新聞の没落はジャーナリストのチャンス - 池田信夫

2009年12月05日 10:28

毎日新聞が共同通信の配信を受けるというニュースは、業界以外の人にはほとんど何のことかわからないでしょうが、意外に重要なニュースです。そもそも今まで毎日新聞が通信社の配信を受けていなかったというのが奇妙です。共同通信社は本来、新聞・放送各社にニュースを配信するためにつくられた社団法人だからです。


海外の新聞は、官庁や警察などの発表ものは通信社がカバーし、その配信記事を見て独自に取材しますが、日本の新聞社は記者がクラブに1日中べったりいて通信社の役割をかねているので、全国紙は共同通信を脱退してしまいました。今回の毎日の決定は、日本の新聞が金食い虫の記者クラブや地方支局を整理し、コア部門に「選択と集中」して経営を効率化する第一歩でしょう。

欧米では一足先に新聞社の経営破綻が相次ぎ、アメリカでは公的資金による救済も検討されています。日本の新聞がまだそれほど深刻な状況になっていないのは、宅配制度によって固定客を維持し、ネット配信を制限するなどのカルテルの効果でしょう。それを公取委が指摘すると、特殊指定のときのように、政治家まで動員してカルテルを守ってきました。しかしこのようなカルテルは、長期的には業界を衰退させるだけです。その影響は、毎日や産経あるいは地方紙のような弱い部分から出始めました。

あらゆる情報がデジタル化される時代には、その価格が限界費用=ゼロに近づくことは避けられません。マイクロソフトとルパート・マードックがやろうとしている検索エンジンの制限も、うまく行くと見る向きはほとんどない。基本的には、メディアはアクセスを集める「フロントエンド」と割り切り、集めたアクセスを広告やイベントなどの方法で収益化するしかない、というのがここ5年ほどのWeb2.0の実験の結論です。

これはメディア産業にとって、悪い話ばかりでもありません。新聞のコストの4割は販売経費であり、残りの半分以上も印刷機などのインフラや管理部門で、記者は社員の1/4程度しかいない。その半分近くも整理部などの間接部門で、記事を書く記者は1000人もおらず、そのほぼ半分が地方支局に勤務しています。ウェブベースに移行すれば、インフラのコストはゼロに近く、レイアウトに労力を費やす必要もなく、もちろん販売経費はゼロです。記者の人件費だけなら、ウェブメディアで回収できる可能性はあります。

20世紀に新聞やテレビなどの大衆メディアが成立したのは、電波や輪転機などのインフラが稀少で、その独占によって利潤を上げることができたからです。しかしインターネットによってインフラの稀少性がほとんどなくなった現在、独占利潤が崩れることは避けられない。それにしがみついて利権を守ろうとすることは、最終的にはかえって破局的な結果をまねくでしょう。

しかしメディアのコアである取材・編集機能の価値は、むしろ高まるでしょう。特に日本では、ブログやSNSなどの個人メディアに読むべきものがほとんどないので、大組織に囲い込まれていた記者が個人ベースで情報発信すれば、ビジネスとしてやっていける可能性もあります。世界各国でも、沈んでゆく在来メディアを脱出したジャーナリストが、個人メディアを立ち上げるケースが増えています。

アゴラもBLOGOSも、そういう質の高い個人メディアを支援するプラットフォームを作ろうという試みですが、コストが人件費だけなら採算に乗せることはむずかしくないし、初期投資が少ないのでリスクも小さい。新聞社には未来がないが、本当に実力のあるジャーナリストにとっては、メッセージを世界に発信できるチャンスではないでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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