遅ればせながら「公開会社法」について  -前田拓生

2010年01月16日 20:18

少し旬を外してしまいましたが、「公開会社法」について・・・

「今回の公開会社法にて、被雇用者をガバナンスに反映させることにより、労働分配率を上げる効果も期待できます」ということですが、どうなのでしょうか。そもそも「被雇用者」、特に正社員の場合、給与は事前に決まっているはずですから、事後に当該企業の業績が予想以上に高くなったからといって「労働側への分配を高める」というのは如何なものかと思ってしまいます。

まぁ、業績連動の形で「ボーナス」部分をある程度高めるのは良いのでしょうが、予想以上に業績が悪くなった場合にリスクを負うのは株主ですから、結果として生まれた付加価値は株主に分配するのは当然であり、事後になってから労働への分配を云々するというのは問題だと思います。

さらに、「大企業は内部留保を沢山ため込んでいるので、それを雇用の促進に活用すべき!!」という議論があるようですが、この点も問題があると思います。 感情的には「労働者の稼いだものをピンハネしたものなのだから、労働者に還元すべきである」というのは理解できますが、「だから」といって、一旦「内部留保」になっているものを「どのように」また「何に使う」というのでしょうか?

これからは「労働分配率を引き上げて、内部留保を減少させましょう」(注)というのならば、ワークシェアリングなどとの関係も含めて「そうかもしれない」と思いますが、現状ある「内部留保」を「如何に使うというのか」という点について「労働側に分配しよう」というのは大いに疑問があるところです。

(注)とはいえ、そもそも「内部留保」できるくらいに利益が出るか否かが、今後の経済状態からみて問題だと思いますが。

会計的に「内部留保」とは、利益を配当として社外流出させるのではなく、利益剰余金などの名目で社内にため置いたモノということですから、資金調達サイドの項目です。したがって、現実に資金運用サイドである会社の資産の中で「現預金などで積み立てている」という種のモノではなく、「会社の資産」の中に溶け込んでしまっているのです。つまり、会社の資産の中の「この部分が内部留保です」というモノではないので、労働者のために資金提供をするのであれば、当然(資産が減少するので)、会社の体力は現時点よりも減退させる結果になります。

現状、そうでなくても厳しい経営であり、「労働者を切らなければならない」くらいに追い込まれている企業に対して、このような行動が「現実的な話」といえるのでしょうか。もし、そのような余裕があるのであれば、「労働者を切る」という荒技に取り組む必要はないのです(ここでは「非正規労働者等の雇用関係の問題」を云々しているわけではなく、あくまでも「内部留保と雇用の関係に絞って議論をしている」ので、その点は予めご了承ください)。

ここでの誤解は「内部留保が多い」と「キャッシュが多い」が「等式になっている」と考えているからではないでしょうか。つまり、「国の埋蔵金」のような発想がそこにあるのかもしれません。しかし、これは必ずしも等式が成り立つわけではありませんし、仮に内部留保が厚く、しかも、「キャッシュを沢山持っている」としても、「だから」といって「労働者を切るな」「労働者の支援に使うべきだ」という議論に、直接、つながる話でもありません。

「内部留保を潤沢にする」のは、企業が債権者に対して安心感を持たせることができ、長期的に安定的な経営基盤を構築することができるからです。例えば、企業が事業に失敗し、それによって欠損が生じても、内部留保の厚い企業であれば、(内部留保を含めた)資本項目によってカバーでき、債権者に迷惑をかけなくて済むことから、債権者の安心感につながるのです(債務超過になる危険性が少ないことになります)。

債権者の信頼を失えば、どのような企業でも存続さえ危ぶまれる結果になってしまい、「雇用云々」というレベルの問題では、もはや、なくなってしまいます。

このように「内部留保を活用して労働者救済へ・・・」という文脈は、会計的には全くつながらない内容なのです(「内部留保を如何にするか」というのは、資産サイドの問題ではなく、負債・資本サイドの話だからです)。内部留保の積み立てが多いのは、現状のように厳しい景気状態を想定して、当該企業が過去に利益を積み上げてきた結果なのです。現下の経済状態で内部留保が少なければ、当該企業は債務超過になる可能性が高まり、企業自体が倒産することもあります。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