文化省の設立を提案する

2009年11月12日 10:00

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授/中村伊知哉

 政府は「通信・放送委員会(日本版FCC)」を設置する方針だ。FCC(米国連邦通信委員会)は数多くの独立行政委員会の一つ。日本にもその通信版を作ろうというのが民主党の案だ。だがこれには反対意見も多いとともに切迫度も低い。日本版FCCは、官僚主導、規制強化、縦割り行政の悪化、を招く懸念があるからだ。


1. 官僚主導
 「独立」行政委員会は、政治からの独立を意味する。政治コントロールが効かず暴走する恐れがある。独立機関の一つに人事院があるが、その谷公士前総裁(元郵政事務次官)が麻生政権の公務員制度改革に反旗を翻したのは記憶に新しい。結局、政権は総裁を退任に追い込めなかった。
 政治から自由になって喜ぶ官僚は、規制強化と密室化を進めるだろう。規制専門の組織は規制を減らすまい。第一、民主党は官僚をコントロールすると言いつつ、なぜ通信・放送だけ切り出して野放しにするのだろうか。
 今すべきことは、組織の独立ではなく、政治主導での政策遂行。行政権限を縮小して、立法=国会と司法=裁判所の機能を高め、行政=政府が肥大した構造を改めて、まともな三権分立を確立することだ。

2.規制強化
 独立委員会には米FCCや仏CSA(視聴覚高等評議会)があるが、いずれも放送局に恣意的で不透明な介入をしている。まずい番組があるとすぐ打ち切り勧告を出す仏CSAは極端としても、FCCも日本であれば問題にならないようなお色気シーンに対し課徴金をテレビ局に課したりする。独立委員会ではないが英OFCOM(情報通信庁)もさきごろITVの放送番組に12億円の罰金を課した。日本はせいぜい行政指導どまりだ。
 米仏は大統領制だ。FCCは議会との権限争いの妥協として設けられた多数の独立委員会の一つ。議院内閣制の日本には不適当だ。戦後、GHQが「電波監理委員会」を日本に導入したが、2年で失敗した教訓も検証しておいたほうがよい。

3.縦割り行政
 規制と振興の分離という主張もある。だが、これはメリットが見出せないとともに、組織設計が困難だ。規制や振興は行政の「手段」だからだ。行政は「目的」(インフラ整備や利用促進など)を各種の手段(規制、振興、技術開発、税制等)で達成するものだ。手段で組織を分けるのはナンセンスである。
 例えば、青少年のネット安全問題は、総務省総合通信基盤局の消費者行政課がフィルタリング措置=規制を進めるとともに、リテラシー教育拡充=振興を担当している。これを分けて誰にどういうメリットがあるのだろう。
 民主党が5年前に用意した通信・放送委員会設置法案に基づき組織設計してみると、振興:規制=総務省:委員会=420人:278人となる(地方機関を除く)。6:4の縄張り争い、二重行政は必至だ。さらなる縦割り構造が生まれ、民間関係者は迷惑するだろう。

 こうした懸念があるせいか、最近、原口総務大臣は「放送局に対する総務省の規制を監視する組織」だと説明している。許認可などの行政権がなく、通信も無関係だというから、これはもはやFCCとは別物の行政オンブズマンのような組織だ。これなら日本版FCCのような弊害は少ない。
 ただし、政府が放送番組に行政指導した例は過去25年で35件だから、この組織の仕事は年1-2件。設置を急ぐほど大事な機関とは思えない。放送業界からも疑問の声が呈されている。BPO(放送倫理・番組向上委員会)という民間団体の機能を国家組織が持つことを恐れるむきもある。
 拙速に結論づけず、十分な検討を求めたい。先にすべき仕事は山積みだ。それは、民主党が選挙向けに掲げた政策indexに「日本版FCC」と並んで掲げた政策集である。Indexには、「通信・放送行政の改革」、「電波の有効利用」、「情報格差の解消」、「NHKの改革」、「地上デジタル放送への円滑な移行」、「インターネットを用いたコンテンツの2次利用促進」という施策が並べられていた。
 どれも急を要する重要案件だ。通信・放送法制を抜本的に規制緩和する「情報通信法」を制定することや、電波オークションを導入することなど、相当な政治手腕を発揮しなければ実現しない改革案である。

 だが、これを進めるに当たって、メディア行政には大きな問題がある。「縦割り」だ。機器:経産省、著作権:文化庁、通信放送:総務省の縄張り争いである。通産省(経産省)と郵政省(総務省)の「戦争」は産業界が終戦を求め続けてきた。近年、コンテンツの経済的重要性が高まり、著作権政策を巻き込んだ調整案件も激増している。ハードとソフトの行政領域はますます融合していくことが必要となっている。
 新政権が行うべきことは、官僚主導を脱し、規制を緩和すること。国民が技術の恩恵を最大限に受けられるようメディア融合を推進すること。コンテンツや情報サービスの国際競争力を発揮すべくソフトパワーを強化すること。つまり、政策indexに掲げたメニューをこなすことだ。その上で、縦割り行政の弊害を打破して政府内の権限を「融合」することだ。
 こうした国家戦略的な政策を担う強力な組織を設計すべきだろう。それは、総務省の通信・放送行政、経産省の機器・ソフト・コンテンツ行政、文化庁の著作権・文化遺産行政、そして内閣官房のIT本部と知財本部を束ねる官庁を作ることである。そして、国交省のフィルムコミッション政策、外務省のソフトパワー政策など各省庁の情報関連政策との連携を強化していく。
 まずは文化庁を中心に据えて、内閣官房のIT本部と知財本部の機能を移管する。総務省の通信・放送3局を移管する。ただし、郵政事業を監督する部局は総務省に残す。さらに、経済産業省の商務情報政策局のうち情報関連の5課を移す。
 この組織を貫く軸は「文化」である。日本は知財や産業文化力で生きていくことになる。国民の創造力や表現力を高め、文化産業を育み、その基盤となるネットワークを整備していくことを担う。このため、組織名は、これもかつて取りざたされたことのある「情報通信省」ではなく「文化省」がふさわしい。
 文化を扱う省であるから、文化大臣は民間人がよいかもしれない。

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