原口総務大臣の今後に期待 - 松本徹三

2009年09月23日 23:52

最近の二回にわたる投稿で、私は原口新総務大臣の既得権者寄りの発言に深い懸念を表明しましたが、別に頭から偏見を持っているわけではありません。民主党の「次の総務大臣」であった時に、色々な人から色々な「ご進講」を受け、それに影響されている点も多い事は想像に難くありませんが、それは別に悪い事ではありません。私が唯一つ望む事は、一議員の立場と総務大臣の立場は根本的に違うのですから、今後は各方面の意見を十分に聞き、議論を尽くした上で、ご発言をお願いしたいということだけです。


またNTT問題に話を振って申し訳ありませんが、この問題について同大臣が、「古い時代のドミナント(独占)規制だけで議論すると、落とし穴にはまる」「切り刻む改革は二周遅れの議論だ」「情報通信の世界の趨勢は何なのかというところから議論すべきだ」などと発言しておられるのは、これまでNTTの経営者が色々なところで話していることの「受け売り」のようにも聞えますが、その論点自体は、別に大きく間違っているわけではありません。

これらの発言のポイントをNTTの日頃の主張と照らし合わせながら読み解いていくと、

1. 世界の趨勢は光通信網の拡充にあり、そこで後れを取らないようにしなければならない。

 2. しかし、光通信網の新たな建設は当面の利益を圧迫するので、その投資意欲がそがれないようにしなければならない。

  3. 従って、このような事も考えずに、「NTTはドミナントだから規制せよ」とか「NTTは大きすぎるから切り刻め」というような事ばかりを議論するのは良くない。

ということだと思いますが、これだけの論点に絞る限りは、概ねその通りだと思います。

しかし、ここで完全に欠落しているのは、「利用者の利益」と、それを守るために最も効率的と思われる「公正競争環境整備の必要性」の議論です。

光通信網の建設が何故必要かといえば、「利用者である国民に種々のメリットを与える」からであり、「強いNTTを維持し、その従業員を守る」為ではないはずです。それでは、どうすればそれを最も効率的な形で実現するかといえば、「NTTの言いなりになって、NTTに全てをやって貰う」のがよいのか、「別の方法」がよいのかは、当然意見の分かれるところでしょう。

この「別の方法」については、私の過去のアゴラの記事(8月3日付の「雇用を確保しながら労働移転を行う方策」)でも、種々の提言をしているので、あらためてご参照頂きたいのですが、その最大のポイントは「国民経済の視点から見て合理的な投資」を行いながら、且つ「中高年層の雇用維持の必要性」にも配慮しながら、「公正競争環境」を積極的に作り出していこうとしていることです。

つまり、「無駄な競争が国民(利用者)にとってマイナスになる基幹ネットワークの物理層」は、一事業者ではなく国が主導して投資を行い、各事業者はそれを平等で公正な条件で使いながら、それぞれの創意工夫で、「国民(利用者)が求めるサービス」を競争しながら提供していくようにすべきだというのが、私の提案です。

これは、言うなれば、「小さな町に同じような箱物をいくつも建てる」のではなく、また「金持ちが建てた唯一つの建物をその金持ちだけが使う」のでもなく、「町が立派な建物(公会堂)を一つだけ建て、そこで、色々なイベントや催し物が常時行われるようにする」方がよいのではないかという提案です。

原口新大臣には、選挙に際してどこからどのような支援を受けられたかに関わらず、NTTの話だけを鵜呑みにするのではなく、このような提案に対しても十分な時間を割いて耳を傾けて頂き、全てをオープンな場で議論してから、自らの所信を固めて頂くべきと思います。

「国が全てを取り仕切っていた旧共産圏諸国では、人々は良質な商品やサービスを安価に手に入れる事はできず、民間企業がそれぞれに創意工夫を凝らして競争する体制の方が結果としてよかった(色々な矛盾はなおも抱えているにしても、少なくともベターだった)」ということには、もはや異論を唱える人はいないでしょう。これと同様に、情報通信の世界でも、「基幹ネットワーク部分(箱物に該当する部分)」以外については、自由で公正な競争が保証されねばならないという事に異論はないでしょう。

但し、一般の産業では、「基本的には各企業に市場で自由に競争させるが、一定の企業が強くなりすぎた場合は『独占』の弊害が生じるので、これを『独禁法』で規制する」のが一般的であるのに対し、情報通信の分野は、「もともと国営(準国営)企業の『独占』であったものを、国の政策によって人工的に公正競争環境を作り出す」必要があったところが違います。

