国民新党の横暴をゆるすな!- 北村隆司

北村 隆司

今回の衆議院選挙で、国民新党は自民、公明と並んで惨敗を喫しました。党首と幹事長を失った上、比例代表でも百万票強(1.73%)という、結党まもない「みんなの党」の1/3しか得票出来ない惨めな結果でした。


国民の信任を失ったその国民新党の亀井党首に、郵政担当に加え金融担当を兼任させ、経産副大臣や総務政務官の席を与えた上に、落選した亀井久興前幹事長を総務省顧問に任用する厚遇振りは、異常としか思えません。当選者3名の国民新党をこれだけ厚遇する裏には、古い自民党的な政治的取引の臭いを強く感じます。これは、小沢氏の政治姿勢に生理的抵抗を持つ私の偏見でしょうか?

更に気になるのは、亀井氏の権威主義とやくざじみた品性の低さです。実例の幾つかを、新聞のインタビュー記事から拾ってみますと、

問:金融危機の反省を踏まえ、担当相としてどう対応するか。

答:今の金融機関は本来の機能を果たしていない。特に中小零細企業に必要な資金が回っておらず、黒字倒産が増えている。国には、企業に資金が回るようにする責任がある。 

問:返済猶予を導入すると、金融機関の経営に悪影響を与えないか。 

答:金融機関は借り手がいるから成立している。中小零細企業を育成すれば、それだけ借り手が増える。金融機関の資金繰りに問題が生じたら、国や日銀が面倒を見ればいい。 

問:郵政事業について、原口総務相と権限は重複していないか。又、3党でどのように連携していくのか。

答:俺は、鳩山首相から郵政担当に選任された。原口総務相とは話し合う必要もないし、(3 党などで作る)プロジェクトチームも考えていない。

更に、報道陣からモラトリアムの実現に藤井財務相が慎重な姿勢を示していると聞かされた亀井氏は「(銀行が)借り手の立場を考えないから国が口出ししようという話だ。これは政治の責任だ。俺がやる事に財務相が口を挟むのか。自分の仕事をすればいい!そう言って置け!」と言う始末。

私が国民新党を信用しない理由の一つは、亀井党首の言動が結党に際して国民に誓った「党の国民に対する約束」を真っ向から否定して平気な事にあります。ちなみに、小泉政権に対する怨念を込めた為か「強権政治の排斥」と「話し合い精神の尊重」を殊更に強調した同党の「国民との約束」には、「真に改革を目指すなら、先ずは国民の声に耳を傾け、さまざまな異なる改革への要望、相対立する利害を調整し、最大多数の最大幸福を探るのが政治の努めです。かけ声は勇ましくとも、国民の声を聞かない政治が国民を幸せに出来る筈はありません」という言葉がありますが、亀井党首の言動は、まさにこの言葉の対極にあるように思えるのです。

亀井氏の認識のずれにも問題があります。

「中小零細企業に必要な資金が回らない」「黒字倒産が増えている」「中小零細企業が育っていない」のは金融機関が役割を果さなかった為だという亀井氏の非難は的外れもいい所で、真因は池田先生や池尾先生が詳しく解説された通りです。

民間企業である銀行の自主性を尊重しながら、円滑な金融の確保をするシステムの構築が政治の重要な役割で、双方の自由意志で結ばれた契約に、政府が介入して無理やりモラトリアムを押し付ける手法は、自由主義社会を否定する愚行です。

亀井氏のモラトリアムがまさか徳政令ではないにしても、返済猶予は中小企業にとってもカンフル注射に過ぎず、経済の活性化と企業自身の競争力の向上が無ければ永続しません。一方この政策は、金融機関全体の70%を超え,270兆円にも達するといわれる中小企業向け融資の償還遅延を生み、日本の金融機関の体質を悪化させることは確実です。角をためて牛を殺す様な政策は、国民生活を更に苦しめる可能性さえあります。

「金太郎飴みたいに世界を同じ規則で縛るなどとんでもない!」といくら吼えても、世界の大勢とかけ離れた金融政策を採れば、日本に対する信用は取り返しのつかない程に低下してしまう恐れがあります。世界の金融秩序が「銀行の自己資本の一層の規制」に向かっている現状では、亀井氏が国際社会を説得してこの傾向を変えさせでもしない限り、日本の金融機関は世界から遅れるばかりです。

先日のドイツ総選挙で勝利したキリスト教民主同盟のメルケル首相は、連立相手を社会民主党から自由民主党へ乗り換え、従来の中道左派的傾向から中道右派へと舵を切りました。「財政悪化」「失業」「中小企業への貸し渋り」等、日本と同じ問題を抱えているドイツがどのように変わるか、興味深い処です。最近のファイナンシャルタイムスによりますと、、減税断行で経済浮揚を図り、温暖化ガスの削減の軸足を巨額な補助金を必要とする風力発電や太陽光発電から原子力に移して、財政悪化に備えると報じています。亀井金融相の積極財政やモラトリアム政策、ドイツの反原子力政策を範としてきた日本の社民党にも参考になる変化だと思います。

