教員養成課程6年制の失敗予測 - 岡田克敏

2010年01月12日 11:56

 朝日新聞には1ページを使ったオピニオン欄があり、けっこう面白い記事が載ります。少なくとも記者が書いたものより面白いものが多いようです。

 昨年の12月26日の同欄には元河合塾理事の丹羽健夫氏の「養成過程6年制?教員の質 下げますよ」というたいへん興味深い記事が載っています。簡単に話の要点を紹介しますと、6年制にすることにより志望者が激減し、教員の質が低下するというわけです。例として先行した薬学部のケースが示されています。


 「2006年に薬学部が6年制になったとき、私立の薬学部志願者は前年の14万人から9万人に減りました。その後も減り続け、今春の入試では8万人になった。その結果、河合塾のデータによると、50台だった偏差値は軒並み7ポイント以上、下がりました。10~20ポイント下がったところもたくさんあります」
「(教員養成系大学の)合格者の平均偏差値は現在でも53。これは国立の系統別偏差値の中で最も低い芸術・体育系に次ぐ低さです。(中略) 40台に落ち込む可能性が高い」
「そういう子が6年間の大学の授業に耐えられるのか、授業についていけるのか、危惧を感じます」
「せっかく6年かけて教員免許を取っても、正規の教員になれるのはごく一部です。当然志願者は減るでしょう」

 刈谷剛彦氏は教員養成系学部の偏差値が近年5ポイント程度低下していると、既に指摘していますが、それに加えての7ポイントはたいへん大きな数値です。

 また、民主党が07年に策定した教員養成課程6年制はフィンランドの修士課程を意識したもののようだが、フィンランドでは教員養成系大学の志願倍率が10倍程度なのに対し、日本では平均2.5倍だと書かれています。

 丹羽氏の話はたいへん説得力があり、偏差値の低下はまず免れないと思われます。民主党の考える6年制は偏差値の低下を無視したものか、それとも教育期間を2年延ばすことによって偏差値の低下を十分補えると考えたものかの、どちらかでしょう。

 教育の重要性から考えれば、教員の資質に直結する偏差値の低下は非常に重大な問題であり、それを低下させるような施策はたいへん危険です。2年間の延長による効果はそれに比べると小さなものでしょう。

 民主党は昨年の衆院選のマニフェストで「養成課程は6年制とし、養成と研修の充実を図る」と明記し、1月7日の定例会見で鈴木寛文部科学副大臣は6年間に延長する制度改正を論議するため、有識者会議を近く省内に設置する考えを示しています。

 養成課程6年制の背景には学生の資質よりも教育の可能性に期待する素朴な楽観論(参考)があるのでしょうが、「ゆとり教育」と同様、失敗する可能性が高いと私には思われます。

 民主党が養成課程6年制というマニフェストを作成するにあたり、どのような専門家の意見を取り入れたのか気になります。政府の当事者に専門家並みの知識を求めることは無理かもしれません。しかし様々な専門家の意見から適切なものを選択する能力、そのための見識が必要なのは言うまでもありません。

フィンランドには優秀な学生が教員になる仕組みがあるようですが、その前にそれを実現した優秀な行政機構があるものと想像できます。優れた政策担当者→優れた教員→優れた教育という順序です。何よりも必要なのは政策担当者に優れた人材を配置することです。

 「ゆとり教育」の結果とされる学力低下が大きく注目されるようになった契機のひとつは「分数ができない大学生」という本でした。著者の岡部恒治氏と戸瀬信之は数学者、西村和雄氏は経済学者であって教育学者ではありません。別のきっかけはPISAの調査結果ですが、いずれも日本の教育界の外部からもたらされました。

 もしこのような外部からの批判がなければ、ゆとり教育はいまだに続いていたかもしれません。基礎資料を得るための全国学力調査は日教組の反対によって1966年に中止され、全面的に再開されたのは学力低下が社会問題になった2007年です。学力調査を否定してきた日本の教育界は果たして、教育の成果を調査・評価し、よりよい方向を目指すという機能があったのか、少し疑問に思います。

 日教組は「ゆとり教育」に強い影響を与えてきましたが、民主党政権の有力な支持母体ともなれば、さらに影響力を強める可能性があります。6年制を論議する有識者会議のメンバーの人選が気になるところです。

 教育政策の結果は何年も先になって現れます。失敗は取り返しのつかないもので、国家的な規模の損失を招きかねません。養成課程6年制を掲げる民主党政権に正しい判断を果たして期待できるでしょうか。ゆとり教育の失敗を繰り返すようなことにならなければよいのですが。

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