即ち、国が介入することなく、「力ずくの競争」を放置しておくと、「独占時代の遺産」をベースに、「圧倒的な規模のメリット」を享受している旧独占企業が、結局は雪だるま式に大きくなり、「気がついてみるとまた元の独占に戻ってしまっていた」という事態を招きかねないのです。

「ドミナント規制」とか「非対称規制」とかいうものは、元来そのような事態を招かない為にあるのであり、原口大臣が「ドミナント規制だけでは落とし穴におちる」と言われるのはその通りであるとしても、「ドミナント規制の必要性」を理解しておられないのであれば、これはもっと大きな問題です。その点で、「ドミナント規制」という言葉の前に、いとも簡単に「古い」という形容詞をつけてしまっておられることには、大きな危惧を感じざるを得ません。

ついでに言わして頂けるなら、「組織を切り刻む改革は『2周遅れ』の議論だ」という発言も、「組織を切り刻むのがよいのかどうかは分からないし、それで事足りるとする議論はよくない」という趣旨なら賛同出来ますが、「2周遅れ」とまで言われると、「原口さんご自身は、果たして『2周も進んだ提案』を持っておられるのか?」という議論を呼ぶでしょう。

最後に、「世界のルールにおける競争に勝てる環境を作っていきたい」というご発言については、勿論諸手を挙げて賛成ですが、原口大臣が、「世界のルール」についてのご進講を、どこの誰から受けておられるかについては、若干懸念の残るところです。

NTTグループには、通信技術や通信法制についてのご専門家が数多く居られる事は承知しており、また、それに対して敬意ももっておりますが、それでは、そういう能力をフルに活用して、これまで世界の動向をリードしてくる事が出来たのか(おくれを取ることはなかったのか)という事になると、残念ながらトラックレコードはあまり芳しくありません。

交換機のデジタル化は、アメリカのAT&T同様に遅れましたし、ISDNという袋小路に入った技術や、ATM交換という中途半端な技術にこだわって、IP化には大きなおくれを取りました。「光通信に比べれば中途半端」ということで、当初はADSLを徹底的に軽視(敵視)したものの、世界の大勢は一向にそのようには動きませんでした。また、進んでいた筈の第三世代携帯通信(WCDMA)でも、日本メーカーの力には一向になれませんでした。

何よりも大きな問題は、1990年代の初めに、AT&Tが自らの技術開発部門(ベル研究所)や機器製造部門(Western Electric)を自ら分離し、世界の競争市場に打って出られる体制を作り出していたまさにその時に、NTTとそのファミリー企業群は、「NTTを分割すれば日本の通信技術の開発能力が衰え、世界の競争に勝てなくなる」と主張して、これをNTT分割に対する反対論の最大の目玉の一つにしたということです。

私自身は、長年にわたって世界の通信業界の色々な動きの中に、色々な立場から参画してきましたが、「通信事業者でありながら、同時に通信技術の開発会社でもある」という現在のNTTの立場は、世界では際立って特殊であり、世界の他のプレーヤーは、NTTについては、概して「敬意はもつが、仲間の一員とは感じていない」というスタンスのように思えます。

私自身は、このような世界における特殊なNTTの立場を、特に悪いものだとも思っておりませんが、日本の政治家や官僚が、NTTの目を通してしか「世界のルールや競争環境」を見ていないとすれば、それは極めて危険だと思います。

かつて、旧郵政省出身で、現在のKDDIの前身の構成会社「日本移動通信」の副社長だった江川晃正さんが、たまたまどこかで行われていたITUの標準化会合の一つにわざわざ出向いて、”NTT is not Japan” (「NTTが言っている事が必ずしも日本を代表しているわけではない」という意味)と演説したことは語り草になっていますが、こんな若干場違いな席でまで、わざわざこんな事を言わなければならなかった程に、「日本の情報通信」と「NTT」を一体として見る傾向が、伝統的に日本の政治家や官僚にあるのは事実です。

政治家や官僚が真っ先にこのような状況から脱却しなければ、日本が「世界のルールにおける競争」について語れるのは、遠い将来の事になってしまうでしょう。先ずは原口新大臣ご自身が、とらわれない視点で大いに広い世界を見られ、世界各国における「公正競争環境整備」の現状を理解される事を期待してやみません。

松本徹三

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