日本の中小企業への融資で改めるべき問題の一つに「個人保障」が挙げられます。諸外国でも「個人保障」制度はありますが、日本の場合は度が過ぎています。一方、中小企業の多くが「事業」というより「家業」に近く、透明性に欠け、貸し手にすれば書類の真贋が見分け難い場合が多いという側面もあります。

オーナー企業は、遺産相続、費用認識、税務申告の面で、大企業とは比較にならない自由裁量を持っている事も考慮に入れるべきでしょう。中小企業も夫々事情が異なり、十把一絡げで聖域扱いする事には些か疑問があります。

防ぎようも無い金融のグローバルの波を受ける日本で、傾聴に値する政策を何一つ出せない亀井氏は、東大経済学部卒。警察官僚を経て重用閣僚や自民党政調会長を歴任された経歴の持ち主です。同氏が東大の経済学部で何を学び、自民党の政策調査会でどの様な政策を作ったのかは知る由もありませんが、私には、「おいこら警察」の悪臭だけが臭ってきます。

金融専門家も沢山居る民主党ですから、亀井氏の乱暴な方針をそのまま実行に移す事は無いと思いますが、税法上の工夫や中小企業経営の透明化、「個人保障」無しの融資を通常化する制度の構築、黒字でありながら資金繰りが苦しい企業には、売掛金や当該企業の株式を担保に信用保証が出来る公的制度の確立など、事業の経営環境を改善する制度設計に努力して欲しいものです。

国民は「脱官僚」や「政治の透明化」を始めとする民主党の「1丁目1番地」を支持したのであって、国民新党の「1丁目1番地」を支持したのではありません。

それにも拘らず、「私が官僚の知恵も借りてきちんと仕上げる」「話し合う必要もない」「俺がやることに財務相が口を挟むのか」等々と、力を合わすべき相手に何の配慮もしない「独断専行」を宣言し、「モラトリアムに反対なら、鳩山首相が私を更迭すればいい。更迭なんてできっこない。」と、最後には恐喝じみた言葉さえも口にして憚らない、「古い自民党の体質丸出し」の人物の横暴を、民主党は許し続けるべきではありません。

国会対策上、国民新党との連立が必要だとしても、亀井氏は国内色の濃い郵政担当専任にして、国際的インパクトの強い金融相の兼任は一刻も早く解いて欲しいと言うのが私の民主党へのお願いです。

ニューヨークにて 北村隆司

コメント

  1. somuoyaji より:

    >「個人保障」無しの融資を通常化する制度の構築
    こんなとんでもないことを持ち出されるくらいならモラトリアムのほうがいいや、と金融機関は言うことでしょう。
    >黒字でありながら資金繰りが苦しい企業には、売掛金や当該企業の株式を担保に信用保証が出来る公的制度の確立
    国や地方による信用保証はすでにかなり行われています。まして黒字企業なら。問題なのは返済のための借金なので毎月の返済額が増えていくこと。
    返済条件の相談にのるより倒産させることを厭わない金融機関があることは確かなので、民間の問題と片付けるのもどうかと思います。

  2. bobbob1978 より:

    「金融機関の資金繰りに問題が生じたら、国や日銀が面倒を見ればいい。」

    こんな考え方をしている政治家が政治の中枢にいるから銀行のリスクヘッジが甘くなり、不良債権を増大させてしまうんですよ。
    ほんと、亀井氏は亡国の徒ですね。

  3. disequilibrium より:

    中小企業の信用の透明性を高めるためには、会計基準の厳格化と、財務情報の公開の義務付けを大幅に進めるべきでしょう。

    そのために、「ペーパーレス社会」をなるべく早く実現し、低いコストで、より密度の高い会計処理と、財務情報の閲覧・審査を行えるようにすべきだと思います。

    個人保証を伴わない形の融資を進める策としては、信用の透明性確保の他にも、
    例えば、企業が倒産した場合、過去に支払った役員報酬や、従業員給与から、最低限の生活費を除いた金額を返還させられる法律を作れば良いと思います。

  4. 松本徹三 より:

    「個人保証ナシの融資」は日本の金融機関にとっては「とんでもない」という話かもしれませんが、米国のベンチャーキャピタリスト等は、「社長の個人保証」などははじめから考えたこともないと思います。

    要は「市場」と「技術」と「経営能力」が噛み合っているかどうかを、投資(融資)する側が判断した結果こそが重要なのであって、担保や個人保証は元来二義的なものであるべきです。

    起業家の方も、自信と情熱は有り余るほどあっても、「絶対成功する保障」等はあるべくもないのですから、「うまくいかなかった場合は、妻子も含めて浮浪者になる覚悟を決めてください」とまで言われたら、「それなら起業はやめます」と言うでしょう。それは「本気か、本気でないか」という問題とは別次元の問題です。

    ところで、亀井静香氏ですが、「無理を承知で押し通す」彼のしたたかさは、過小評価してはなりません。「社会党の党首を首相に担ぎ出す」という驚天動地のウルトラCをやって、「負けるはずがない」と思っていた小沢一郎氏の新進党を破った、当時の自民党の立役者は彼です。警戒の上にも警戒が必要です。

  5. 松本徹三 より:

    もう一言。

    ドイツの状況は日本としても注目しておく必要があります。メルケル政権が、現実から多くを学び、連立の相手を変えて政策も変えつつあることは、極めて示唆に富みます。