竹森俊平氏への疑問 - 池田信夫

2009年07月09日 12:45

池尾さんの記事に引用されているのとまったく同じ記事が、日経ビジネスオンラインに出ています。私も、この記事を読んで引っかかりを感じました。まず竹森さんは、池尾さんの同じコラムを引用して、こう書きます:


前川リポートの問題意識は、「日本の貿易収支の黒字を輸入の拡大を通じて減らす」ことにあった。つまり、日本経済全体が自動車の輸出に依存している事実を問題にしていたのではなく、自動車輸出は今後とも重要だが、さらに海外からの製品輸入が増えるように市場を開放するべきだというのが基本思想だった。
(強調は引用者、以下同じ)


これは正確ではありません。前川リポートの原文の第1項目は「内需拡大」で、その内容は「外需依存から内需主導型の活力ある経済成長への転換を図るため、この際、乗数効果も大きく、かつ個人消費の拡大につながるような効果的な内需拡大策に最重点を置く」と書かれています。第3項目に「市場アクセスの一層の改善と製品輸入の促進等」もあがっていますが、前川リポートは、明らかに「外需依存」を問題にしており、内需拡大を「最重点」の政策として提言しています。

さらにいえば、通商交渉で米政府が要求してきたのは、市場開放よりも「430兆円の公共投資」などの内需拡大策でした。当時すでにほとんどの工業製品の関税がゼロになっており、市場開放の余地が少なかったからです。前川リポートについては「経常収支がつねに均衡する必要はない」という経済学者の批判もありましたが、リポートの最重点が内需拡大策だったことは歴史的事実です。

もう一つは、池尾さんも引用している部分ですが、私はもっと素朴に日本語として疑問を感じます:

今、日本の全労働者が就業時間の2割を削って、その時間を家族の高齢者の介護に当てたとしよう。その結果、精神的な満足は得られるかもしれないが、所得と生活の水準の低下は免れず、GDP(国内総生産)も2割ほど減るだろう。全労働者が2割就業時間を削る代わりに、労働人口の2割が医療と介護を職業に選ぶならば、他の労働者との代金のやり取りによってGDPは膨らむかもしれないが、結果は同じはずだ。

たしかに国民の2割が無償のボランティアになったら、GDPは減るでしょう。しかし医療や介護を職業として行なえば、そのサービスへの対価が発生します。現に竹森さんも「GDPは膨らむ」と書いているではありませんか。その膨らむGDPが2割を上回るか下回るかは先験的にはわかりませんが、労働者の2割が無償で介護するのと「結果は同じ」ということはありえない。それとも自動車産業のGDPと福祉部門のGDPには、何か本質的な違いがあるのでしょうか?

以上は、特に経済学の高度な理論を援用しなくても判断できる誤りで、たぶん竹森さんのケアレスミスだと思われるので、彼の本論である医療についての議論には言及しません。この記事が誤読であれば、反論を歓迎します。「アゴラ」に投稿できるよう招待メールを出しましたので、そのメールからライブドアにログインすれば投稿できます。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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