内需拡大の原資を如何にして作るのか? - 松本徹三

2009年09月02日 08:54

内需拡大が経済再生の最大のポイントであることには誰も異議はないでしょう。しかし、どうすれば内需が拡大できるのかについては、当然のことながら玉石混交の色々な意見があります。

内需拡大策と言っても、「大企業から税を取り立てて。これを一般家庭に配る一方で、労働組合を支援して、配当原資を削らせて賃上げを実現する」といった類の空想社会主義的な考えは、この際あらためて論じる価値もないでしょう。


法人税は、日本の税率は39.54%で、2位のアメリカ、3位のドイツ、4位のカナダ、5位のフランスを押さえて、堂々世界一の高率です。(尤も。アメリカの場合は、平均値では日本を下回るものの、州毎に州税の率が違うので、12%の州税を徴収しているアイオワ州を筆頭に、日本より効率になる州が24州あります。)

OECD加入国の歳入の内訳を平均値で見ると、2006年の実績で、所得税が36%(個人所得税25%、法人所得税が11%)、社会保険料が25%(雇用者負担15%、被雇用者負担9%)消費税が30%(一般消費税19% 特定消費税11%)その他(資産税など)が9%となっています。

ちなみに、一般の日本人から見ると理想的な福祉国家の典型に見えるスウェーデンの状況を見ると、法人所得税率は日本の39.54%に対して28%、消費税率は日本の5%に対して25%ですから、福祉の原資は消費税が主で、別に大企業から絞り上げているわけではないことは明白です。

人口918万人、全国合わせて東京都の人口にも満たない国であるにもかかわらず、Ericsson、Volvo、Sandvik、SSAB、Tetra pak、Ikea等々、日本でも馴染み深い有名企業が活躍する一流の工業国です。

自動車市場の世界的な低迷の影響を受けたVolvoに代わって、スウェーデン最大の企業となったEricssonは、通信システム市場では現時点で世界一の受注実績を誇り、2008年度の年収320億米ドル、175ヶ国で同社に雇用されている従業員の総数は78,740人(2008年度)に上ります。

ちなみに、世界の通信システム(インフラ)市場では、かつては、オランダのPhilips、カナダのNortel、日本のNEC、富士通を交え、十数社がしのぎを削ってきたのですが、現時点では、このEricssonを、Huawei(中国)、NSN(Finland+独)、Alcatel-Lucent(仏+米)の3社が追う「4強体制」になっています。

昨今の日本の論調は、「日本はこれまで、アメリカの過剰消費に支えられた(不健全な)輸出産業に依存して経済運営をしてきたが、これからは、家計を支援することによって実現する内需の拡大を経済政策の中心に据える」と言っているかのようですが、これは誠に奇妙な話です。

そもそも、世界最強の生産性を確立することによってこれまで日本企業を支えてきたトヨタ自動車などを、あたかも「経営の舵取りを誤り、日本経済をミスリードした」かのように批判するなどは、見当外れもいいところです。前述のスウェーデンは、3,849億ドルのGDPに対し、輸出は1,474億ドル、輸入は1,267億ドル(2006年度)ですが、Ericsson やVolvoのようにグローバル市場で成功している企業を、国民は常に誇りにしています。

グローバル経済は、多くの要因が重なってダイナミックに動くものであり、勿論、日本の一企業がコントロールできるものではなりません。市場が予想を超えて急速に悪化すれば、それに対応して生産を縮小し、雇用も縮小せねばならないのは当然です。しかし、トヨタに代表されるような「世界最強の生産性」は、今後とも、どんな時でも、国の経済をしっかり下支えする国民経済の重要なファクターであり続けるでしょう。

そもそも、民主党などが今言っていることは、「官僚支配を改めれば、無駄遣いがなくなり、この分を一般家庭にばら撒けば、消費が拡大する」という、失礼ながら高校の生徒会の会長選挙の演説のようなレベルの話ですが、無駄遣い(例えば公共事業)をやめれば、これまでこの無駄遣いで潤ってきた人達(例えば地方の土木建設会社)の仕事がなくなり、この人達の消費がなくなりますから、結局は同じことです。(勿論、私は「無駄遣いをやめないでもよい」と言っているのではなく、「これは別次元の問題だ」と言っているのです。)

言わずもがなの事ですが、内需を拡大するためには、その対象が「輸出産業」であれ国内向けの「サービス産業」であれ、大企業向けであれ中小企業向けであれ、先ずは投資意欲を刺激して仕事を創出し、それによって雇用を増やし、それによって日本に居住する一般の人達の消費を刺激するしかありません。

今後、世界中で、「サービス産業」の全GDPに占める比率が高くなっていくことは明らかですが、それは、基本的な産業(一次産業や製造業、エネルギー、環境保護、土木建設、運輸交通、情報通信に関連する産業など)の生産性向上によってもたらされる「成果」(配当のようなもの)です。「サービス産業」だけが単独で存在できるものではありません。

結局のところ、現在の政治上の議論の多くは、つき詰めれば経済の問題であり、経済の問題は、経済の原則に基づいてしか解決できないのに、これを論じている人達が、テレビや新聞を含めて、一向にこのような「経済原則についての啓蒙」に努力せず、「日本特有」としか思えない「情緒的な議論」や、古色蒼然たる「イデオロギー的な議論」に終始していることは、慨嘆せざるを得ません。

具体論でも、論じるべきことはたくさんあるのに、そういった議論はあまり耳にしません。例えば、日本全体を一つの法人と見立てて、そのバランスシートを見たときには、一方では膨大な国の累積債務があり、一方では他国に例を見ない規模の個人貯蓄があることが見て取れますから、何とかしてこの個人貯蓄を消費に振替え、これによって税収を増やして、累積債務の解消をはかるべきと思うのですが、その為の具体論は、いつどこから出てくるのでしょうか?

私も、今回はまた埒もない一般論に終始してしまいましたが、次回からは、そういった具体論についても色々と提言をして行きたいと思っています。

松本徹三

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