第2世代に継承させたとすると、第2世代の遺産を加えた収入はY2+Gになるが、第3期になるとGだけの税金を支払わなければならないから、Y2+G-G=Y2で、結局、生涯可処分所得はY2となる。すなわち、国債の負担は生じない。

しかし、(2-B)第2期において第1世代が保有している国債を売却(このモデルでは、買い手は第2世代しかいない)して消費にあてたとすると、第1世代の生涯可処分所得は(第1期に貯蓄した分を第2期において取り崩しただけということになって)Y1になる。ところが、第2世代の生涯可処分所得は(保有する国債はその償還のための増税と相殺されるので)Y2-Gになる。要するに、国債発行を通じて第2世代(将来世代)から第1世代(現行世代)への所得移転が生じる。この意味で、国債の負担は将来世代に転嫁される(第1世代と第2世代の合計所得には変化はないが、再分配が生じる)。

以上の簡単な例から確認できることは、世代間で国債がどのような形で受け渡しされていくかによって、国債の負担が生じるか否かが変わるということである。(将来世代にとって)国債の負担が生じないといえるためには、国債相当額の資産が無償で次の世代に継承されていかなければならない。この条件が成立しなければ、国債は現行世代が将来世代から所得を奪う手段となる。

最初は、内国債として発行されたとしても、金融市場がオープンな現在においては、それを後に外国人に売却することはいつでも可能である。上の(2-B)では第2世代が買うとしたが、第1世代は外国人に売却すると考えてもよい。このとき第2世代は、国債購入の支出をしなくてすむが、それゆえ国債も保有していないので、増税分だけ生涯可処分所得が減ることになって、やはりY2-Gとなる。

リカードの等価定理が成立するためには、国債の償還のための増税が第2期に第1世代に対して行われるか、第1世代が子孫(第2世代)のことを配慮して国債の償還に必要な額の資産をタダで譲り渡すことが条件になる。果たして、これらのいずれかの条件が現代日本で成り立つのであろうか?

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