国際離婚における親権・監護権(養育権)の問題 - 矢澤豊

矢澤 豊

「日本人の元妻が日本で養育していた子ども二人を通学時に連れ去ったアメリカ人元夫がアメリカ領事館に駆け込む直前に逮捕 – 現在勾留中」

(お子さんたちの画像もあるニュース映像をこのサイトに転載することにいささか抵抗がありましたので、画像を転載した私個人のブログ・エントリーまでリンクのみ張っておきます。)

いまさら「起こるべくして起こってしまった」、というのは当たっていないでしょう。すでにいままで数多く起こっていて、何度も指摘を受けながら問題が表面化していなかった日本の法制度の不備が、今回たまたま米メディアに取り上げられたといった方が当たっています。


私個人の考えとしましては、親同士の権利の折り合いに重点が置かれ、子どもの視点が欠如していると思われる欧米の法制度、そしてそれを反映したハーグ条約を批准することが、そのまま日本人である父母、ひいては日本という国のためになるとは思えません。またそうした欧米流共同親権を、日本における子育て環境という現実にそのまま適用することは決して望ましいとはいえないでしょう。元来、欧米の法制度は家庭法を専門とする弁護士たちが作ったものでして、こうした弁護士たちにお金をはらっているのは親たちなわけですから、「なにが子どもにとって一番望ましいのか」という視点が見失われてしまうのはある意味当然の帰結なわけです。

しかし事実上「連れ去ったもの勝ち」を容認している日本の現行の法制度や、日本法のもとに有効な保護が与えられていない外国人父母に対する救済措置(裁判所命令に対する抗告手続きの簡便化など)を整備/制度化することは喫緊の課題であるといえます。そしてこの問題解決にあたる日本政府の真摯な対応を、この機会に世界にアピールしておくことが重要だと思います。

いらぬおせっかいは百も承知、二百も合点ではありますが、一言申し上げておきます。夫婦異姓、死刑制度廃止など、大きな問題に取り組むことはもちろん大事なことです。しかし「神は細部に宿る」とも申しまして、こうした細かい問題の一つ一つを丁寧に解決していくこともまた大事な政治家、そして法律家のお仕事ですよ、千葉景子法務大臣。

なお、在ニューヨーク日本国総領事館がこの問題に関して簡潔にまとめた便利なQ&Aをそのサイトにアップしているので、ご参考までリンクを張っておきます(コチラ)。

コメント

  1. natgeolakeforest より:

    >>親同士の権利の折り合いに重点が置かれ、子どもの視点が欠如していると思われる欧米の法制度

    もしかして、共同親権=子供の視点が欠如している、、とお考えですか??共同親権だと子供が不幸に成りがちだという統計的に顕著な実証データでもあるのですか??

    ざっくり言って、多くの場合、子供はママもパパも好きなのでは??成人する過程でママともパパとも触れ合い、愉快に遊ぶことが大事なのでは??

    >>弁護士たちにお金をはらっているのは親たちなわけですから、「なにが子どもにとって一番望ましいのか」という視点が見失われてしまうのはある意味当然の帰結なわけです

    子供に弁護士費用を支払う能力がなければ、親が払うのが当たり前で、子供が費用を負担しないから、子供のベスト・インテレストという視点が見失われるとする見方は、少なくとも私には、説得力がありません。

    このニュース、アメリカでは、大きく取り上げられてます。CNN、NBCのモーニングショー、、、基本的トーンは、日本は異質だ、、、という感じです。

    日本も関連法規を改正し、共同親権を認め、ハーグ条約も早急に批准し、、、離婚後も子供という宝を大事に育てていこうとする価値感を大事にして欲しいと思います。

  2. bobbob1978 より:

    「ざっくり言って、多くの場合、子供はママもパパも好きなのでは??成人する過程でママともパパとも触れ合い、愉快に遊ぶことが大事なのでは?」

    流石にこれは論点がずれすぎでしょう・・・・。この記事はそんなことを問題にしているのではありません。

    「離婚後も子供という宝を大事に育てていこうとする価値感を大事にして欲しいと思います。」

    共同親権を認めることもハーグ条約に批准することも「子供を大事に育てる」ことの必要条件ではないですよ。
    法制度の不備を改めるにしても日本の価値観にあったやり方をすればよいのであって、欧米の価値観に合わせる必要はありません。

  3. natgeolakeforest より:

    >>流石にこれは論点がずれすぎでしょう・・・・。この記事はそんなことを問題にしているのではありません<<

    全く現実が判ってない。日本の多くのケースで、母親が親権を取り、子供の意思に拘わりなく、父親は子供に会うことすら出来ないという現実をご存知ですか?

