NTT再々編より完全民営化を - 池田信夫

2009年12月18日 16:01

アゴラで、当事者の松本さんがNTT問題について発言しておられることは重要です。今までこの問題では、NTTも競合他社も当局との摩擦を恐れて発言しないため、「NTTの独占はけしからん」というマスコミ的な感情論と「国際競争のためにはNTTの規模が必要だ」というNTT御用学者の無内容な論争が続いてきました。NTT側の反論も歓迎します。


中曽根内閣でNTTの分割・民営化の方針が出たとき、NTTが分割に反対した最大の論拠は研究開発でした。これはナンセンスで、今やNTTの研究所は事業会社から巨額の「上納金」を召し上げるお荷物です。NGNのエッジルータも「NTT」と書いてあるのは外側だけで、中身はシスコのOEM。世界中のどこにも、NTTのように12も研究所をもっているコモンキャリアはありません。通信機器は完全にコモディタイズし、ベンダーの技術のほうがはるかに進んでいるので、キャリアが開発する意味はない。

ただし10年前の再編で地域会社と長距離会社に分割したのは大失敗で、インターネット時代に電話時代のインフラに合わせて分割した「ねじれ」が今も続いています。このためNTTにとっては、地域会社が全国レベルで営業できるようになることが悲願で、かつては再々編を働きかけていました。ところが地域会社の県間営業がなし崩しに認められ、NGNでは一体営業できるので、「寝た子は起こさない」というのが現在の経営陣の方針です。

ここに日本の通信規制の特殊性があります。どこの国でもインカンバントは規制の撤廃を求めてロビイングを行なうのですが、日本ではNTT民営化から25年近くたっても政府が1/3の株式をもち、それを完全民営化してほしいという声が出てこない。むしろNTT経営陣は「ものいわぬ安定株主」として政府がいることを望んでいる。他方、競合他社も政府の非対称規制で「NTTより少し有利な条件」でレントを上げるビジネスモデルを築いたため、完全民営化を望んでいない。

このようにNTTも他社も政府に依存している状況が、日本の通信業界全体をだめにしています。先日も慶応のシンポジウムで言ったことですが、「NTTが強い」というのは過去の話で、今や日本の通信業界全体が(キャリアもベンダーも)世界市場の負け組です。大事なのは、規制を撤廃してグローバルな競争を実現することで、そのためにはNTTの完全民営化が不可欠の条件です。もちろん今のまま自由にするわけには行かないので、民営化のためには何が必要かを考える必要があります。

ひとつの考え方はNTTの水平分離ですが、NTT法を改正して再々編するのは時代錯誤です。そういう特殊会社法は、もう霞ヶ関でもやめようというのが常識です。情報通信法の検討が始まったときは、NTT法を廃止してレイヤー別の一般的な規制に移行する方針でしたが、これはその後撤回され、NTT法は残ることになりました。これでは情報通信法はほとんど意味がなく、抽象的な原則を羅列した拘束力のない法律になりそうです。

欧米でも水平分離の考え方にそって、ローカルループ・アンバンドリングの規制が行なわれましたが、うまく行かなかった。インカンバントの設備を第三者に利用させるのはむずかしく、いろいろな意地悪ができるからです。アンバンドル規制が成功したのは日本だけで、それはソフトバンクの冒険的な事業によるところが大きい。光ではそのソフトバンクも苦戦しているので、この方向で問題を解決するのはむずかしいでしょう。

私はむしろ、有線と無線を分離したほうがいいと思います。世界的には、有線のキャリアが携帯電話サービスを行なった国はうまく行かず、まったく新しいプレイヤーが参入した国では競争が促進されています。NTTグループの中でも、ドコモは独立したいのに持株会社が(連結営業利益の9割をかせぐ)ドコモへの支配力を強めているのが現状です。NTT法を廃止すると同時にドコモをMBO(Management Buyout)で独立させ、NTTは有線通信の会社として自由にしてはどうでしょうか。

松本さんは有線と無線の競争は成り立たないというのが持論ですが、私はそうは思いません。NTTのFTTHは赤字で、それほどうらやむべきビジネスとは思えない。100Mbps以上の速度を求めるユーザーは多くないので、価格さえ安くなればLTEでもWiMAXでもFTTHと競争できるでしょう。問題は、帯域が不足しているために有線と競争できる価格で無線インフラが建設できないことです。この点で、2011年に470~806MHzの周波数を全面的に開放することが決定的に重要です。政府の介入しないプラットフォーム競争を実現する制度設計を考えるべきだと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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