中国に学ぶ ─中川信博─

2009年10月29日 16:00

─衰えることを知らない中国経済─

リーマンショック以降世界経済は停滞からなかなか抜けだせずにいます。特に英フィナンシャル・タイムズには「日本みたいになっちまうぞ」などと言われ、米ウォール・ストリート・ジャーナルでも「アメリカ経済は日本式になりつつあるのか?」とうれしいようなかなしいような記事が散見されます。そんななかアジアの大国、中国は「保八政策」を堅持してその経済成長を止めようとしていません。では日本と中国の違いはどこにあるのでしょうか?


─中国の戦略─

中国研究の第一人者である、国際政治学者で元防衛庁防衛研究所室長の平松茂雄先生は、その著書や講演で中国の軍事的戦略と米中関係をこう分析しています。

概略を申し上げれば、中国は1950年朝鮮戦争で米国から核の恫喝を受け、毛沢東はあらゆることに優先して核開発を推進します。それは餓死者を出すほどでしたが、1965年最初の核実験で核爆弾を造り、1970年人工衛星の打ち上げ成功で中距離ミサイルを所持します。これをみて、米国は中国を「ようこそ核クラブへ」とばかりに1971年国連の常任理事国に迎え入れます。そして1972年にニクソン訪中が実現するわけです。

文革を清算した、1978年からは�眷小平が改革開放、社会主義市場経済に移行して、その後の経過は説明するまでもなく、ゴールドマン・サックス、メリル・リンチ、モルガンスタンレーなどが中国に足繁く通い、中国建設銀行、中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行と巨大銀行を育て、中国人民銀行の周小川総裁などはリーマンショック以降、欧米の新聞、経済誌に毎日のように顔を出しております。─日銀の総裁などほとんど取り上げられません─

現在ではSDRバスケットでドル基軸・IMF体制に揺さぶりをかけるなど、ある意味、世界金融、経済に大きな影響を与えていると言えるでしょう。─この間、ブッシュ時代の財務長官、ポールソン氏などは財務長官就任前にゴールドマンサックス会長として、70回も北京へ通って、中国建設銀行のIPO幹事役を獲得しています。─

─軍事力と経済は両輪─

ここまで米国の対応がよく分かると思いますが、自国にとどく核ミサイルを所持した瞬間から、中国に対しへりくだった様子が見て取れます。核戦略の一つに相互破壊確証戦略がありますが、中国はこの戦略トライアングル─ロシア、米国─の一角をなしているのです。そこで米国は核の均衡を保ちつつ、経済でプロフィットを獲る戦略へ切り替えたことは容易に想像できます。

一見しますと中国が米国主導の市場主義を無条件で、取り入れたようにみられますが、そうでしょうか?

欧州では依然として─特にフランスは─、チベット、ウイグルに対する人権問題を取り上げ、中国との交易に疑問を呈し、中国製品のボイコット運動まで引き起こしています。

一方米国ではリチャード・ギア、シャロン・ストーンが中国を批難して、入国拒否や中国国内で不買運動─シャロンストーンがポスターに登場していたフランスブランドが攻撃の対象になりました─が起きましたが、しかし当時のブッシュ政権はとりたてて行動は起こしませんでした。

そのことを民主党のペロシ下院議長やクリントン長官は当時、そのような政府の対応を批難し、中国の人権問題をことさら言挙げしていましたが、リーマンショック以降は人権の「じ」の字も出ない状態です。

対米で考えれば中国の戦略は、軍事的均衡と経済的均衡─妥協とも言えます─をコントロールする、経済と軍事の相互確証破壊戦略とも言え、そういう戦略がとれるもの、米国本土へとどく核兵器を所有していることにあることは容易に想像できます。

中国はグローバリゼーションを取り入れつつもローカルな話題─台湾、チベット、ウイグル等─への国際社会の介入、特に米国の介入を断固として許してはいません。

─経済発展は果実、経済政策は幹、では根っこは─

経済全体を一本の木に例えますと、経済政策は幹、その成果としての経済発展は毎年の果実の収穫といえます。そして根っこは外交力、軍事力ではないでしょうか。経済は、特に交易は国際標準的なルールで運用されるのが望ましいですが、各国にはそれぞれ文化伝統があり、そのルールを受け入れるには抵抗がある場合があります。

そのようなとき、ルールを一方的に押し付けられるのか、交渉相手から妥協を引き出せるかは外交力とその外交力の源泉である、軍事力にあると言えるでしょう。中国は経済などあらゆるものを犠牲にし、核開発をして米国と対等な関係を構築してから、遅れはしましたが経済に目を向けました。

わが国は外交、軍事を米国に預けて、同盟という信頼関係をつくることによって、対等な関係を放棄して、経済発展にすべてをかけました。

ですから中国は根っこを充分にはってから幹を形成して─社会主義市場経済という政策─、その太い幹に枝を張り、暴風雨の今日でも、果実を─保八─成らしています。

一方わが国は不安定な根っこでも何とか幹を形成して─護送船団方式や終身雇用、年功序列といった─、果実を収穫してきましたが、不充分な根っこでは幹の成長も限界があり、しかも台風がくると幹そのものが倒壊する恐れまで出てきました。

いまこそ、この中国の戦略に学び、根っこをしっかり生やすことを考えなくてはいけない時期ではないでしょうか。枝が折れているうちはまだ大丈夫ですが、幹その物が倒れたときは、やり直すのに何十年とかかります。

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