    お父さんと釣りに行ったり、野球をしたり出来ない。お父さんに本を読んでもらったり、一緒に買い物に行ったり出来ない。こういう現実を無視し“そんなこと”と形容する意見に、子供は何と思うことでしょうか? 

    結論:共同親権を認めないこと自体に問題があるのです。

    >>日本の価値観にあったやり方をすればよい<<

    この場合の日本の価値観とは何ですか?離婚しても、子育ては、お互いにとって優先順位の高いことだから協力してやろうという大人の関係を築けないのですか?

    だとしたら、日本は、もっと大人になる必要がありますね。

    結論:“日本の価値観”という言葉を不要に乱用してますね。

    質問:“日本の価値観にあった法制度の不備を改めるべき”とのことですが、具体案なあるのですか???

  4. bobbob1978 より:

    やっぱりずれていると感じます。
    この記事の主旨は「誘拐に発展してしまうような最悪のケースを避けるために法の不備を改めるべきだ」ということであって「理想的にはこうあるべきだ」ということではありません。
    貴方が仰っているような「お互いにとって優先順位の高いことだから協力してやろうという大人の関係を築け」ば理想的なのは誰でも判っています。
    着眼点が違うのです。この記事で述べられているのは「最悪を避けるための方法論」であって、「最善を達成するための方法論」ではありません。
    矢澤氏が「最悪を避けるためにこうすべきだ」と書いているのに対し、貴方が「理想的にはこうあるべきだ」と書いているので「論点がずれている」と書いたのです。

  5. bobbob1978 より:

    あと私は共同親権もハーグ条約批准も「必要条件ではない」と書いただけで、「必要ない」と書いたわけではありません。
    「日本も関連法規を改正し、共同親権を認め、ハーグ条約も早急に批准し、、、離婚後も子供という宝を大事に育てていこうとする価値感を大事にして欲しいと思います。」
    という文章は、まるで「共同親権の導入とハーグ条約に批准することありき」かのような書き方だったので、「いやいや、別に必要条件ではないすよ。」と書いたまでです。議論した結果、共同親権を取り入れ、ハーグ条約に批准するのが日本にとっても最善であるならそれでいいと思います。ただ「それありき」という議論はおかしい。
    「欧米の価値観に合わせる必要はありません。 」と書きましたが、これは「合わせない」と言っているのではありません。「必要」がないと言っているけで、議論の結果「欧米の結論と同じになる」可能性を除外してません。
    日本国内で議論した結果欧米と同じ結論に至るのであれば、それは日本の価値観でもあります。「取り敢えず欧米と同じ制度を導入しておくか」と「日本国内で議論した結果欧米と同じ制度がいいということになった」では法が成立したあとの運用にも大きな影響を及ぼすでしょう。

  6. natgeolakeforest より:

    >>「最悪を避けるための方法論」<<

    一定の評価はします。しかし、リアクティブな対処法になりがちですね。根本的な問題を先送りするというバイアスが見え隠れします。

    >>「最善を達成するための方法論」<<

    そろそろ日本のファミリー・ローも抜本的な見直しをした方が良いのではというプロアクティブな視点でコメントしたつもりです。

    >>誘拐に発展してしまうような最悪のケースを避けるために法の不備を改めるべきだ<<

    ご存知のとおり、アメリカでは、日本の元妻が誘拐者で、牢屋に入るべき法体系になってます。従って、日本の元妻は、アメリカに来ることは出来ない。今は、アメリカの元夫が日本の牢屋に入っている。アメリカでは、子供が可哀想という世論が圧倒的で、日本の異質性を糾弾する意見も聞いてます。

    このケース、アメリカはあらゆる手段を行使して、日本に圧力をかけてくるシナリオが考えられます。これを単なる、機械的な法律論として対処すると、間違いが起き得ます。この点は、私も、矢澤氏の意見に賛同しています。

    これを機会に、日本のファミリーローが一歩前進することを、希望します。