ビッグ・アイディア/ビッグ・ヴィジョン政治の復活 - 矢澤豊

2009年07月28日 22:45

先日YouTubeでニュースをチェックしていたら、(個人的に)懐かしい人が登場していました。


パディ・アシュダウン(Paddy Ashdown)氏。1988年から1999年まで、イギリスの第三党、Liberal Democrats(自由民主党...と訳したくない...)の党首を務める。2001年に政界の第一線を引退したのち、一代貴族として貴族院に籍を置きつつ、国連/EU代表としてボスニア紛争の後始末(2002年~2006年)をしていた。2007年には潘基文国連事務総長から国連アフガニスタン支援ミッションの代表就任を打診されたが、現職アフガニスタン大統領のカルザイ氏などの反対にあって、これを見送った。

アシュダウン氏がひさしぶりにメディア登場していたのは、このアフガン情勢の緊迫化のためでした。総選挙一色で、あまり日本では報道されていないのかもしれませんが、アフガニスタンでは8月20日の大統領選挙を成功裏に行うべく、国際治安支援部隊の治安維持活動が積極的になっています。これに伴い、米・英軍はヘルマンド州を中心とした、タリバン勢力掃討作戦を発動。おかげで英軍はこの7月だけで20人近くの戦死者を出し、その内一人は佐官級の大隊長という事態になっています。

久しぶりにお目にかかったアシュダウン氏。ボスニア以降いったいなにをしていたのかと思い検索してみたところ、その他大勢のセミ・リタイア政治家諸氏の御他聞に漏れず自伝を書いておられました。

この自伝のプロモーションの為のレクチャーの映像がYouTubeにアップされていたのですが(コチラ)、ここでアシュダウンさんは興味深いことを言っています。

曰く、「政治においてCreedが復活する。」

Creedとは「信条」と訳すべきでしょうか。

アシュダウン氏にいわせると、保守党サッチャー革命以降、労働党ブレア首相が唱えた、

「我々は保守党の政策方針を大幅変更しないが、保守党より上手に政権運営を行ってみせる」

といったような、「Better Manager」/「優秀な経営者」的な要素をアピールする政治、つまり各政党/政治家が経営手腕を競うような政治は終わりを告げ、より根本的かつ相反的な政治信条、主義、思想が政治の場でせめぎあう時代がやってくるだろう – またそうした思想的対立を避ける政治に対して選挙民はそろそろその根本的な不誠実さ、胡散くささを感じ始めている – ということらしいです。

たしかに、日本という枠組みにとらわれずに世界を見渡した時、これからの世界像に関して根本的な議論と政策の方向付けが必要な問題が山積しています。たとえば現時点において多くの国々では2008年金融危機への対応から、選挙/政権交代といった政治的プロセスを経ないまま実質的に社会主義的な政策への舵きりを強いられた状態にあります。この状態が続けば、緊急事態における政策発動の現状がそのまま継続することに既得権益を見いだした勢力が、後付けの政治的理由を掲げて「大きな政府」を維持/擁護することになるでしょうし、またそうした動きへの反動も比例して激しくなるでしょう。また経済の低迷で一息ついているとはいえ、世界経済のグロバーライゼーションは不断に進んでおり、金融危機にいたる金融バブルのからくりが露呈したように、この世界的規模の経済活動に対して、19世紀以来の国民国家(Nation State)の枠組みは有効に対処できていません。しかしその一方ではEUのような超国家組織は、選挙民に対する政治的アカウンタビリティのギャップを埋められずにいます。また中国、インド、ブラジルなどの新興国の抬頭による新世界秩序の出現と、大国ロシアや中東アラブ/イスラム勢力の社会/経済/政情不安はこの先5~10年にわたって世界中のどの国も避けて通れない不安定要素でしょう。

こうした先が見えにくい混沌の時代にあって、選挙民が求めているのは、従来通りの政策をよりスムーズに行う政治ではなく、見通しの効かない未来に対してあえてビジョンを提示出来る政治ということになります。人々は「次に目指すべきもの」を求めているのです。意識しているのと無意識であるのとを問わず、毎週エコノミスト紙を読んでいるとか「みのもんた」さんを観ているとかにかかわらず、程度が高いの低いのといった問題とは別のより根っこの部分で、有権者はこれからの時代の座標軸となる国家ビジョンと、それを裏付ける政治思想/信条/主義/アイディアを求めているのです。

オバマ氏の大統領選挙勝利は典型的な「より優秀な経営者」候補による選挙戦勝利の最後といえないでしょうか。来る日本の総選挙において、立候補者と有権者の意識がこうしたレベルにいたるのであれば、日本は先進国中にあって21世紀における民主主義と政治のありかたに関するグローバルな対話でリーダーシップを取れる位置につくことができるかもしれません...と、日本を離れて海外に住み幾星霜...日本のメディア報道に晒されずにいると、どうも突拍子もない空想が先走るようです。池田さんはじめ、ブロガー諸子の憤慨や、Twitterでのつぶやきを眺めるかぎりでは、それどころではなさそうですね。

既得権益に立ち向かうのではなく、せめぎあう既得権益の間を巧く遊泳すること(それはそれで貴重なスキルですが)を優先する政治家に、未来のビジョンは語れないでしょう。破壊的創造なくして現状を打破するには既得権益を代表する勢力の弱体化が前提になりますが、それはとりもなおさず既得権益の基盤となっている日本経済の衰亡を意味しています。

しかし、以前に「楽観する」ことで述べさせていただいたように、暗いことばかりに目を向けて、安易な末世思想に流れても有益なことはありません。この「アゴラ」に目を通してくださっている有為の皆さんの視線は目前の波だけにむけられているのではなく、目には見えない沖を流れる黒潮の動き探っているべきだと思いますが、いかがでしょうか。

「里はまだ 夜深し富士の 朝日影」江川太郎左衛門英龍

オマケ
アシュダウンさんはカラフルな前歴の持ち主で、英海兵隊士官として1960年代初頭のボルネオ紛争に参戦、その後SBS(英海兵隊特殊舟艇部隊)を経て、香港における中国語研修の後、駐ジュネーヴ外交官(実はスパイ)。しかし週三日勤務の優雅な生活にあきあきしたので政界入りを志し、7年間の浪人生活後、下院当選を果たした。

(アフター・ディナー・スピーチのお手本ですな)

アフガニスタンに関するアシュダウンさんの主張には傾聴すべき点が多い。特に国際復興援助の名目でかき集めた援助資金を流用しなければ運営できないような大統領選挙をやることが、どこまで「アフガニスタンの復興」という究極の目的につながっているのかという疑問は、アメリカ国務省主導のドグマティックな「国際支援(おせっかい?)」に対するイギリス式プラグマティズム外交の面目躍如たるものがあるように思えます。

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