NTT問題、松本さんとの議論もこの辺で - 原淳二郎(ジャーナリスト)

2010年01月26日 15:36

松本さんとの議論もこの辺で終わりにしようと思います。読者の方はしばらくの
ご辛抱を。

松本さんは「核心の議論は、光アクセス網を建設し運営する部門を、現在のNTT
の組織から分離するべきか否か」という一点と書いていますのでこの点に絞って
書くことにします。


まず、その分離の議論は光アクセスはNTTしかできないという前提があるから
です。私はその前提を疑えといっているのです。

松本さんの主張「分離しなければ、最終的にユーザーの利益が損なわれる。ま
た、全国網の建設が遅れ、デジタルデバイドの解消も遅れる」は説得力に欠けます。

新潟県に朝日村という過疎地があります。合併で村上市になったのですが、税金
と国からの補助金で全戸に光アクセスを建設しました。住民はインターネットア
クセスを自由に選べるのですが、住民の3分の1しか契約していません。NTT
は需要のあるところから光を敷設する方針ですが、公社にして広くあまねく光
ファイバーを建設し、デジタルデバイド解消するのもいいのですが、インター
ネットアクセスの需要がなければ赤字になるのは目に見えています。いずれ適切
なアプリが開発され、需要は出てくるとは思いますが、ペイするまでの赤字はだ
れの負担になるのでしょうか。

電話は戦後ずっと供給不足でした。国民に電話債券を売りつけて資金需要をまか
なう一方、べらぼうな加入金と基本料をとってきました。その基本料は加入者の
少ない地方ほど安く、大都市の基本料は高く設定されていました。法律でユニ
バーサルサービスが義務付けられ、政治的に通信料金が設定されたせいです。民
営化後も日本の通信料金は先進国に比べ高止まりしていました。このことをまさ
かお忘れではないでしょう。公社というビジネスはこういうことです。光アクセ
スを公社にしたらどういうことが起きるか、明らかです。

「最終的にどちらの言い分を取れば、国民の利益につながるか」を十分に議論す
ることこそが、今最も必要なことであり、NTT再編問題の核心は解きほぐせる」
という松本さんの主張には賛成しますが、消費者そっちのけでNTTとそのライ
バル事業者が議論するテーマではありません。

「おいしい水を供給する第二水道会社を作ることを誰かが思い立ったとしても、
各家庭まで新たに水道の管路を施設することは、100年経っても回収できないよ
うなコストがかかるでしょう。通信回線も基本的には似たようなところがありま
す」という議論は前回の繰り返しになりますが、比ゆは適切な例をとらないとと
んだ誤解を読者に与えます。電柱や洞道(地下配管)がないと光ファイバーが敷
設しにくいのは事実です。しかし、現実は電柱にはCATVや有線放送のケーブ
ルが一緒に架けられています。電力とNTTしかケーブルが敷設できないのな
ら、CATVは事業化できなかったはずです。

光アクセスはNTTにとっても赤字であることは前回指摘しました。競合事業者
が光アクセスを敷設することはNTTに比べ難しいことから、政府はNTTの光
の卸売り価格を規制しています。現在は一本当たり4600円くらいです。これ
を8分岐して小売しているわけですから、原価は小売価格の8分の1くらい10
数%です。卸価格が公定料金とはいえ、消費者から見ると原価がこんなに安いの
になぜ小売価格が高いのか納得できないところです。

競合事業者はこの卸価格でも高い、8分岐した価格で卸してくれと主張していま
す。そもそも光ファイバーを8分岐したり32分岐したりするのは光アクセスが
NTTにとってもコスト的にペイしないからで、技術的には分岐は不必要なこと
です。本来なら電話線のように各戸に一本づつ光ファイバーを引くのが技術的に
は素直なのです。

しかし、NTTでも8分岐した光アクセスが全部売れているとは限らないので
す。聞くと8分の3ないし4まで販売できれば黒字になるそうです。つまり、分
岐した光を卸してくれというのは、光アクセスが売れないといっているのと同じ
なのです。

2010年3000万光回線という目標をNTTは下ろしました。2000万回
線も難しいといってます。NTTがサボっていたからでしょうか。先の旧朝日村
のように光が来ても使いこなすだけの需要がないからです。いま光アクセスを全
国あまねく敷設するユニバーサルサービスとしてNTTに義務化したら、旅客も
いない過疎地にバンバン鉄道を引いた旧国鉄や、車もほとんど走らない地方に高
速道路を建設し続けた旧道路公団と同じ轍を踏むことになります。何十年たって
も負債は返済できないで結局国民の税金で穴埋めするしかなくなります。

ブロードバンドがまだ来てない地方にいる人の中には、私の意見に賛成はできな
い人もいるでしょう。地方自治体が税金と補助金で光のネットワークを建設した
例がいくつもあります。しかし、うまく運営できずに四苦八苦している例がいく
つもあります。光ブロードバンドを何に使うのかがはっきりしていないと、地方
自治体に大きなつけとなってのしかかります。経済が高度成長している時期なら
先行投資の意味もあるでしょう。しかし、需要のない地域に高速道路や高速鉄道
をバンバン建設できる時代ではもうないのです。

わが家には光が来ています。ベストエフォートで100メガが最高速度ですが、
100メガなど出たことはありません。NTTの向こう側つまりインターネット
のどこかにデータの流れが滞るボトルネックがあって高速アクセスができない事
情があります。現在のネットサービスは光の能力を生かしきれていないのが現状
です。

世界を眺めると日本ほどバカ正直にブロードバンド化を進めている国はありませ
ん。にも関わらず行政にせよ民間にせよ国民や消費者にとって好ましいサービス
が提供されてはいません。ADSLで行政のワンストップサービスを提供してい
るデンマークにも日本は先を越されています。医療、教育などでも見るべきブ
ロードバンドサービスはほとんどありません。これは光アクセスの問題、NTT
の組織問題なのでしょうか。

光の卸売りと小売の会計分離についてはすでに実行され、公開されています。卸
価格は先に触れたように認可料金になっています。事実上NTTが競走上有利で
あることから政府が介入しているのです。この価格レベルが高いか安いかは見る
人によって違うでしょうが、高いというのなら認可した政府に文句をいうのが筋
で、NTT組織問題にすりかえるのは間違いです。仮にNTTを水平分離したと
ころで独占インフラ会社の卸売り料金は認可料金にせざるをえず、現在の認可料
金と変わらないものになるでしょう。

かつてNTTが独占していた電話の加入者回線の開放問題があり、衆知を絞って
現在の接続制度ができたわけですが、そういう歴史をまず勉強しなければなりま
せん。光アクセスになって、公平公正な競争上その接続制度のどこかに不都合が
あるなら、なぜ不都合なのか、コストは妥当なのか、を明らかにしなければ議論
にならないでしょう。

長くなるのでこの辺で終えますが、続きの議論をお望みならいつでもどこでもお
受けいたします。

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