やっぱりNTTの組織改編は必要だ - 松本徹三

2009年11月18日 00:05

またまたNTT問題で恐縮です。

経済と社会を巡る問題が山積している中で、多くの人達が「NTTの事なんかは別にどうでもよい」と考え、この問題にあまり興味をもたれないのも尤もです。しかし、ここで考えていただきたいのは、NTT問題にも露骨に見てとれる「集票力を持った既得権勢力と政治との野合」です。これを打破しない限り、経済合理性を中核とした「活力ある競争社会」は実現しません。


先に、通称「竹中懇」がNTT問題についても色々な提言をしましたが、当時の片山虎之助総務大臣の鶴の一声で、「2010年まで全ての議論は凍結」ということになりました。これは、その頃には既に「小泉―竹中改革路線」が力を失っていた為、巨大集票マシーンであるNTTの圧力に逆らうインセンティブが、自民党内には全くなかったからです。

11月15日付の日経コミュニケーションを見ると、自民党参院総務委員会筆頭理事の世耕弘成さんは、「NTTの経営形態はNTT自身が考えるべきで、国が考えるべき時期は既に過ぎた」と語っておられます。以前には「時期尚早だから議論はしばらく凍結しろ」と言い、凍結期間がやっと終わった時には「議論の時期は既に過ぎた」というのは、如何にも「あざとい」としか言い様がありませんが、その事はまあいいとしましょう。

問題なのは、多くの人達が、「今のNTTの経営形態は独占時代の弊害をそのまま引きずっているから良くない」と言っているのに、世耕さんは、「それはNTT自身が決めればよいことだ」と言っておられる事です。これは「社会保険庁の管理体制は良くないから、抜本的に変えるべき」と言うのに対し、「社会保険庁の問題は社会保険庁が決めればよい」と答えているのと同じです。要するに、「何事も仲間内でナアナアで決めなさい」ということなのです。

世耕さんは、この記事の終りのほうで、「自民党と民主党の『情報通信を見てきた議員』の間では、大きな対立はない」とも言っていますが、それは当然です。ここで言う自民党議員の世耕さんはNTT出身、これに対する民主党議員の内藤総務副大臣もNTT出身だからです。

NTTから送り込まれてきた議員同士が、与野党に分かれてNTT問題を議論し、「NTTの問題はNTT自身が決めるべきだ。そうだ、そうだ、全くだ。意見の相違がなくてよかったね」と言っているのですから、これでは話になりません。この問題を何度も繰り返して持ち出さざるを得ない私の気持も、お汲み頂けるかと思います。

現状では、与野党両党とも、「技術の事は良く分からないから、分かっていそうな奴に任せておけ。但し、NTTの組織票だけは取ってきてね」という事のようなのですから、これでは日本の情報通信産業はよくなるわけはありません。

この問題については、池田先生は「独禁法に任せればよい」というお考えのようですが、私は少し意見を異にします。何故なら、通信事業というものは、「元々が独占だったものを、国が関与して人工的に競争状態を作り出そうとしているもの」であり、通常の産業と異なるからです。また、元々競合が成り立たない「自然独占」分野も含まれるので、話は更にややこしくなります。

原口総務大臣は、「メタル時代にはNTTはドミナント事業者だったかもしれないが、光時代もそうなるとは限らない」と言っておられますが、皮肉にも、これは正反対で、「メタル時代には、NTTがまあまあフェアと言える条件で施設を使わせてくれたので、競争が実現し、そのおかげで日本では世界一低価格のブロードバンドサービスが実現したが、光時代になると、NTTがルールを変えたので競争が不可能になり、NTTの市場シェアが急上昇、現状では独禁法上の疑義が十分成立する状態になっている」というのが実態です。

「それなら、さっさと独禁法で提訴したら」と言われるかもしれませんが、訴訟には延々と時間がかかり、その間NTTは、これ幸いと、目先の採算性があまり良くない光ファイバーの敷設を遅らせる可能性がありますから、日本の通信網の近代化自体が遅れてしまうという問題が生じます。そもそも、情報通信事業に取り組んでいる私達は、何もNTTと喧嘩して嬉しいわけではなく、本来は手を携えて日本を世界一の水準に持って行きたい訳ですから、法廷で争うのは最後の最後と考えたいのです。

さて、ここで本論に入ります。

NTTの組織改編が何故必要かについては、先回は「技術開発力」の問題に絞って私の見解を述べさせて頂きましたが、これは話の本筋からはちょっと離れた議論です。それでは、何故私が敢えてその問題を真っ先に持ち出したかといえば、NTTには、昔も今も、「通信技術の国際競争力」という話を持ち出して、技術の事が良くわからない一般の人達を煙に巻こうとする傾向があるので、「あらかじめ先手を打っておきたい」と考えたからに他なりません。

