来年度の国債発行は50兆円になると報道され、ようやく巨額財政赤字の問題に注目が集まるようになりました。民主党政権は増税をせず、無駄を排することで財源を作り出すということを選挙の看板にしてきたのですが、早くも雲行きが怪しくなってきたようです。
一方、民主党のブレインとも言われる榊原英資氏は次のように述べ、国債増発を熱心に奨励しています。
「日本の国債と地方債は合計で800兆円。日本人の貯蓄残高は総額1500兆円だから、日本全体で見れば借金はない。国債は有力な財源だ。子供手当も、高速道路の無料化も、暫定税率をゼロにするのも、国債を発行すればいい。(略) 1000兆円程度まで行っても、そこで止まれば問題ない」(8月21日産経ニュース、文芸春秋10月号にも同様の記事)
榊原氏は貯蓄残高が1500兆円あるので、追加発行は問題ないとされていますが、素人にはちょっと理解できません。自国民からの借りでも、外国からの借りでも、返済が危ぶまれたときは国が信用を失って金融市場が混乱する点は同じだと思うのですが、あるいは1500兆円を何らかの方法で吸い上げて、国債の償還に当てるという腹づもりなのでしょうか。
確率でしか答えられない問題に追加発行は大丈夫といった断定的な答を出すのは証券会社のセールとトークと同じで、学者の発言とは思えません。榊原氏が現政権にどの程度の影響力があるかは知りませんが、亀井静香金融・郵政担当相が10年度予算は100兆円以上にする必要があると発言したこととも符合します。
GDPに対する政府債務の大きさはどこまで可能か、なんてことは誰にもわからないでしょう。確実なことは日本が先進国の中で先頭を切って政府債務を増やし続け、未知の領域へと進んでいることです。臨界点は予測できなくても、その確率は間違いなく大きくなっている筈です。
臨界点は国内の事情だけでなく、海外の信用不安など不可抗力の原因によってももたらされます。また格付けの変更や他国の財政危機による連想などもきっかけになり、予測不可能な要素が数多く存在します。
また債務不履行は起こらなくても国債の暴落(金利の急上昇)など不可逆的・破壊的な変化が生じ、制御できなくなる可能性が高いのではないでしょうか。金利動向を見ながら国債発行額をコントロールする方法がいつまでも通用するとは思えません。
財務省出身者を日本郵政の社長に据えたことは国債引受け先として日本郵政を活用する下心があったのかもしれません。無理やり引き受けさせれば臨界点を少し先延ばしにすることはできるでしょう。それで現在の当事者は逃げ切れるという算段かもしれませんが、破綻時の破壊力はより大きくなります。
今回の不況を受けて、2011年とされてきた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の目標年次が2020年代初めと大きく後退する見込みとなりました。リーマンショック後の財政出動によって目標年次が一挙に9~14年も後退しましたが、鳩山政権の政策では目標年次がさらに大きく後退しそうです。
借金をするときは返済計画を示すのがあたりまえです。まず返済計画を作って、可能な借金額を見積もってから予算を決めるのが順序というものです。GDPに対する政府債務が異常な大きさになった以上、信頼性のある返済計画が是非とも必要でしょう。逆に言うと返済計画が作れないようでは信用を失う、ということになりかねません。
「こんなに借金して返せるのか」と返済問題に光を当てるのはマスメディアの役割ですが、プライマリーバランスの目標年次にすら関心を寄せる気配はありません。政府もメディアも「そのうち何とかなるだろう」ではいささか無責任すぎではないでしょうか。
OECDは9月30日、対日審査報告書(2009年版)で、日本の政府債務残高の増加に関連し、金融市場の信認を維持するためには、より詳細でかつ信頼のおける中期的な財政再建計画が必要との認識を示しました。
「人様」が借金の心配してくれているのに「本人」はお金を使うことにばかり熱心のようです。