民主党は「国家戦略室」をつくったぐらいだから、戦略と戦術の違いは知っているはずだが、鳩山内閣が発足してからやっているのは、派遣村の村長だった湯浅誠氏を政策参与に起用したり、何が無駄なのかという戦略が決まっていないのに「無駄取り」する行政刷新会議を開いたりする戦術的な政策ばかりで、マニフェストから日米FTA(自由貿易協定)を引っ込めるなど内向きの姿勢が目立ち、グローバルな戦略がない。
特に鳩山氏のグローバル戦略の欠如を示すのが、NYタイムズに掲載された彼の論文だった。「市場原理主義によって人間の尊厳が失われた」とか、「友愛の精神で東アジア共同体を構築しよう」という表現はあまりにも幼稚で、「農業をグローバリズムから守る」という主張に至っては、国境を超える友愛の精神とも相容れない保護主義である。
これは日本経済の置かれている状況を取り違えている。いま起こっている雇用不安は「小泉・竹中改革」によって起こったものではなく、90年代から続く日本経済の長期停滞によるものであり、デフレの大きな原因は新興国からの輸入価格が下がったことだ。そして「格差問題」の背景にあるのは、池尾さんのコラムにも書かれているグローバルな要素価格の均等化である。
とりわけ要素価格の均等化は、グローバルにみると先進国と新興国の格差の縮小なので、止めることはできない。しかしその結果、日本と中国の単純労働者の賃金は限りなく近づき、コールセンターのような単純労働は中国に流出するだろう。このような空洞化による雇用喪失は、アメリカではすでに大きな政治問題になっており、日本でも表面化し始めた。トヨタ自動車は、営業要員の3割を新興国に配置転換する方針を決めた。
こうしたグローバルな格差の拡大や雇用移動はきわめて大規模で不可逆な変化であり、いま国内で起こっている経済不安はその前兆のようなものだ。この変化を避ける方法は――保護主義を別とすれば――労働人口を中国と競合しないサービス業に移行するしかないが、それによって賃金は低下する。これは最低賃金の引き上げを公約した民主党の方針と矛盾するが、鳩山内閣はこの問題にどう対応するのか、何も示していない。
中国のもう一つの脅威は、そのGDPが今年中に日本を抜き、人民元のプレゼンスが高まることだ。現在は政府に強く規制されている為替も次第に自由化され、そのうち人民元が変動相場制に組み込まれ、大幅に切り上げられるだろう。そうなるとアジア各国の企業は人民元で資産を保有して元建てで貿易を行なうようになり、中国がアジアの金融センターになるだろう、とビル・エモット(元Economist誌編集長)は予想している。
今は日本の輸出企業はドル円レートに一喜一憂しているが、そのうち元レートのほうが重要になり、長期的にはアジア各国がゆるやかに人民元とペッグするERM(欧州通貨制度)のようなメカニズムができる可能性がある。これは鳩山氏の夢見る東アジア共同体とは違い、かつて中国がアジア諸国の宗主国だった時代に戻るのかもしれない。
もしこういう状況になると、日本が新興国の追い上げに対応するためのもう一つの戦略である高付加価値産業へのシフトも困難になる。単純な製造業の製品がコモディタイズすると低賃金の新興国とは競争できないので、日本はアジアを生産基地とする中枢機能に特化し、金融やITなどの知識産業に重点を移す必要があるが、このためには東京がアジアの金融センターとしての地位を守ることが不可欠だ。
それには徹底した貿易・資本自由化や法人税の引き下げによってアジア諸国から日本への投資や人材を集め、富をグローバルに投資して有効利用する戦略が必要である。雇用創造も財政再建も、こうしたグローバルな成長戦略なしには不可能だ。民主党は年内に長期的な成長戦略を策定するというが、そのコアとなるのは中国の脅威にどう対応し、どのような協調関係を築くかというポジショニングである。
これは日本経済の置かれている状況を取り違えている。いま起こっている雇用不安は「小泉・竹中改革」によって起こったものではなく、90年代から続く日本経済の長期停滞によるものであり、デフレの大きな原因は新興国からの輸入価格が下がったことだ。そして「格差問題」の背景にあるのは、池尾さんのコラムにも書かれているグローバルな要素価格の均等化である。
とりわけ要素価格の均等化は、グローバルにみると先進国と新興国の格差の縮小なので、止めることはできない。しかしその結果、日本と中国の単純労働者の賃金は限りなく近づき、コールセンターのような単純労働は中国に流出するだろう。このような空洞化による雇用喪失は、アメリカではすでに大きな政治問題になっており、日本でも表面化し始めた。トヨタ自動車は、営業要員の3割を新興国に配置転換する方針を決めた。
こうしたグローバルな格差の拡大や雇用移動はきわめて大規模で不可逆な変化であり、いま国内で起こっている経済不安はその前兆のようなものだ。この変化を避ける方法は――保護主義を別とすれば――労働人口を中国と競合しないサービス業に移行するしかないが、それによって賃金は低下する。これは最低賃金の引き上げを公約した民主党の方針と矛盾するが、鳩山内閣はこの問題にどう対応するのか、何も示していない。
中国のもう一つの脅威は、そのGDPが今年中に日本を抜き、人民元のプレゼンスが高まることだ。現在は政府に強く規制されている為替も次第に自由化され、そのうち人民元が変動相場制に組み込まれ、大幅に切り上げられるだろう。そうなるとアジア各国の企業は人民元で資産を保有して元建てで貿易を行なうようになり、中国がアジアの金融センターになるだろう、とビル・エモット(元Economist誌編集長)は予想している。
今は日本の輸出企業はドル円レートに一喜一憂しているが、そのうち元レートのほうが重要になり、長期的にはアジア各国がゆるやかに人民元とペッグするERM(欧州通貨制度)のようなメカニズムができる可能性がある。これは鳩山氏の夢見る東アジア共同体とは違い、かつて中国がアジア諸国の宗主国だった時代に戻るのかもしれない。
もしこういう状況になると、日本が新興国の追い上げに対応するためのもう一つの戦略である高付加価値産業へのシフトも困難になる。単純な製造業の製品がコモディタイズすると低賃金の新興国とは競争できないので、日本はアジアを生産基地とする中枢機能に特化し、金融やITなどの知識産業に重点を移す必要があるが、このためには東京がアジアの金融センターとしての地位を守ることが不可欠だ。
それには徹底した貿易・資本自由化や法人税の引き下げによってアジア諸国から日本への投資や人材を集め、富をグローバルに投資して有効利用する戦略が必要である。雇用創造も財政再建も、こうしたグローバルな成長戦略なしには不可能だ。民主党は年内に長期的な成長戦略を策定するというが、そのコアとなるのは中国の脅威にどう対応し、どのような協調関係を築くかというポジショニングである。





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中川信博