携帯通信機メーカーにガラパゴス化の反省はあるのか? - 松本徹三

2009年07月08日 06:01

一昨日の日経の第一面トップには「携帯、海外販売に再進出」という大きな文字が踊っており、NEC、パナソニック、シャープ、東芝、富士通などの海外市場への再進出が華々しく報じられていました。日本のメーカーにもっと海外市場に進出してほしいという思いが人並み以上に強い私にとっては、それはそれで嬉しいニュースではあるのですが、問題はその記事の内容です。


過去に起こったことに触れたところには、「日本が世界に先駆けて2001年に導入した第三世代(3G)携帯電話は、海外での普及が遅れ、軒並み苦戦」と、あたかも「日本は技術的に進んでいたのに、海外市場がもたもたしていたのでうまくいかなかった」と、責任転嫁をするかのような文章しか書かれておりませんでした。こんな認識では、また失敗を繰り返すのではないかと、私は危惧します。

例によって、日経は、十年一日のごとく、「日本が先駆けて」と誇らしげに書いていますが、世界標準の完成を待たずに先行導入したドコモは、「コストの割にメリットがない」と考えたユーザーが冷ややかにしか反応しなかった為、2年間大変な苦労をしました。このことはドコモ自体も「失敗だった」と認めていることです。

欧米市場でも、当初は「今は誰も相手にしないTV電話」をキラーアプリケーションと考えて、インターネットとの関連付けを怠った為、3Gの浸透が予想以上に遅れたのは事実です。しかし、ここ数年は着実に浸透しつつあり、Nokia、Samsung、LG、Motorola、SonyEricssonの5強は勿論、最近では、ZTE(現状で台数では世界第6位)やHuaweiのような中国メーカーでさえ、3G端末で実績を稼いでいます。

特にSamsungの場合は、当初から3Gのハイエンド機に焦点を絞り、瞬く間にMotorolaを追い落として世界第二位の座を確保したのですから、日本メーカーは、色々な言い訳をする前に、単純に「何故Samsungに出来たことが自分達に出来なかったのか?」と反省すれば済むことではないでしょうか?

私には、日本の携帯端末メーカーが世界市場で惨敗を喫した理由は、下記のような単純明快なものであると思えます。

1)トップマネージメントに「世界市場で最後まで戦う」という強い意志がなかったこと。

2)細かいところでの技術にこだわり、そこでのわずかな優位性を過信して、マーケティングを軽視したこと。

3)コスト競争力がまったくなかったこと。

コスト競争力については、「ボリュームが稼げないので、膨大な開発負担が1台当たりのコストに重くのしかかった」ことは事実ですが、その前に、「機能がどんどん複雑化していくのに、きちんとしたOSを作ることを怠った為、モデルごとの開発費が膨大になった」ことが大きいと思います。つまり、客がどんどん増えていくので、うれしい悲鳴を上げながら増築に増築を重ねた温泉旅館のようなもので、いつの間にか迷路のような複雑な構造になってしまい、合理的な造りの新築旅館に太刀打ちできなくなってしまったのです。

日本では、これまでは誰もが、「日本の携帯電話機は世界で一番進んでいる」と信じてきたようですが、この神話はiPhoneの登場で完全に崩壊しました。iPhoneを使った人にはすぐに理解できることですが、iPhoneは多くの点で日本の既存機種に圧倒的な差をつけています。まず、画面が美しく、使い勝手が快適です。その上、アプリが毎日どんどん増えていっており、日々「新たな使い方」が提案されていくかのようです。

これは、iPhoneにおいては、システム全体が当初からそのような「戦略」に基づいて作られたからであり、「戦略なき戦術」に終始してきた日本メーカーは、すぐには追いつけそうにありません。日本の携帯通信業界が、「猫をなでていたら虎になってきた」感じで毎日を過ごしている間に、海の向こうでは、「虎を飼いならすのはどうしたらよいか」を初めから考えていた会社があったということです。

さて、それでは日本のメーカーはもう勝てないのでしょうか? 私はそうは思いません。実は、私は、多くの人達の悲観論とは正反対に、「これから日本メーカーの反撃が始まる」と信じている人間の一人なのです。

その理由の第一は、日本メーカーもようやくOSの必要性に目覚めたこと。そして、時あたかも、Appleに対抗できるAndroidのような無償OSも使えるようになったことがあります。こうなると、これまでの日本メーカーのコスト高の最大の原因だった「モデル毎の膨大なソフト開発費」が、オープンOSや種々のミドルウェアを使うことによって解消される可能性があります。

一方、魅力的な携帯端末を作るには、カメラやディスプレイ、様々な通信デバイスや各種のセンサーなどを小さなスペースに収め、個性的なエクステリア・デザインで纏め上げる必要があり、この仕事はパソコン等を作るよりはるかに緻密な能力を必要とします。こういった仕事は、元来日本人が得意とする仕事でありますから、日本メーカーが比較優位に立ってもおかしくないと思います。

そして、その理由の第二は、SamsunやLGが携帯端末の巨大市場に支えられて、惜しみなく宣伝広告費をつぎ込み、世界中で自社のブランドを確立しつつある状況を横目に見ると、これまで踏ん切りがつかなかった日本メーカーのトップも、「このままでは家電製品の競争にも影響が出る」と憂慮せざるを得なくなるであろうということです。

実際問題として、現在の携帯電話端末は、デジタルカメラやオーディオ機器、ポータブルゲーム機やPDA、更にはノートパソコン市場の一部まで蚕食する勢いですから、この分野でのプレゼンスを捨てることは、エレクトロニクスの多くの分野から撤退せざるを得なくなる可能性もあるので、これ以上の逡巡は出来なくなっていくでしょう。

総務省や一部の学者の中には、「日本では携帯通信事業者の力があまりに強いために、メーカーは自主性を奪われ、これが世界市場における競争力の低下を招いたのではないか」と考える人達がいたようです。この推測はある程度正しいと思いますが、だからといって、通信事業者にやり方を変えることを求めたところで、問題の解決にはならないでしょう。

しっかりした戦略を持った一流のメーカーであれば、仮に「言うことさえハイハイと聞いていれば、値段のことはあまりやかましく言わず、注文をくれる」顧客がいたからといって、その為に自らの自主性を失うというようなことはないでしょう。あくまで世界市場を主戦場として意識し、日本市場は「有難い下支え市場」と考えていれば、国内における強力な通信事業者の存在は、プラスにこそなれ、マイナスにはならない筈です。

昨今は、あまりに「ガラパゴス化」ということが方々で言われるために、「ガラパゴスで何が悪い」と開き直る向きもあるようですが、狭い世界での独自な進化は、外の世界から富(雇用機会)を稼ぐことに役立たないので、やはり誉められたものではないと思います。日本の通信インフラメーカーは、光伝送などの分野を除いては、残念ながら既に世界での競争からは脱落したかのようですが、携帯通信機器メーカーは、その本来の強みを生かして、何とか踏みとどまってほしいものです。

松本徹三

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