選挙後の政局のデジャヴュ - 松本徹三

2009年08月02日 14:13

選挙の行方はもう見えているようなもので、あまり面白くもおかしくもない状況ですが、その後の政局となると、色々なことが起こりそうです。選挙のための人気取り政策が各党のマニフェストに列挙されているだけの今の状況では、政権交代が行われても日本の将来の基礎を作るような活目すべき政策が導入されることは期待しにくく、むしろ将来の負担が更に蓄積されていくような気がして、暗い気持ちにならざるを得ませんが、色々な思惑に駆られての政治的な合従連合が行われると、この中で、あるいは何か面白いことが起こるかもしれません。


かつての一時期、自民党を野党に追いやった細川政権を実質的に仕切っていた小沢一郎氏は、渡辺美智雄氏や海部俊樹氏を自民党から離党させて保守勢力で多数派を形成し、もともと同床異夢だった社会党勢力を政権から追い出すことを画策、ほぼ成功しかかっていたにもかかわらず、亀井静香氏らの自民党の策士達が土壇場で小沢氏に捨てられた社会党を抱きこんで、驚天動地の「村山首班指名」を行い、新進党を逆に野党に転落させたことは、未だに鮮烈に記憶に残っています。

現状では、自民党も民主党も、それぞれに異なった政治的傾向をもつ人達の寄せ集めであり、「自民・公明」対「民主・社民・国民新党」の対峙という図式にも、全く何の必然性も感じられません。左派勢力が衰退したことを除けば、細川政権が成立した頃の小会派分立の状況と、実質的にはあまり違いはないように思えます。

一方、かつてのキングメーカーだった小沢氏は、なお民主党内で隠然たる力を持っており、野党転落が確定的とも思われる自民党内には、泥舟から早く抜け出して権力に近付きたい人達が満ちています。政策面ではあまりよいアイデアは出せないが、政局面ではアイデア豊富な人達が多いのが、日本の政治家の哀しい現実ですから、きっと何かが起こるような気がします。

ところで、こんなことを言うと意外に思われる向きも多いかもしれませんが、私は、実は、あの奇想天外、驚天動地の「村山内閣実現」を、日本の政治史上でのエポックメーキングな出来事として評価している人間の一人です。

村山内閣は、「非現実的な政策集団」だと思われていた社会党が、実は「普通の人達の集まり」だったことを明かし示しました。この政権下でも、「社会主義的な経済政策」で日本経済が打撃を受けるといった事態は起こらず、一方、外交面では、「村山談話」で「日中関係の喉に引っかかっていた骨を抜く」という成果が挙がりました。

(「これ位は社会党の顔を立てなければ」という配慮が、「古めかしい国家主義的な人達への配慮」を少しだけ上回ったということだったのでしょうが、このおかげで、歴代の日本の首相は、日中関係で何か感情的な問題が生じても、「村山談話の立場を堅持する」と言って問題の深刻化を防ぐことが出来ました。)

社会党自身にとっては、「普通の人達の集まり」だったことが白日の下に示されたことによる打撃はあまりに大きく、その後は見る影もないほどに落ちぶれて、日本の「左翼」は共産党一党に一元化された感がありますが、それで国民が失ったものは実は何もなく、これによってむしろ健全な二大政党制への道が大きく開けたような気がします。

残念なことではありますが、日本は、「国民一人一人の資質は平均すれば結構高いのに(兵隊は有能なのに)、有能な政治家や戦略家が存在しない(将軍と参謀本部が駄目)」というのが世界の定説になっており、国民の多くもそう感じているようです。

この流れを変えるためには、「誰か偉大な指導者が彗星のように現れる」のが一番よいのですが、それは当面は「叶わぬ願望」らしいので、それならば、「とにかく何らかの不安定な状態が生じて、活発な政治的な争いがおこり、この中から何らかの全く新しい流れが生まれてくる」ことに期待するしかありません。

例えば、「対抗する勢力との差別化のために、苦し紛れに打ち出した政策が、予想外のところで大きな成果を生み、これが政治の流れをも変えていく」という「ウルトラC」も、あり得るのではないかと私は思っています。

民主党は「脱官僚」をあれだけ明確に謳ったのですから、まさか今までのやり方をそのまま踏襲することは出来ないでしょう。しかし、「官僚に頼らずに、本当に政策を立案し、履行していくことができるのか?」ということは、多くの人達が危惧していることです。つまり、スタッフとブレインが圧倒的に不足しているのに、どうして「脱官僚」でやっていけるのかという単純素朴な疑問です。この疑問に答えるためには、民主党は、現在の官僚組織の外に、何らかの形で強力なブレインを求めていくしかないでしょう。

一方、先回自民党が野党に転落した時に「手の裏を返したように冷たい扱いをした」として恨みを持たれ、その後自民党が与党に復活した時には相当のしっぺ返しを受けた官僚達は、とても慎重になっており、今度は下野した自民党の政治家にもサービスを怠らないでしょう。

こうして、攻める方も守る方も「政策立案と履行の能力」を争点にするような事態が生じると、「政局」と「政策」が微妙に絡み合い、「政策のウルトラC」が生まれてくる可能性もあることを、私はひそかに期待している次第です。 

松本徹三

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