今回は、「情報通信産業の競争力」とは「ユーザーが享受するサービスの質が高く、価格が低いこと」であるという「本来の真っ当な見地」から、本質的な話を進めたいと思います。

何度も同じ話を繰り返して恐縮ですが、サービスの質を上げる為にも、価格を下げる為にも、先ずは「競争」が何よりも重要なことには、誰にも異論はないと思います。(尤も、「コスト構造上競争が成立しない」ケースもありますので、これは、「経済合理性」の問題として、別途検討しなければなりませんが…。)

従って、「NTTの組織が今のままでもよいかどうか」という問題は、とどのつまり、「今のままで、健全な競争がなされうるかどうか」という問題と同じ事であるということになります。それならば、この問題は、NTTではなく、NTTの競争相手に聞くのが一番の早道であることに、疑問の余地はないのではないでしょうか?(NTT自身は、本当は競争なんかしたくない筈なのですから。)となれば、この問題を検証するタスクフォースは、先ずはここから出発すべきです。(すぐにでもNTTと競争している会社を呼んで、意見を聞くべきです。)

ここで少し具体的な話に入りますが、今後の通信ネットワークを語るにあたって、先ず真っ先に理解しておかなければならないのは、現在NTTが盛んに言っている「NGN」というもののことです。NGN (New Generation Network)は、「これまでのような『ベスト・エフォート』ベースだけではなく、『品質を保証することも出来る』IPネットワーク」のことであり、「近い将来、世界中の通信ネットワークは全てこういうものになる」と考えられています。

従って、「NGN」という言葉自体は普通名詞のようなもので、別にNTTの専売特許であるわけではないのですが、問題は、NTTがこれから売っていく「NGN」は、NTTが建設して所有する「光通信網」の上に構築され、NTTが開発する種々の「アプリケーション・サービス」と一体になるものであるということです。つまり、「上から下まで全てNTTの色に染め上がったもの」なのです。

NTTにすれば、「自分で何もかも独占しようとしているのではありません。光通信網は貸し出しますから、大いに使ってください。アプリケーション・サービスに関心のある方は、色々なものを開発して、我々のNGNの上でどんどんサービスを提供していってください。しかし、我々をバラバラに分割して、『一括サービス』が出来ないようにするというような愚かなことはしないで下さい。そんなことをしたら、世界的な競争に負けないような『一括サービス』が出来なくなってしまいますから」と言いたいところでしょう。

これは一見尤もな要請のように見えますが、もしそれが、「競争力のある『一括サービス』が出来るのはNTTだけであり、他の誰も同じことは出来ない(ハンディキャップが大きすぎて競争出来ない)」という事態を招くのであれば、これは、「今後の情報通信サービスの本流となる『NGNベースの一括サービス』については、競争が存在しなくなる」ことを意味し、最終的にNTTの独占回帰を認めることにつながってしまいます。従って、先ずは、この点をしっかり検証しれなければならないのです。

問題はどこにあるかといえば、「他の会社がどうしても敷設できない光回線網」と「NGN」が一体不可分になるという「構造」です。これは「MicrosoftのOSと一体不可分になったapplicationをMicrosoftが販売すれば、他のapplication会社は競争できなくなる」という構造と似ています。それ故にNetscapeは破綻に追い込まれ、Microsoftには独禁法上の罰則が課せられることになったのです。

「各家庭まで光回線を引き込むのに必要な『管路』や『とう道』は、明治以来、NTTだけでなく電力会社も持っていたではないか。だから、少なくとも東京電力の市内回線網を買収したKDDIは、NTTに十分対抗できる筈ではないか」ということはよく言われます。しかし、既にKDDIは、「全国展開の出来るNTTとはとても対抗できない」と申し立てています。

「大都市部では辛うじて競争が実現できても、地方では競争は無理」ということになれば、地方はNTTの独占にならざるを得なくなり、大都市部と地方との格差は開くばかりになります。そして、これをどうするかという問題を突き詰めていけば、最終的には「NTTの組織問題」に言及せざるを得なくなる事は目に見えているのです。誰が見ても、解決策は「アクセス部門(0種分野)のNTT本体からの分離」、ないしは、最低限、「会計分離が誰の目にも明らかになる分社化」しかありえません。

ですから、「NTTの組織問題先にありきの議論はおかしい」というのは正しいとしても、「NTTの組織問題を議論する時期は既に過ぎた」というような暴論(前述)は、決して許されてはならないのです。

ガリレオ・ガリレイは、保守的な聖職者達から責め立てられても、「それでも、地球は回っている」と呟いたと言われています。私も、色々な気兼ねはあっても、やはり「それでも、NTTの組織再編は必要だ」と言い続けざるを得ません。原口総務大臣も、「アピール21」が多少嫌な顔をしても、「それでも、国の将来の為に、『チェンジ』は必要だ」とおっしゃって欲しいものです。

松本徹三

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